WEB・モバイル2021.07.14

Web制作はAIに淘汰される? ファジカは「人の感情」に寄り添うブランディング企業へ

新潟
合同会社ファジカ代表社員/アートディレクター・チーフデザイナー
Ryoko Yamashita
山下 良子
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サスティナブルな選択肢を届けられるブランディング企業へ向けロゴも一新

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新潟県村上市にあるカフェ&お菓子屋さんのコンセプトケーキのブランディングで制作した缶のデザイン

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間伐した竹を100%使用した「竹紙」のA4ファイル

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幼稚園のブランディングの一環でラッピングバスのデザインも担当しました。

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美術を専攻していたので、手書きラフを打合せでつくりながらお客様とイメージを共有することも

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小中学校のキャリア教育に行ったり、 「未来Hacks」というデザイン思考のセミナー講師をする機会もいただいたり…

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オフィスには粟島直売所ばっけ屋さんのWeb企画とあわせて制作したスタッフ用Tシャツを飾っています

接近戦のコミュニケーションで紐解いた企業メッセージを、振り幅のあるデザインで的確に世の中に届ける、合同会社ファジカ(新潟市中央区)の創業メンバーで代表社員、アートディレクター・チーフデザイナーの山下良子さんにお話を伺いました。どこかひとの気配がするようなデザインに込められた社会へのアプローチの深さや志は、これからのデザイン会社やWeb制作会社が生き残っていく上での重要な方向性を示しています。

 

教師からパソコン教室の先生…異業種からWebデザイン制作会社の立ち上げ

元々山下さんのキャリアのスタートは、クリエイター職ではなかったそうですね。

大学では教育学部美術科で、自然や立体物に映像を投影するインスタレーション作品を作っていました。今のメディアアートに近いですね。そこから仕事にするなら映像関係、特にCM制作を希望していましたが、地元の企業は当時2人の採用枠に200人くらいが受験するような就職難の時期で。

そこで教育学部に在籍していたこともあり、教員採用試験に挑戦しました。運良く合格し、卒業後は中学校の美術教師の職に就きました。東京で働くことも一瞬考えましたが、人の多さから「埋もれて潰れてしまう」と、選択肢からはすぐに外しました。

先生の経験があるクリエイターというのは珍しいですね。


でも、自分がやりたいことと教師ができることの間に大きなギャップや限界を感じて、教師は1年目の一学期で退職しました。その後デザイン会社の門も何社も叩きましたが、Macが使えず業界経験もなく採用には至らずで。結局デザインとは関係のないバイトを掛け持ちしながら食いつないでいましたね。

どのようにして今のWebデザインの業界キャリアが始まったのですか?


ようやく就職できたのが、パソコン教室に運営兼講師として。教師の「教える」スキルを武器にして (笑)、専門知識は一夜漬けで友達に習って入社に漕ぎ着けました。

しかし2003年ごろですね、早い段階で世の中的にパソコン教室が尻すぼみになっていったんです。

そこでどうするか考えました。社内にデザインができる私、SE、そしてカメラができる現在のファジカ共同代表を勤めている小林がいたので、3人でチームを組んでWeb制作の仕事を始めたんです。実は会社に無断で(笑)。

大胆ですね!


当時は珍しかった360度全方位上下も見られる「QuicktimeVR」を武器に営業をして、デザイン的にも当時としては挑戦的なサイトを作ったりしていました。

企業内の一事業として4年ほどやって、2007年にクライアント企業の子会社という形で独立。当時は「株式会社ファジカ」で、2013年から完全に独立した現在の「合同会社ファジカ」になりました。

山下さんがデザイン会社やWeb制作会社に勤めた経験はないというのは驚きです。


同世代の人よりも実績がなくて、仕事になってきたのは30歳くらいからだったので、当時はずっとプロとしての自信を持てないでいました。同時に小林が元々は営業職出身でお金への感覚がしっかりしていて、「自分が描いたロゴでそんなにお金をいただくなんて」と私が言っても、小林は「これだけの時間と労力をかけているんだから」ともっともな説明をする。だから金額に追いつくために、お客様に失礼のないように必死でスキルを磨いたんです。

一番興味があったロゴを追求しようと、ベースになるタイポグラフィを学びに、仕事をしながら東京の講座に通ったりもしました。そこでは技術的なものはもちろん、プロとして切磋琢磨し合える仲間がたくさんでき、刺激し合う。それは地方では見られない景色だと感じられて。私が目指す方向もそこで見えてきた感覚があります。

 

サスティナブルな選択肢を届けられるブランディング企業に

「IROGINGA」というSDGsとデザインを掛け合わせた弊社と
(株)バウハウス、社会福祉協議会との共同プロジェクト
(写真:2020年のイベントでコラボした
「障がい者福祉施設 さんろーど」スタッフのお二人)

ファジカの現在の事業内容を教えてください。


Webサイトの企画制作から企業ブランディング、ショッププロデュース、ロゴやキャラクターの制作などを行っています。例えば、日本三大白生地産地・新潟県五泉市(ごせんし)の伝統産業から生まれたストールブランド「絽紗」(ろしゃ)は、ブランドロゴから商品パッケージ、Web制作、ムービーの企画制作、コピーライティングなど多岐に渡っています。他にもデザインに携わる中で、ネーミングやテキストなど“書く”お仕事をいただくことも多いですね。

ちなみに現在、ファジカの方向性をリニューアルしようとしています。

伝統産業から生まれたストールブランド「絽紗」

と、言いますと?


