「見たことのないものを作りたい!」 それこそが、ものづくりにおける第一歩目の衝動

Vol.138
THE DIRECTORS GUILD 映像ディレクター 小島淳平(Junpei Kojima)氏
Profile
1973年東京生まれ。「THE DIRECTORS GUILD」主宰。CMディレクター/演出家。武蔵野美術大学短期大学部専攻科卒業。Y!mobile「ふてネコ」シリーズ、キリン氷結「あたらしくいこう」シリーズ、カネボウ化粧品「KATE TOKYO」、など。

その時代の世相を映す鏡とも言われているテレビCMですが、コンプライアンスという名のもとに、かつてのような勢いのある作りは影を潜めつつあります。しかしそのような制約のある状況でもアイデアを駆使して、インパクトのあるCMを世に出すべく奮闘し続けているクリエイターもたくさん存在します。今回は“おもろワールド"な視点で、ヒットCMを連作中のCMディレクター・演出家、小島淳平さんの登場です。CM制作の世界に踏み込むこととなったきっかけから、現場での気づきなどを振り返りながら、小島さんならではのクリエイティブな視点やものづくりの衝動の源を探っていきたいと思います。

父親からの何気ない一言で、CMの世界の面白さに気づく

WEB上で公開されているインタビュー記事を拝見したところ、CM制作の面白さや可能性に気づいたのは高校生の頃だったそうですね。

そうなんです。将来のことをなんとなく考えていたときに、父からの一言に気づきがあったんですよね。小さい頃からテレビのCMを見ながら、なんやかんやと生意気にもよく突っ込んでいたのですが、「こうすればいいのに、もったいない。自分ならこうしたオチが作れるのに」みたいなことを言っていたら、父に「お前のCMに対する視点や捉え方、それってかなり面白いと思うよ」って言われたことがあって、それがCMって面白い存在なのかもしれないって、気づいたきっかけでもあるんです。

具体的にCMの制作自体に興味を持つようになったきっかけは覚えていますか?

当初はCMではなくて、広告のグラフィックがきっかけでした。美大系の予備校に通っていた時代に、アートディレクターの大貫卓也さんが手がけたラフォーレ原宿のポスターが駅のホームにバーンと出て、それはおばあちゃんからチーマーまで、みんながショッピングバッグを持っているポスターだったのですが、当時のファッションの最先端でもあるラフォーレ原宿のポスターにチーマー(一般人)の人を出してしまうというアイデアがとにかく衝撃的で、広告業界って遊びがあってかっこいいって思ってしまったんですよね。大貫さんのグラフィックにヤラれてしまったので、まずは美大でグラフィックを専攻するようになりました。

美大を卒業後、プロダクションに入社して、CMの制作に携わるようになるわけですが、初めてディレクションをしたお仕事のことは覚えていますか?

CMを1本ディレクションできるようになるまでに、普通は5、6年ぐらいかかるものなんですが、僕は入って半年ぐらいで1本撮ることになってしまって。まだまだ何も学んでいない状態なのに、プロデューサーと代理店の方に「これぐらいだったら君にもできるでしょ」って担ぎ出されてしまったんですよね。本当に何も知らない状態で放り出されたデビュー戦でした。

そこから1年ぐらい現場を経験して、学ぶべきこと、答えがわかるようになってきて、自分でプレゼンから制作まで初めてフルで関わったのが「アイフル」のお仕事でした。「どうする〜♪アイフル〜♪」っていう、ブレイクした子犬が登場する「くぅ〜ちゃん編」の一つ前のCM「ツーリング編」だったのですが、それが自分にとっての実質的なデビュー作です。下積みをあまり踏んでいないのに、この作品が非常に話題になってしまって、そこからはトントン拍子で面白いお仕事がくるようになりました。

その頃いろんな気づきがあったかと思いますが、印象深いエピソードがあれば。

今も昔もCMの世界は、当然といえば当然なのですが、クリエイティブ・ファーストではなくてクライアント・ファーストである事が多いです。とある仕事で、クライアントの意向に添うために、自信があった自分の最初の案ではなく、自分では面白くないと思っていた別の案を形にしてしまったことがあるんです。「今の方が面白くないですか」って少しは抵抗しましたが、「いや、こっちでお願いしたいんです」というクライアントの言葉に頷いてしまったんです。

