「VR技術×おばあちゃんの写真」でタイムマシンを作る! Tプロデューサーの無茶ぶりから始まった「1964 TOKYO VR」
- Vol.149
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一般社団法人 1964 TOKYO VR
代表理事・土屋 敏男氏
代表理事・齋藤 精一氏
面白いことを形にしようと思ったら、無茶ぶりブーメランが返ってきた
土屋さんと齋藤さんは長いお付き合いなのですか?
齋藤さん:いえいえ、お付き合いはここ1年半くらいで、短いんです。土屋さんと一緒にVRドラマを作る企画に参加させてもらったのがきっかけです。最初は「どんな無茶ぶりをされるんだろう」とビビりながら会いに行きました。
土屋さん:僕に初めて会う人はみんなアイマスクを付けられると思っているみたい(笑)。
「土屋さんといえばアイマスク」という印象は確かに強烈に残っていますよね……。このプロジェクトはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
齋藤さん:ドラマの制作現場で、カヤック※1さんが作った「鎌倉今昔写真※2」の話題で盛り上がったんですよね。鎌倉の今と昔を写真で見比べられる、SNSにアップできるアプリです。
※1 面白法人カヤック:https://www.kayac.com/
※2 鎌倉今昔写真:http://kamakura.konjyac.com/
土屋さん:「鎌倉今昔写真」には私も発起人として関わっていて、とても良い企画だと思っていました。ちょうどVRドラマを作っていたタイミングだったので、「今昔写真とVRを組み合わせたら面白くない?」と思いついて。
齋藤さん:このアプリは一般の人を巻き込んでいて、地元の高校生なども協力しているんですよね。僕も、とても面白いアイデアだと感じました。
土屋さんはなぜ齋藤さんに声をかけたのですか?
土屋さん:VRについては技術的なことがいまいち分からない。それで齋藤さんに相談したんです。
齋藤さん:ハイレベルな知識やリソースをすべて内製で調達しようとすると時間がかかってしまうので、技術的な部分を検討し、3D設計に強みを持つオートデスク※3さんの協力を得ることにしました。
※3:オートデスク株式会社:https://www.autodesk.co.jp/
プロジェクトは一般社団法人を立ち上げて進めていますが、日本テレビとの関係は?
土屋さん:日テレとは何も関係がなくて、僕の個人事業として始めたんです。「面白いことを形にしたいな」という思いが強くて社団法人にしちゃいました。
齋藤さん:土屋さんは、「面白いこと」に反応する反射神経がすごいですよね。さっさと決めて、どんどん前に進めようとする。周りもどんどん巻き込んでいく。
土屋さん:とは言え、「ちょっと無茶かなぁ」と思いながら齋藤さんに相談している部分もあったんですよ。でも齋藤さんは「やりましょう!」とすぐに返してくれるから、僕のほうでも次の展開をどんどん考えていかなきゃいけなくなって。無茶ぶりブーメランが返ってくる感じでした(笑)。ちなみに僕はこのやり方を「萩本欽一主義」と呼んでいるんです。
「萩本欽一主義」?
土屋さん:萩本欽一さんは、やりたいと思うことをどんどん実行していく。小さいことから始めて、それが面白いものだから、結果的に周りの人が巻き込まれていくんですよ。普通はこうした企画があると「テレビ番組にして視聴率を取ろう!」とか考えてしまう。そうじゃなくて、とにかく始めてみて、人が集まってくるのを待っている感じです。日テレの事業でやるとなると、めちゃくちゃ時間がかかってしまいますからね。
齋藤さん:ちなみに萩本欽一さんは、1964 TOKYO VRの賛助会員第一号になってくれたんですよ。
1964年の渋谷は、今につながる良い素材が得られるタイミング
土屋さんは過去に、「人生を映像化する」というコンセプトで個人の生き方を伝える「LIFE VIDEO」という事業を立ち上げていますね。
土屋さん:年を取ってくると、最新技術に触れるのが面倒くさくなるんです。でもそんな人にこそ最新技術が必要だと思っていて。古い写真は、放っておくと失われてしまうじゃないですか。VRという技術を使って近代史を記録に残すことは、絶対に今やらなきゃいけないことだと思っています。これはLIFE VIDEOの考え方に近いかもしれませんね。やる人がいないからやっている。80歳や90歳のおじいちゃん、おばあちゃんが記憶の片隅に持っている風景や、擦り切れたモノクロ写真でしか見られない風景をリアルな映像で再現したいんです。
齋藤さん:Google Earthが出てきたときに、僕たちは「地球の隅々まで一瞬で行ける」という衝撃を受けましたよね。VRで記憶を映像化できるということのインパクトは、これに近いんじゃないかと思っています。
現在は「1964 Shibuya VR」として、まずは渋谷から映像化する試みを始めているかと思いますが、なぜ1964年で、なぜ渋谷なのでしょう?
齋藤さん:まず1964年にしたのは、オリンピックを機に新幹線が走り始め、首都高ができ、記録媒体のカラー化が進み始めた時期だからです。今の東京につながる良い素材が得られるタイミングだと思いました。渋谷は「谷」という文字に象徴されるように、かつては渋谷川が流れていた土地で、今でこそ中層ビルが増えていますが昔は全然違う風景だったんですよね。そんな対比もしやすいと考えていて。
土屋さん:渋谷は先進的な考え方の人が多いから、協力者が見つかりやすいんじゃないかという思いもありましたね。
齋藤さん:実際に東急電鉄さんにアイデアを持って行ったところ、とても前のめりで賛同してくれました。1964年当時の写真をどんどん出してきてくれた。選び抜いても400枚残っているんですよ。渋谷区長の長谷部健さんにも、土屋さんと僕で会いに行きました。
土屋さん:区長も最初は「アイマスクをされるの?」と言っていましたね(笑)。
写真が集まれば、1964年の甲州街道をすべて見られるかもしれない
今回の企画では、一般投稿でも1964年当時の写真を募っています。どのようにして写真を集めているのでしょうか?
