グラフィック2021.10.20

デザインの仕事は、「お客さまの想い」という種に「水」をまいて育てること

札幌
株式会社ワッカ 代表取締役/アートディレクター/グラフィックデザイナー
Chiho Onodera
小野寺 千穂
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株式会社ワッカは、札幌を本拠地とするデザイン会社です。磨けば光るダイヤの原石のように、まだ伝えきれていない魅力にあふれる「ローカル」にこだわり、デザインの力で地元・北海道のさまざまな事業や文化を支えています。

グラフィックデザイナー・アートディレクターとして、活躍の場を広げ続けている代表取締役の小野寺千穂(おのでら ちほ)さんに、北海道でデザインにこだわる理由、デザインの力、そして社名に込めた想いなどについてお話を伺いました。

 

水のように不可欠な存在として、水が種を育むように北海道を育てたい

社名「ワッカ」の意味を教えていただけますか。

ワッカとは、「水」を意味するアイヌ語です。大地に水をまくように、お客さまの事業をデザインで育てていきたい。大地に水をまくように、北海道の文化をデザインで育てていきたい。北海道でがんばる事業主の方にとって、水のように不可欠な存在になりたい。そういう想いで、社名をワッカとしました。ミッションは「想いの種から生まれた芽を、デザインで育てる」です。

小野寺さんにとってアイヌ文化は身近なのですか?

アイヌ民族の方々が今なお多く暮らす浦河町(※)に4年ほど住んでいました。特にゆかりのある場所ではありません。友人が地域おこし協力隊に就任したため、ふらっと遊びに行ったところ、すごく気に入って移住してしまいました。

2年ほど経ったとき、アイヌ民族の伝統文化を絶やさないように活動している「浦河アイヌ文化保存会」の方に誘われ、アイヌ舞踏や歌、料理を教わる機会があり、デザイナーとしてアイヌの方々の芸術的センスや感性に心を打たれました。以降、会社を設立した際には社名はアイヌ語にしようと決めていました。

※浦河町(うらかわちょう):北海道・日高地方に位置する、人口1,200人の町。夏は涼しく冬は温暖、雪が少ない海洋性気候で、特産品は日高昆布や夏いちごなど。競走馬の生産地として名高い。

浦河で生活をしてみて、何か変化はありましたか。

まず、信頼関係をつくる大切さを知りました。遊びに行くのと暮らすのとでは、まったく違う。地元に溶け込むには、やはり時間がかかりました。すぐには受け入れてもらえませんが、一度時間をかけて築いた信頼関係はすぐに壊れません。いまも当時繋げていただいたご縁をきっかけに、浦河のデザインに微力ながら関わらせてもらっています。浦河での経験があるから、長い時間をかけても、少しずつ縁を繋いでいくことを大事にしています。

あとは、仕事に対する価値観が大きく変わりましたね。1999年から2011年までの12年間、東京の制作会社で働いていたときは、大企業の仕事や大きな予算の仕事、恰好いい仕事を手がけることに価値を見出していました。そんな暮らしを続けていた2011年、東日本大震災に遭遇し、ふるさとの札幌にUターンしました。

とはいえ住まいを移しただけで、東京の制作会社に在籍したまま仕事を続けていたため、仕事の内容にはほとんど変化はありませんでした。そして2014年、浦河への移住を機に個人事業主として独立しました。地元・北海道の、しかもローカルの世界に飛び込んでみて驚きました。

「磨けば光るダイヤの原石のような魅力がそこらじゅうにゴロゴロと転がっている!」と。それ以来、ローカルの文化や資源に目がいくようになり、地域にこだわったデザインを行っています。

 

株式会社ワッカを設立して、社会に還元するという意識が高まった


制作事例1

制作事例2

会社設立のきっかけをお話しいただけますか。

両親共に自営業で事業を経営している姿を見ていたため、自分もいつか会社を作りたいとは思っていました。でも具体的な計画はまったくなかったですね。

個人事業主5年目で法人成りしましたが、東京から北海道にUターンしたり、個人事業主になった時と同じように、今回もいろいろなタイミングが重なって、その流れに乗って法人化してしまったという感じです。

何年も先の計画を立ててそれに向けて突き進むことも恰好いいですが、自分はその時々で流れにのって、よりよい方向に進む生き方が合っているのかなと思います。

法人化して変化はありましたか?

