日本人が 表現しなければならないことを 今やるべきだと感じています
- Vol.68
- VFXスーパーバイザー/株式会社金魚事務所代表取締役 立石勝(Masaru Tateishi)氏
VFXにとってCGはツールのひとつでしかありません。
VFXスーパーバイザーをCGデザイナーと混同している人も、まだ多いと思いますので、その誤解を解くところからお願いします(笑)。
VFXにとってCGはツールのひとつでしかありません。私たちVFXスーパーバイザーの仕事は、映画の実写映像やCG映像をいかに自然に、演出者の意図に沿ったものに仕上げるかにあります。しかし、映画でのカット数は、CGよりも合成を使用する頻度がはるかに多いのが現状です。特に私たち金魚事務所の場合は、モーションコントロール・合成素材の撮影・CGやマット画を駆使してよりリアルな映像をつくりあげるのを得意としています。
もちろん、必要があればCGのみの映像も駆使するわけですよね。
もちろんです。ただ、その場合、CGのための映像づくり、映画づくりになってしまわないようにと、強く心がけます。
心がけないと、そうなってしまいがちだということでもある?(笑)。
CG技術によって、つくりたい映像、画像は自由につくれます。なので、自由につくり過ぎてしまい、映画のリアリティを削いでしまうという落とし穴があります。 セットを組みカメラを入れて撮られた映像と、CGのレンズを通して作られた映像が同じように、その映画の表現する意図に合った映像でなければならない。自由にCGレンズを選んで、好きにカメラを動かせばいいわけではないのです。 観る側が、ある瞬間ふと不自然さを感じる。それまで自然なお芝居に自然に入り込んでいたのに、CGのカットの出現によって不自然な感覚が生まれる。そういう場合、明らかにCGをつくる側が自由につくり過ぎたことになります。そういう点には、いつも細心の注意を払って、演出者やカメラマン・美術・照明・ラボと認識の統一を図っています。
そういう配慮は、ポストプロダクション、つまり編集の局面だけですればいいということではないですよね。
そうです。むしろ、撮影の現場で何をどういう意味で、どう撮るかということにこそ気をつけるべきことと思います。
では、立石さんのお仕事も、撮影現場にかなりの比重がかかってくる。
CGを多用する作品では、役者の演技の多くがブルーバックでとなります。もちろん、脚本から、それがどういうシチュエーションかは理解して演技しますし、演出も、撮影も行われますが、所詮は何もないスタジオです(笑)。今自分が何をつくっているかが、わからなくなってしまっても仕方のない中で、カットのジャッジをする監督に、適切なアドバイスをしなければなりません。
脚本に込められたメッセージ、演出計画などを十分に理解している必要があるのですね。
さらに言えば、作品の軸や意図がどこにあって、何を撮るべきか、どんなカットをつくるべきかをしっかりと把握している必要がありますね。でないと、意図と違う無意味なCG映像やカットが生まれてしまうわけです。
監督や、撮影からも、その場で相談を受け、 その場で答えを出していかなければなりません。
素人の目には撮影現場の主役は監督とカメラマンのように映りますが、そういう部分を担うVFXスーパーバイザーの存在は、実のところかなり大きいようですね。
もちろん、現場のど真ん中にいるのはいつも監督です。でも、ビジュアルエフェクトの役割が大きくなるにつけ、僕たちの仕事の責任が大きくなってきているのも事実です。 特にテストでカメラの前で役者さんに動いてもらい、事前のコンテで決めていた絵づくりを変える必要が出るというようなことはあたりまえです。そんな時、映像づくりの全体を、技術的な部分も含めて把握している僕たちの素早いジャッジが必要です。監督や、撮影からも、その場で相談を受け、その場で答えを出していかなければなりません。 そこが映画の醍醐味でもあるわけです。正解はコンテにあるわけではないのです。
立石さんの作品歴を振り返ると、立石さんひとりが手がける作品数としては、最大でも、年間に7~8本のようですね。
そのあたりが、限界と感じています。かなり手間のかかる仕事ですから。
立石さんは、ご自分でも自主制作をしていた、いわゆる映画少年ですね。
8mmフィルムで自主制作をした世代です(笑)。
そんな立石さんに目に、今の日本映画のシーンはどう映っていますか?
