URLという難問 ~連載「組版夜話」第18話~
最近, 仕事でぶつかった悩ましい問題のひとつに, URLやメールアドレスをどのように組むか, という問題があった。
縦組みのなかでの和欧混植は, 従来から悩みのタネだった。 とくに行長が十分にとれない場合, 欧字, とくに一単語だけでなく句や文の場合は, ワードスペースでの調整では追い付かず, 文字間がぱらついてしまうことがしばしばだった。 そこへもってきてURLはたいてい長い。 図1は 雑誌『WiLL』 2020年9月号208ページ, 元のURL中のハイフン以外のところで切りたくなかったのだろう, 1, 3行めと比べて2行めはパラついている。 この号の141ページ (図2) も改行位置を探して迷った跡がみえる。
もっと短い行長で格子状のベタ組みフォーマットを墨守している新聞はどうか。 図3は 『朝日新聞』 2021年3月11日付夕刊, 図4は 『京都新聞』 3月15日付, いずれもハイフネーションなど無関係に機械的な折り返し改行を優先している。
参考文献一覧などの書誌情報のスタイルも悩ましい。 図5は佐々木裕一 『ソーシャルメディア四半世紀』 (日本経済新聞出版社, 2018, 本文組版・キャップス, 印刷製本・中央精版印刷) で, 本文はIDはもちろんmixiも1字ずつ立てての縦組みだ。 参考文献一覧 (図6) は後付けページにまとめて横組みで, しかも1行24字詰の2段組みなので, たいへんな手間をかけてあるが,それでもパラつきは避けがたい。共通しているのは,URL末尾のピリオドの回避だ。
URLの末尾のピリオドについては,Googleによれば, 絶対に使ってはいけないものでもないが,「いい考えではない」という。 →Google 回答まとめ
図7の大谷卓史 『情報倫理』 (みすず書房, 2017年, 本文組版・キャップス, 印刷製本・中央精版印刷)は,本文は縦組み,章末の註釈は欧字のみ90度横転組みだが, 和文読点がURLの直後に来ると煩わしい。 巻末の参考文献 (図8) では末尾は, 欧文も邦文もピリオドに揃え, URLのみピリオドなしで揃えている。 現状では, このあたりが整理のいちおうの規準だろうか。 図9の 『思想』 2021年第2号 (岩波書店, 2021年2月, 印刷・精興社) も同じ規準, URLだけは行末にピリオドなしだ。 URLはアルファベットという用字系のなかで, ハイフネーションも末尾ピリオドも無しの, 特殊なものという扱いである。 意味を剥ぎ取られ, 無国籍の記号化したものとして, あたかもモールス符号のような扱いだということか。
これに対して、『シカゴマニュアル』(7.42)は, 意味の力を認めたラグ組みへの志向を示している。
http://
www.chicagomanualofstyle.org/
or
http://www
.chicagomanualofstyle.org/
or
http://www.chicago
manualofstyle.org/
ここでは、 改行位置を、 機械的な折り返し以上に意味改行に重点を置いて決めている。 連載のはじめに述べたように、 組版の決まりごとは言語によるのではなく,用字系と組方向によるのだという基本のうえで、 URLという歴史的に新しい事物への組版も試行を経ながら今後、 定まっていくだろう。
格子状のベタ組みを土台にした和文組版では, 先にあげた新聞組版 (図2, 図3) のように行末に来れば機械的に折り返す傾向が強まっていくだろう。 考え方としてまとめると次のとおりだ。 (1) 和欧の異なる用字系の混植については, 主要な用字系と主要な組方向のルールを土台にルールを決める。 (2) 区切りは, 極力衝突を避ける (たとえば, URLなどの欧字文字列の末尾に和文読点は避ける)。 (3) URLやメールアドレスは, 意味優先でなく機械的に折り返し, ドット( . )やスラッシュ( / )には行頭禁則は適用せず,むしろ行頭許容とする。
※ 和文組版,とくに新聞組版における, 縦組みへの横組みの “侵入” については, 雑誌 『ユリイカ』 1月臨時増刊号 (総特集・戸田ツトム) に 「歴史の変化を引き起こした 「縦に対する横の叛逆」 戸田ツトムの新聞刷新」 を書いたので、 参照いただきたい。
連載「組版夜話」もくじ
- 第1話 千遍一律なルールという思い込みの罠 2020.7.11
- 第2話 和文組版は“日本語の組版”ではない!? 2020.7.30
- 第3話 小ワザをいくら積み上げても砂上の楼閣 2020.8.11
- 第4話 ベタ組みは和文組版の基礎リズムである 2020.8.30
- 第5話 「原稿どおり」をめぐる混乱 解決の切り札は何か 2020.9.11
- 第6話 ルビ組版を考える(上) 2020.9.30
- 第7話 ルビ組版を考える(下) 2020.10.11
- 第8話 用字系の個々の歴史を無視して斜体を真似る勘違いと思い上がり! 2020.10.30
- 第9話 千鳥足の傍点はどこから来たのか 2020.11.11
- 第10話 段落の始めの字下げ(空白)は文字なのか、空きなのか? 2020.11.30
- 第11話 索引のはなし(上) 2020.12.11
- 第12話 索引のはなし(中) 2020.12.30
- 第13話 索引のはなし(下) 2021.1.11
- 第14話 行間と行送り 2021.1.31
- 第15話 続・行間と行送り 2021.2.11
- 第16話 続々・行間と行送り 2021.2.11
- 第17話 字送りと行長 2021.3.12
- 第18話 URLという難問 2021.4.2
- 第19話 続・URLという難問 2021.4.11
- 第20話 組版の品質を上げるひとつの点検方法 2021.4.29
- 第21話 行末の句読点ぶら下げは,はたして調整を減らす「標準」なのか 2021.5.17
1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。
1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。
汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm