クリエイターを支援する私たち自身がクリエイティブでなければいけない
- 大阪
- 株式会社SYNTH 代表取締役社長 田井 秀清 氏
企業ランキング3位に⼊る日本法人のオフィスで感じた、不⾜感
会社を設立するきっかけと、これまでのキャリアを教えていただけますか。
私は中途入社で10数年、アメリカにある日本法人の会社で人事総務部門に勤めていました。人材の採用をはじめ、従業員が働きやすい環境作りを担当していたのです。
退職後、新たにビジネスを立ち上げるため、自分にとってのビジネススタイルを確立すべく、大阪市立大学大学院の創造都市研究科で2年間勉強しました。そこでサービス付きのレンタルオフィス市場というテーマで、世界4か国、国内40か所を巡り、研究する内に、リラックスして働ける環境を整えた、オフィスのレンタルビジネスを考えるようになったのです。
なるほど、つまり日米企業での20年のキャリアとその後の研究に基づいた、総合的な観点から、今のビジネスが生まれたわけですね。
もちろん、そうした経緯もありますが、実は、私自身が働きたいと感じたオフィスを基に作りました。
私が勤めたのはアメリカのフォーチュン誌が発行する優良企業ランキングの3位に入るような、非常に働きやすい会社でした。さらにグッドデザイン賞を受賞した素晴らしいオフィスに、私専用の大きなデスクもありました。
けれど、そこしか自分の席はないんですよ。ずっと同じ場所にいる閉塞感から、正直、違う場所で仕事がしたいと感じるようになっていきました。
リーダークラスの人たちに打合せと称して会議室を取って、独りで仕事している人が多かったので、一か所で仕事をし続けることの難しさを感じ、コーヒーサーバーを用意したり、冷蔵庫を設置したり、少しでも快適な環境を提供したいと今のひな形のようなことをしていましたね。
クリエイターやビジネスに従事する人を支援をする我々自身がクリエイターでなければいけない
そうして立ち上げられた御社の業務内容を教えていただけますか
簡単に言うと、サービス付きのレンタルオフィス業です。私たちのオフィスは付加価値の高いサービス内容を特徴としています。しかし賃貸の初期費用である敷金礼金は一切かかりません。なによりデスクセットや什器備品など初めからオフィスに必要なものがそろっています。ほかにも受付スタッフがいるので、受付対応、清掃、セキュリティ管理を自分でする必要がありません。
会員のどなたでも使えるラウンジは、休憩はもちろん、レンタルしたオフィスとは別にそこでお仕事をしていただくこともできます。これまでのコワーキングやレンタルオフィスと違い、来客にも十分対応できる広さがあります。フリードリンクなので、カフェのようにいちいち会計することなく、美味しいドリンクを好きな時に飲めます。
設立されて3年目ですが、お客様の反応はいかがでしょう?
おかげさまで、入居率は98%、そのうち95%の方が契約更新をされています。この業界としてはかなり高い数値といえます。 ここまで独自のやり方を模索してきましたが、実は、開業当初よりあまりやり方は変わっていません。初めに考えた、当社のお客様の理想とするサービスを付加価値として付けた仕組みが、今の時流に合っているのだと思います。
では試行錯誤された部分、あるいは苦労された点などあれば教えてください
弊社の場合、仲介業者でなく宣伝も販売も全て自社でせざるを負えませんでした。この業界はまだ業界自体が出来てからの年数が浅く、業界標準がありません。そのため各社のサービスが違い、仲介会社の方では充分に説明できずに売れないのです。だから自ら営業して販売する仕組みを作らないといけませんでした。
自社サイトはもちろん、ブランディングページも自社で作りました。一方で、紙の広告も打っていて、アナログと融合した広告戦略を行っています。開業当初は試行錯誤しましたが、HPの改善を重ね、ブログ更新やコンテンツ制作でHPの器を大きくし、SEOではほとんどのキーワードで3位内をとれています。成約率が見学に来た方の35~40%という高い数値を出せるのも、HPのおかげです。
元々弊社は、お客様のコスト負担を少しでも軽くできるよう、最小限の人員体制で稼働しています。そのためできる限り手作業で行っていたことを自社開発したシステムに置き換えています。
ここ2年半で作ったシステムは8個。現在9個目と10個目がそろそろリリースします。契約管理、お客様からの問合せ管理、契約更新のタイミング、権限の管理など、セキュリティ管理と紐づけ、オフィスを運用する基幹システムは、自社で開発しました。このシステムをほしいという企業に、プロデュースを兼ねて販売することもあります。
外注に頼らず、自社でまかなう仕組みができたことは弊社の強みになったと思います。
そのように事業が順調に進む、コツや秘訣があるのでしょうか
自分で考えるということでしょうか。人が気づかない部分にこだわりをもつことです。
弊社では「クリエイターズサロン」というクリエイターやフリーランスの方に向けたセミナーを開催していますが、そうした方も含め、ビジネスをされる方の支援が我々の役割だと考えていて、そのためには自らがクリエイターでなければいけないと思うのです。