まだ1人だけの会社なので、環境の変化はあまりないですね。ただ、仕事のやり方や意識はかなり変わりました。法人化前は、私がデザイナーとして一人でできる範囲のことを請け負っていましたが、いまはプロジェクトごとにチームを組んで仕事をすることが多くなりました。そして、会社は社会の「公器」であり、自分の力を社会へ還元しなければならないという意識がより強くなりました。

 

お客さまの想いという種がないと、水をまいても芽が出ない★


制作事例3

制作事例4

仕事をするうえで大切にしているのは何でしょうか。

ご縁を大事にしています。浦河で個人事業主として独立して以来、特に営業活動というものをしたことがなく、すべて紹介から縁を繋いで、何とかやってきました。浦河に4年、釧路に3年ほど暮らしてみて実感したのは、ローカルは良くも悪くも噂が広がりやすく、それを逆手にとることで人に知ってもらえる機会も増えるということ。

現に「小野寺さんというデザイナーがいて、こんなことをしてくれるらしい」という話がじわじわと広がって、独立したての時は想像以上にたくさんの仕事の相談が舞い込んできました。それだけ、デザイン関係の困りごとを抱えている人が地域にはいるんだという発見がありました。なので、採算度外視で相談にのったり、デザインまわりのちょっとしたお手伝いをしたりと地道に活動し、ご縁を育ててきました。

あとは、当事者意識をとにかく大事にしています。その場の空気やその土地の人々の気質に触れたうえで、彼らに寄り添い目線を合わせて当事者にならないと、商品やサービスの本質的価値は表現できない。

現場目線を持たない人が現地に行って、パッと打ち合わせだけして帰って仕上げるデザインは、見た目は恰好いいけど借り物のように感じることがあります。だから、私は「北海道に住んで」、「北海道のデザインをする」ことにこだわっているのです。

小野寺さんが考える「良いデザイン」とは?

一生かけて追求する難しいテーマですが、いままでの経験からいうと、「本質的価値を表現すること」が自分の考える良いデザインなのかなと思います。

そのためには、お客様自身が志を持ち、自分たちの商品やサービスに誇りを持って、絶対に売るのだという熱意を持つことがとても大事です。そしてデザイナーもお客さまと同じくらい、当事者意識を持って一緒に完成させる、そんな意気込みで挑まないと本質的価値を引き出すデザインは生まれません。

だから、お客さまにまずじっくりとお話しを聞くところからすべては始まります。デザインをご提案する際も、その想いを受けて、どのような意図でこのデザインになったかをしっかり説明します。そして、デザインの意図を理解したうえで、自らの意思でデザインを選ぶ、というお客さま自身の当事者意識が重要なのです。

さらに言うと、世の中に良いデザインが増えるためには、デザイナーだけの努力だけではなく、お客さまの「デザインを見る目」を養わないといけません。

いいデザインを見極められる発注者が増えないと、世の中によいデザインは増えないからです。そのためにできることはまだまだあると思っています。

 

よいデザインがわかる発注者が増えると、世の中によいデザインが増える

制作事例5

ワッカで一緒に働く仲間を増やすという計画は?

まだ会社を創業したばかりということもあり、いまのところは考えてはいません。ただ、人生は何があるのかわからないので、またご縁ができたら流れが変わっていくのだと思います。

「ワッカ(水)」という社名には、自分で流れを決めるのではなく、水のように流れに身を任せるという意味も込めました。今後もより良い流れに身を委ねて進んでいきたいですね。

クリエイターへのメッセージをお願いします。

人との縁を大事に。仕事というのは、必ず人が運んでくるものだからです。スキルは続けていれば自然と身につきます。

とはいえ、ご縁を生かすためには、実力があってこそですし、信頼関係を築くための日々の地道な積み重ねも必要です。すべての種まきは必ず将来芽となって息吹き、あなただけのオリジナルな景色を見せてくれます。素晴らしい世界を目指して、一緒にやっていきましょう。

取材日:2021年9月3日 ライター:一條 亜紀枝

株式会社ワッカ

  • 代表者名:小野寺千穂
  • 設立年月:2020年12月
  • 資本金:50万円
  • 事業内容:・商品ブランディング・コンセプト作成・パッケージデザイン・ロゴデザイン・パンフレット・ポスター、ちらし・ウェブサイト・イラスト
  • 所在地:〒065-0000 北海道札幌市東区北12条東13丁目2-31
  • URL:http://onoderachiho.com
  • お問い合わせ先:chihosh@gmail.com

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