オンエア後にそのときのジャッジが間違っていたと気づくわけですが、今の言葉で言うとまったくバズらなかったんです。制作過程で枝分かれするポイント、ポイントに僕がいて、そこの瞬間におけるジャッジをちょっとでも誤ってしまうと、パラレルワールドではないですけど、違う次元のものができてしまうんだなぁと痛感しました。あのときの僕のファーストプランは、今でも間違っていなかったと思っています(笑)。

ものづくりの第一歩目の衝動は、“自分が見たことがないものを作りたい“ということ

ソフトバンク Y!mobile 1980 SHOCK! ディスコ
博報堂+ツクリテ+TOKI+AOI Pro 2016

2004年には若手のクリエイターが集う場として、ディレクター集団「THE DIRECTORS GUILD」を盟友の芳賀薫(はが かおる)さんたちと立ち上げて、そこから快進撃が始まっていくわけですが、ここでちょっと作品に触れていきたいと思います。まずは「Y!mobile」シリーズ。空前の人気作となった感じがします。

もともとはふてニャン単体でシュールにやっていたものでしたが、桐谷美玲さんと絡むようになってから派手さが増してきた感じですね。実は、ふてニャンの声は僕なんですよ。最初は猫がつぶやくセリフを僕が試しにアドリブで入れてみたら、周りのクリエイティブスタッフやクライアントの方々が面白がってくれたんです。最初は、ナレーターを起用したほうがいいと思っていたのですが、自分がやったほうがいろんなアドリブを臨機応変に試せるので、トライしてみたらいい結果に。初めての経験でしたが面白かったです。桐谷さんと直接アドリブ合戦をしたり、そのときの気持ちはまぁ完全に俳優ですよね(笑)。

Y!mobile 光おトク割 ふてニャン ガラケー回収車
博報堂+ツクリテ+AOI Pro 2015

「オープンハウス」のシリーズでは、織田裕二さんのコミカルで可愛らしい部分が大爆発しています。

織田さんは見せ方をわかってくださっていて、逆に最初から面白がってノッてくれました。「こういうものはやり尽くしたほうが面白い」というのがお互いの暗黙の了解としてあった上に、「今のは面白い、面白くない」とハッキリ言い合える関係性があったので、織田さんと一緒に楽しんで作っていった感じです。

そこにたどり着くまでに、何かしらの関係性みたいなものはあったんですか?

CMというものは1本目がすべてにおいて大変なんですよね。どういったものに仕上がるのか見えない中で、正直、演者やクライアントは半信半疑。でも、CM自体が話題になったりするといい関係性が築けるものなんです。ですから、1本目はそうした意味で多少なりとも大変でしたけど、現場で逐一方向性をみんなで確認しあい、手応えはすでに感じていたので、対峙できる関係性は築けていたと思います。待望の新作もオンエア予定ですので、楽しみにしていてください。

出演されているタレントさんの意外な個性を引き出したり、新たなイメージを訴求するのがお上手のような気がします。

やっぱり、そこを主軸にしているとは思います。ものを作る第一歩目の衝動は、自分が見たことがないものを作りたいっていうこと。それがないと、僕的にはものづくりをする意味がないんです。「世の中にこんなCMがあったらいいのにな、この人がこうなればいいのにな」っていう思考は、小さい頃から今にいたるまでずっとあります。

現場で起こる予期せぬ面白いこと、偶然のセッションを楽しむ

オープンハウス 企業 入居
博報堂+ロボット 2016

最近はどんなものに興味をお持ちですか?どんなものから影響を受けていますか?

実はここ何十年もの間、話題の映画や映像は意識的に見ないようにしているんです。日常の仕事で普通に情報は入ってきますけど、自分から情報を追いかけていくことはほとんどしません。それこそ日常でおもしろいことがあったときの“その瞬間”という日々のインプットを大事にしているところが大きいかもしれないです。

話題になった映画や映像を意識的に見ないというのは、若い頃のストックがあるのも大きいのかと思いました。

小さい頃から絵や写真中心の本をたくさん見ていたので、今でもビジュアルとして記憶されているものがたくさんあります。最近気づいたんですけど、昔に記憶したものって、ほとんどが自分の中で拡大解釈されているんですよね。すごいと思っていたビジュアルが、今見直してみるとそれほどでもなかったりする。よく見えているのは、僕なりに解釈した付加価値でもあるので、その合成というか、盛って記憶されたものを制作の参考にしていることはありますね。

経験値を踏まえてお聞きしたいのですが、制作に向き合う上で、一番大事にしていることってなんでしょうか?

現場で起こる予期せぬこと、面白いこと。何かが生まれるセッションというか、パッションというか。絵コンテに添った進行の先で、偶然生まれたものには本当に敵わなくて、それを僕が楽しんでいたりすると、気づいた演者の方からアドリブを出してきたり、カメラマンの方から面白いアイデアが出てきたりするので、現場の予測できない偶然性のような部分はいつも大切にするようにしています。

やっぱり「好きこそものの上手なれ」だと思うんです

今後、どのようなことにチャレンジしてみたいですか?

僕はエンターテイメントとして、面白い映像が撮りたいだけなんです。ちょっと矛盾もしますが、映画制作も機会があればやってみたいと思います。もともと世の中にないものを作る、自分が見たいものがないから自分で作る、というのがべ−スにあるので、今の素晴らしい映画がたくさんある日本映画には、あえて僕が入り込んでいく不満や欲はないんですよね。具体的なアイデアが出てきたときに、出会いのきっかけも含めて、そのときにはスイッチを入れて取り組みたいと思います。

ちなみに、後進育成機関としてフリーランスのCMディレクターを育成する「THE DIRECTORS FARM」を運営されていますが、若いクリエイターに触れて、新世代ならではの面白さみたいなものは感じますか?

いっぱい感じていますよ。自分たちのライバルを作っている感じですけどね(笑)。なぜ、わざわざ育成するのかと。そんな矛盾にも陥るんですけど、今の時代の彼らが作った作品に感化されて新しい刺激が生まれたり、ときには世代の差ならではの嫉妬かもしれません。ディレクターという名称になった瞬間からは1対1で彼らと対峙しているので、彼らはライバルであり、大いにリスペクトもしています。

最後にクリエイターに向けて応援メッセージをお願いします。

僕が言うのは非常におこがましいんですけど……。月並みですが、好きなことを頑張り続けるしかないですよね。「好きこそものの上手なれ」だと僕は思うので、好きじゃないと楽しくないから、いい作品も生まれない。でも例えば、楽しくないのであれば、自分が好きになれそうな要素や側面を見つける努力をしてみる。他社と比べて制作環境に恵まれているな、とかなんでもいいんです。ちょっとでも好きなことであれば、続けることができるかもしれないですし。

続けることって本当に大事なことだと思うんです。頑張って続けている人の姿を見て、励みになっている人たちもいるわけですからね。僕たちの周りには「まだ現役なんですか!?」みたいなモンスターのような人たちがまだまだたくさんいて、しかも非常にパワフルな作品を作り続けている。そこは僕自身にとっても、ものづくりを続ける上で大きな励みになっています。

取材日:2016年4月4日 ライター: 小野貴弘

小島淳平(こじまじゅんぺい)

THE DIRECTORS GUILD /Director
1973年東京まれ。CMディレクター/演出家。武蔵野美術大学短期大学部専攻科卒業。
2004年に「THE DIRECTORS GUILD」を設立。2006年に始動した「THE DIRECTORS FARM」では、CMディレクターの育成にも取り組んでいる。
代表作はY!mobile「ふてネコ」シリーズ、キリン氷結「あたらしくいこう」シリーズ、カネボウ化粧品「KATE TOKYO」、オープンハウス「犬のジョン」シリーズ、ユニクロ「TANPAN!」「ヒートテック/2つの進化」、味の素冷凍食品「ザ☆チャーハン」、EDWIN「夏デニム!EDWIN COOL!」など多岐にわたる。現在は愛娘2人にデレデレの日々。
THE DIRECTORS GUILD http://www.d-guild.com/

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