土屋さん:東急電鉄さんや長谷部区長から、渋谷区内の町会長さんを紹介してもらったんです。面白いのは渋谷のシニアクラブ。60歳以上の渋谷区民はなんと3,500人もいるんですよ。今ではこの方々とパイプができ、「写真が見つかりましたよ!」という連絡がどんどん届いています。
齋藤さん:投稿の仕方もいろいろあります。写真を郵送していただくのはもちろん、ネット上でアップしていただくこともできます。スキャンやアップのやり方を若い人が高齢の人に教えるようになって、コミュニケーションを取る機会になったらいいな、とも考えています。
どんな写真が集まることを期待していますか?
齋藤さん:オリンピック関連では、1964年、開催当時の渋谷の写真は欲しいですね。聖火ランナーが走っていたり、マラソン競技をやっていたりする写真です。
土屋さん:実際に、幡ヶ谷をマラソン選手が走っている写真をお寄せいただいているんですよ。東京オリンピックのマラソンコースは、甲州街道(国道20号)を現在の味の素スタジアムあたりまで走って、折り返してくるというものでした。当時沿道で選手を応援していた人たちから写真が集まれば、甲州街道をすべて見られるかもしれない。必ずしも鮮明じゃなくていいので、ぜひ投稿してほしいです。
齋藤さん:ちなみにこの写真には、東京オリンピックでマラソン初の2連覇を果たしたエチオピアのアベベ・ビキラ選手が写っています。よく見るとPUMAのシューズを履いているんですよ。「アベベ、PUMAだったんだ!」って驚きました。
土屋さん:こうした興味深い写真はもちろん、みなさんが「普通の写真」だと感じているものも貴重な史料だと思うんです。ご家庭のアルバムにあるちょっとした渋谷のスナップ写真や家族写真でも、ぜひお寄せいただきたいですね。1964年に限らず、前後10年くらいの誤差があっても大丈夫です。
プロジェクトの夢は「1964 Japan VR」へ
実際に形になるまでには膨大な作業が必要になると思いますが、どのような体制で進めているのですか?
土屋さん:バンタンデザイン研究所やデジタルハリウッドの学生さんに、画像を3次元にしていく 作業を手伝ってもらっています。少ないけれど、ちゃんと時給も払っているんですよ。
齋藤さん:正直なところ、人手はまだまだ足りていなくて。テックサポーターとしてCGを作ってもらうための協力者が必要なんです。だから、クリエイターさんにももっと注目されるとうれしいです。技術がない人でも、集まった写真をスキャンするとか、お願いしたいことはたくさんあります。
改めて、お二人はこのプロジェクトを通してどんなことを伝えたいと考えているのでしょうか?
土屋さん:最新のテクノロジーを使って、機械学習でどんどんスピードも上がり、写真1枚から昔の東京の風景を立体化できる時代です。その技術と押し入れに眠っているおばあちゃんの写真を組み合わせれば、昔の東京へ行けるタイムマシンが実現する。これが面白いんです。ちゃんとした事業計画があるわけではないし、ペースもゆっくりではあるけれど、人が集えば集うほどスピードアップして、面白いタイムマシンができるのではないかと考えています。
齋藤さん:何よりも、僕たち自身がそのタイムマシンを見てみたいんですよね。これが不動のモチベーション。
土屋さん:考えるとワクワクしますよね。ゆくゆくは、モノクロ写真の中の風景に入り込めるかもしれないし、AIを使って写真の中の人々が動き始めるかもしれない。
齋藤さん:「期限が迫っている」という焦りもあります。今やらないと、アナログ時代の資料が失われてしまうかもしれない。写真を提供していただければ、その風景を永遠に残していくことができます。
夢が広がっていきますね。こうなると、「1964 Japan VR」の実現も期待してしまいます。
齋藤さん:実際のところ、さほど壮大な夢でもなくて、実現できると思っています。オリンピック以降も大阪万博など全国各地で大きなイベントが開かれているので、同じ考え方で日本中の写真を集めていきたいんです。
土屋さん:テレビ局はもちろん、読売新聞などの報道機関にも協力してもらっているので、貴重な写真がたくさん集まっています。
齋藤さん:現在進めている「1964 Shibuya VR」では、ある程度写真が集まった段階でVR映像を体験できるような機会を作り、みなさんにも驚きを共有したいと思っています。ぜひ楽しみに待っていてください。
取材日:2017年12月7日 ライター:多田慎介
一般社団法人 1964TOKYO VR
過去の写真・画像を個人や法人から広く収集し、バーチャルリアリティの技術により都市の過去の街並みを再現し、都市の街並みの変遷とその素晴らしさを周知することを目的として設立される。現代の3D技術により収集した街の写真をVR 化して公開し、プロジェクトに参加した人が実際に体験出来るように活動を行っている。https://1964tokyo-vr.org/
テックサポーター募集のお知らせ
一般社団法人1964TOKYO VRでは、過去の写真から「記憶の中の街並み」を再現するプロセスに関わり、プロジェクトの発展を技術面から支えるテックサポーターを募集しております。
- 対象
- - 3DCGソフトウェアの使用経験がある方
- - または、現在勉強している学生の方
また 本プロジェクトへ参加希望のテック企業も広く募集しております。
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