制作会社と違うのは、我々は仕事をクリエイティブするということ。レンタルオフィスの付加価値を考えるのも、システムを自社開発するのもそうです。例えば強みであるラウンジですが、本当は個室にした方が売上になります。けれどあえてしません。ラウンジがあるから来客対応もでき、窓のない部屋にいる方も気分転換ができる、そうした点が成約率を伸ばしているのです。だから売り上げを減らし個室を減らし、人件費も減らして、システム化を推進するビジネスモデルを作り上げました。
広告宣伝も他社と違う男女別のタブロイド紙を作ったり、オフィスに香りや音楽、飲み物など五感を刺激するものを取入れたり、すべて弊社独自にクリエイティブしたものです。
大学で学んだマーケティングから、欧米の先進的な事例や、科学的に根拠あるものを参考にしたという背景もあります。あとはホテルやレストランなど他の産業から学ぶことも多いです。やはり様々なものを見る、知るというのはクリエイティブな感性を磨くのに欠かせません。
講師は、新しい市場を創造する力のあるクリエイター
「クリエイターズサロン」について教えてください。どのような思いで始められたのですか
一つはクリエイターやフリーランスの方が普段行かない場所へも訪れるきっかけになれば、との思いからです。
大学院の創造都市研究科の授業で、クリエイターは都市部を少し離れた、家賃の安くなる地域に集まる傾向があると習いました。これは世界共通で、大阪では堀江、南森町、肥後橋です。実際その地域に、フリーランスで仕事をされる方の拠点は多いです。普段は訪れることの少ない、弊社のオフィスがある堂島や中之島などオフィス街も体感してほしいと思いました。
もう⼀点は、知名度のあるクリエイターを講師として招くことで、本物・本質を体験していただきたい、という意図もあります。
これまでの講師はどんな方ですか? また参加された方の反応はいかがだったでしょうか?
『増山超能力師事務所』の表紙を手掛けるイラストレーターの上田バロン氏、京都の老舗「宮川徳三郎商店」の4代目であり着物スタイリストの宮川徳三郎氏、大日本印刷で中小企業診断士をされている佐々木 武氏、イギリスで学位を取得した、インテリアデザイナーの安藤眞代氏。
カテゴリーも得意分野もさまざまですが、そのほうが受講なさる方にとっても、新鮮な経験となって面白いと思いました。選んだポイントは、どなたもその道の第一人者だということ。私が、新しい市場を創造する力のあるクリエイターだと感じる方です。
セミナーに参加されたクリエイターやフリーランスの方はそれぞれに興味を持たれる内容だったと思います。ただ、だからといって、皆さまが弊社のオフィスに興味があるというわけではありません。けれどこれを機に自宅に籠ってばかりの閉塞感から少しでも解放されたり、それにより新たな視点が生まれたり、なにかの支援ができるなら、意味のある場だと思っています。
国を動かし、業界の標準を作れば、この業界はもっと良くなる
今後はどのような目標や活動を考えていますか
弊社のビジネススタイルにニーズがあるのは確かですが、難しいのはビルが必要なことです。賃貸料と空き部屋のバランスがよいビルを見つけるのが困難で、オーナーと組むのもひとつかもしれません。
大阪を本拠地に、いままでのブランドと違うパターンも考えています。例えばもう少しカジュアルに「SYNTHアネックス」とか、あるいは地域展開の「SYNTHリージョナル」などであれば、年内の展開も可能です。
長期スパンの構想では、他社と戦うのではなく、組んだ方がメリットは高いと考えています。大手企業と提携することで、広域ネットワークを作り、それぞれのラウンジを自由に使えるシステムも検討中です。
この提携が実現すれば、外資系企業に対抗できる力を国内企業で持てることになります。
外資系企業に対抗できる力を国内企業がもつと、どんな利点があるのでしょう
現在レンタルオフィス業界は、ほとんど外資系企業で占められています。なにより新しい業界のため、国内では免許制度など一定のルールがない状態です。参入している国内企業の間では、一部お客様にとって不利益となるサービスを提供し、法的に問題となっているケースもあります。
そこで業界の地位を向上するため、公的な免許制度など最低限のルールをつくりたいと考えています。勉強会を開き、業界の標準を作っていけば、もっとこの業界は良くなると思うのです。それには1社では難しく、大手企業と提携し、業界団体を作っていかなければ、国は動かせません。
業界全体を向上させる一方で、弊社としては常に新たな取組みをしていくつもりです。今ないものを取入れ、同業他社が真似できなくなるくらい、ハードルを上げていきたいですね。
取材日: 2017年5月30日 ライター: 東野敦子
1. 事務机等備品付事務所の賃貸及び秘書業務処理の請負
2. 貸事務所及び貸会議室の経営
3. 事務用什器備品、コンピュータ及び関連機器、録音・録画機器並びに通信機器の賃貸業
4. ワープロによる文章の委託作成業務
5. 電話受信発信代行業務
6. 翻訳及び通訳業務
7. 旅行業者及び運輸機関との契約の媒介業務
8. 会員に対する福利厚生事務に関するコンサルティング及びサービス業
9. 健康管理サービス業務
10. 前各号に関わる事業のコンサルティング及びプロデュース
11. 前各号に付帯する一切の事業