ネットで動画CMを「視聴」する時代がくる
- Vol.84
- 株式会社CMerTV 代表取締役社長 五十嵐彰さん
業界のタブーを打ち砕くCM配信
まず、株式会社CMerTVを設立されたきっかけをお教えいただけますか?
私はもともと広告業界で働いていたのですが、その頃からかねがね「日本には、もっとしっかりしたCMのメディアが必要ではないか?」と考えていたんですよ。 既存のCMにも面白いものや興味深いものはたくさんありましたが「番組の最中に割って入る」という性格上、どうしてもCMは嫌われ者でした。そんなマイナスの状態で製品やサービスの情報を届けても、十分な宣伝効果を得るのは難しいのでは?というのが長年の疑問であり課題だったんです。 その問題を解決するために、CM配信のタイミングや仕組みから変えていきたいと考えたのが、CMerTV設立のきっかけでしょうか。
では、具体的にはどうやってインターネット上のCMを見せる仕組みを作るのでしょうか?
一言で表現するなら、我々のスタンスは「プッシュ型(受動的)」ではなく「プル型(能動的)」だということです。
先ほどの例で言えば、テレビCMは「問答無用で見させる」プッシュ型の配信でした。 例えば家電製品のCMにしても、家電に興味がある人にもない人にも等しく届けていたわけです。それもまた製品の周知のためには必要な宣伝活動かもしれませんが、CMerTVの考えは異なります。 我々は「こんな製品が買いたい」という目的を持っている消費者に、素早く、有用な情報を狙い撃ちで届けたいと考えています。 例えば「ノートパソコンを買いたい」を考えた時、今までであれば、消費者は自ら各メーカーのサイトを回ったり、口コミサイトを探して情報を調べたりしなければなりませんでした。ですがCMerTVにアクセスすれば、各社のノートパソコンのCMをひとつのサイトで一気に見比べることができるんです。
競合メーカーのCMを同時に配信しているんですか!?
はい。これはテレビCMの世界ではタブーですので、当初、広告業界の知人からは「そんなことできるわけないだろ!」と言われましたよ(笑)。テレビCMの業界では、例えばA社というスポンサーからパソコンのCMをもらっていたら、同じ番組の中で、B社やC社のパソコンを同時に紹介することはできませんからね。 しかしながら、スポンサー自体からの反発はほとんどありませんでした。むしろ各社とも、競合製品が並ぶことで得られる相乗効果に着目してくださったようです。 「ここに来れば各社のCMが見比べられる」という一括配信のサイトができあがれば、消費者にとっても、メーカーにとっても情報のやり取りがしやすくなりますからね。 また、もうひとつのメリットとして、CMの閲覧数を解析することで人気のCMがわかるという点があります。これを応用して競合製品のCM閲覧数を比較すれば「同じような製品でも、A社のCMは人気があるが、C社はいまひとつ」というように消費者からのCMに対する評価がわかりますので、今後、新たなCMを作る際の参考にもなると思います。これはテレビのような一方通行のCM配信方法ではわかりえない、非常に重要な情報です。
バリューチャンネルとリモコン機能が生み出す効果的なCM配信
CMerTVではスポーツやバラエティ番組などの配信もしているそうですね。
はい。バリューチャンネルと題して、スポーツや旅行、いざという時に役立つハウツー、そして鉄道映像など、様々な動画を無料で楽しんでいただけますよ。例えば「ワールドスポーツ速報」というチャンネルがあります。サッカーや、今年はロンドンオリンピック関連情報など、現地で配信された試合やニュースを4時間以内に翻訳テロップを付けて、迅速にお届けしています。 将来的には、バリューチャンネルで、動画の横に番組との親和性が高いCMへのリンクを配置したいと考えています。例えばスポーツ番組の横にはスポーツ用品や健康関係の製品が並ぶ、といったような具合のターゲッティングですね。 これにより、視聴者には無料で動画を楽しんでいただきつつ、もしも興味のあるCMがあれば自発的にクリックしていただく、という仕組みとなります。視聴者が望んでいないCMが強引に流されることはありません。我々のCMは、あくまでもプッシュ型ではなくプル型ですから。 また、視聴者の趣味や関心に合わせたCMを配信することにより、CTR(クリック・スルー・レート。広告がクリックされる割合)も高い数値を獲得しています。 我々の「プル型CM配信」の発想が、視聴者にとってもスポンサーにとっても実りあるものだと認められたようで嬉しいですね。
そのCM自体にも便利な楽しみ方があるそうですね?
リモコンに付随した各種機能ですね。CMerTVでは、CM動画下部の「リモコンでもっと詳しく」ボタンをクリックすることで、さらにそのCMに関連した細かな情報、お得な情報を引き出せるんですよ。 この「リモコン」を表示することで商品サイトに簡単に移動できるほか、プレゼント等のキャンペーンに応募したり、試供品をもらえる製品モニターに応募したりもできます。 実際に使ってみていただくとわかりますが、この「リモコン」は単なる操作アプリケーションではなく、消費者と企業をより便利に、迅速につなぐことができる機能となっています。 例えばテレビCMの場合、懸賞に応募しようとすると、ハガキを用意したり、後でわざわざパソコンを立ち上げてURLを入力したりといった手間が必要なわけですが、CMerTVなら、リモコンから簡単にアクセスできます。また、メイキングなどの特典映像も見れますから、ぜひリモコン機能を試していただきたいですね。
CM配信の新たな地平を拓く
では、今後の展望などについてお聞かせください。
少し前までは「CMをわざわざ見に来る人がいるの?」と、我々の新しい試みに不安を抱いていたスポンサーや視聴者の皆さまも、最近ではCMerTVの価値を認めてくださり、たくさんのご依頼をいただいています。 おかげさまでCMerTVでは現在、260本ほどのCMを配信していますが、今年度中には1000本を超えるCMを揃える予定です。当社の売り上げも、今年はすでに4月末までの時点で昨年の年間売り上げと並ぶ勢いを見せており、我々の今までの積み重ねが実を結んだという実感があります。 とは言え、浮かれたりするつもりはありません。目先の利益だけを追うのではなく、我々のサービスを認知していただくための着実な努力を重ねていこうと思います。 そして、ゆくゆくはパソコンから閲覧するばかりではなく、CMerTVがスマートフォンのトップページに表示されるアイコンのひとつにまでなれたら嬉しいですね。 他にも、居酒屋の注文用のパネルで動画を無料配信するとか……とにかく「デジタル」とつくもの全てに関わっていきたいですね。今は、そのための土台作りの時期だと考えています。
――最後に、クリエイターへのメッセージをお願いいたします。
今までの国内のインターネット広告は、「Flashバナー」全盛とでも言うべき時代が続いていました。海外ではすでに動画での広告が広まっているのですが、日本は独自のFlashバナー文化が花開いてしまっていたんです。 ですが、これからの広告配信は変わります。各家庭のインターネット回線も高速化していますし、何より、動画配信に含まれる情報量はFlashバナーとは段違いです。CTRにおいても、動画CMはFlashバナーに比べて3~5倍の結果が期待できると言われていますので、視聴者にとってもスポンサーにとっても有益な情報交換ができると確信しています。 ですから、これからはブラウザやスマートフォンに表示するのに適した短時間の動画を作れる人材が求められていくと思いますよ。そういった新たな人材の成長に我々も期待しています。
■本文関連サイト:CMerTV http://www.cmertv.com/
取材/2012年6月19日 取材・文/笠間裕之