ブランディングに特化した会社に舵を切ろうと思っています。

制作物は自分やお客様にとっては宝物ですが、最終的に物質としては、いつかは不要なものになってしまいます。デザイナーを始めた時からその社会的責任も感じながら仕事を続けてきました。そのジレンマから仕事を辞めて自然に寄り添う暮らし方を始める人もいますが、それは根本的な解決にはならない、と思いました。私が辞めても代わりの人が作るだけなので。

そこで、サスティナブル、つまり持続可能な選択肢を作って、お客様に選択の余地を届けられれば意味があるんじゃないかと思ったんです。

Webとかデザインを謳う前に、そういった考え方から入れる、SDGsに配慮したブランディングが得意な会社と覚えられるように努力しています。

具体的にはどんな取り組みをされているのでしょうか?


これからのブランディングには環境への配慮が外せないと思います。弊社としてもそこは常に意識しており、例えば今日お渡しした名刺は竹を使った「竹紙」で作られています。これはアースデイ東京や伊勢丹のフリーペーパーにも採用されている、間伐した竹を100%使用した紙です。

今、大きな環境問題の一つに放置竹林問題があり、竹紙はすごく理にかなっている商品。もともと新潟ではほとんど取り扱いがないものでしたが流通経路を構築して、お客様の制作物を作る時に提案のひとつとしてご提示しています。あと最近では、福祉とアートとの関わりに携わる事業にも力を入れて活動をしています。

 

心を開き、人と、企業と、社会とのハブになりたい

お客様との関係づくりはもちろん、社内でも配慮はしても遠慮はNGです

 

デザインツールありきではなくて、関係性や共感が山下さんを動かしているようにも思います。


もともと私はデザインオタクじゃないんですよ、最近気づいたけど(笑)。もちろんデザインの美しさは追求しますが、そこに喜びを見出すよりも、制作物がその先、どんな場面でどう役立つかが大事ですね。デザインは手段であって、目的ではありません。

時にはファジカはお客様同士もつなぎ、そこから新しい相乗効果が生まれることもあります。ファジカは、SDGsのハブになりたいし、人と人とのハブにもなりたいんです。

ただ、なあなあは嫌いなので、きちんとビジネスとしての線引きはしています。

仕事を受けるなかで、一番嬉しい時はどんな時ですか?


どんなに一生懸命ヒアリングしても、お客様の意向や好みを全て完璧に把握はできません。なので、早い段階から「違和感がある場合にはすぐ、おっしゃってくださいね」とお願いしています。我慢される関係が我慢ならないんです(笑)。そのためにもまず、自分から心を開いて接することを意識しています。

だからこそ、仕事をしていて一番嬉しいのは次の仕事を頼まれた時。リピートされるのは前の仕事がうまくいったからだと思うので。

 

AIが台頭してくる時代、ファジカは人の感情に寄り添う企業に

山下さんがこれから実現していきたいことを教えてください。

私たちは大きいことはできないけれど、小さいことにもちゃんと意味があると思っています。

クリエイティブが素晴らしい会社はたくさんありますが、成果物のその先を見据えて動いている会社は多くないと感じていて、そこまでご提案できる部分は、結構誇れるかなとは思っているんです。

なので、小さなアプローチの積み重ねから、ちょっとずつでも社会の変化を起こしていけたらいいなと思っています。

地方で活動するクリエイターやクリエイターを目指す人にアドバイスをお願いします。


今、地方はクリエイターにとってすごくチャンスがある場所だと思っています。コロナを機に大都市にいた力のあるクリエイターの方々が地方に移住したり戻ってきたりしていて、地方のクオリティが全体的に上がっていると感じます。

そういう方たちに会えたり、学んだりする機会が増えたので、地方での活躍を目指す人には非常にいい環境になっているのではないでしょうか。オンラインでできる仕事が増えて、チャンスもどんどん公平になってきていると感じています。

クリエイティブ業界への入り方はどうでしょう?山下さんが経験されたように、難しい部分もあります。


私自身、業界未経験・スキルも足りなくて門前払いを受け続けて、デザイナーの道を諦めたこともありました。そこでファジカでは、10年ほど、新潟大学教育学部美術科の学生をアルバイトに起用しています。

弊社で実務経験を積み、スキルを上げたことで、Uターン先の地元の広告代理店や制作会社に就職できたり、ファジカの正式メンバーになった人もいます。

ファジカではどのような人と一緒に仕事をしたいと考えていらっしゃいますか?


人間味がある人ですね。Webも単価が下がってきているし、これからの時代、AIやロボットがどんどん進化してきて、単なる制作を行う部分はお客様から求められなくなっていきます。効率的で汎用的なテンプレは多分AIができますから、極論を言うとWeb制作会社は淘汰されていくと思うんです。ですので、これからはデザイナーもAIとの差別化をしないといけません。

そこで改めて考えると、やっぱり無くならないのは人の感情です。ファジカはコンテンツにこだわり、人の感情に寄り添うデザイン会社でありたい。AIではできないわずかな違い、感情が動く部分を拾えるようにしていきたいし、そこに共感できる人と一緒にやっていきたいですね。感情に寄り添う会社こそがデザイン会社・Web制作会社の進化した形だと思います。

取材日:2021年06月11日 ライター:丸山 智子

合同会社ファジカ

  • 代表者名:山下 良子、 小林 功(共同代表)
  • 設立年月:2013年11月
  • 事業内容:企業・店舗ブランディング、インナーブランディング、CI、Web制作、写真撮影、動画企画制作、商品パッケージ、コピーライティング等
  • 所在地:〒950-0973新潟県新潟市中央区上近江4-2-20日生第2ビル2F
  • URL:https://fagica.jp/
  • お問い合わせ先:025-280-1052

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