小さな劇場でも、たくさんいい映画が生まれています。でも、それがあまりたくさんの人の目に触れていないのが残念です。大きな劇場でたくさんお客さんが入った映画が本当にいい映画なのか? もう少し違った基準で映画を探し、選び、観てくれるお客さんが増えるといいですね。作品に触れ、考え、観る人の感受性に何かを訴えかける。若い人たちには、そういう映画ともっともっと出会ってほしいです。
単館映画館の閉館なども目立っていて、インディペンデントで、しかしとても内容のある映画が日の目を見る機会も減っているのでしょうか。
それでもやはり、真剣に映画に取り組んでいる関係者はたくさんいますし、今だからやらなければならない作品もあると思います。今後もいい作品はしっかりと生まれてくるはずです。今はまだ注目されていないかもしれませんが、いつか、そういう志でやって来た人たちの映画作品が花開くはず。僕はそう信じています。
作品と同時に、人も成長して行きます。
立石さんご自身も、監督作品に興味があるのでは?
それは、もちろんあります。いつか1本、という気持ちはずっと持っていますよ。ただ、現場に身を置くと、多くの、がんばっている助監督たちによいチャンスが巡ってくるようにとの願いの方が強くなるものです。彼らは、本当にがんばっていますから。 彼らがよい映画を撮れるような環境をつくるためには、何が必要かなんてことを日夜考えています。
ずばり、立石さんにとって映画づくりの魅力とは?
人、でしょうね。長い時間をかけて1本の作品をつくりあげる。新たに映画作品がひとつ生まれるわけですが、その過程では多くの人が語り合い、助け合いを繰り返します。作品と同時に、人も成長して行きます。人の魅力が重なりあい、参加した人に刺激を与え、学びを与える。そういうところが僕にとって、映画の最大の魅力であり、おもしろさであると感じています。
映画界の今後については?
がんばるしか、ないですね(笑)。お隣の韓国では映画産業を国家がサポートしているとか、日本のCGクリエイターのポテンシャルや誠実な仕事ぶりは本当にすばらしいと思います。日本人は、自分が本当に伝えたいこと、日本人が表現しなければならないことを、今やるべきだと感じています。繰り返しになりますが、日本にはよい映画が着実に生まれていますし、力のある映画作家も育っている。そういう部分を楽しみに、これからも映画づくりに取り組んでいきたいです。
では最後に、読者であるクリエイターの皆さんにエールをお願いします。
僕からのエールは2つあります。まずは、諦めないでやりつづけてほしい、つくりつづけてほしいということ。僕はデジタルなことへのかかわりが多い分逆に、ものづくりの根底にはアナログ的なもの、人間の想いが息づいていることを強く感じます。信じているもの、崩れないもの、愛とか感動とかですね。ひとりの人が考え抜いて、挫折や悩みを乗り越えてつくりあげ、送り出したものには必ず心を震わせる何かが宿るもの。だからとにかく、諦めないで前に進んでほしいと願っています。 もうひとつは、映画の道を志す人に向けて。映画を観よう!(笑)。好きなジャンルに偏らないよう気をつけて、いろんな映画をたくさん観れば、必ずいくつもの発見があるはずです。DVDじゃだめですよ。映画館に足を運んで観ることに、意義があるのです。映画は生き物ですから。
取材日:2010年12月14日
Profile of 立石勝
1964年、京都府出身。 83年より京都のシネマドオルフェにて、8mmの自主制作映画を作り始め、京大西部講堂を拠点に上映活動をする。88年、CMプロダクション㈱キャラバンに入社。92年から㈱NHKエンタープライズCGルームにて、CGデザイナー、CGディレクター、CGプロデューサーを務める。97年、バンダイビジュアル㈱『G・R・M』にデジタル助監督として参加。99年、イマジカリンクスにてVFXスーパーバイザーとして映画『回路』『ドラゴンヘッド』『容疑者 室井慎次』『ありがとう』などを担当。06年より㈱金魚事務所を設立、『サッド・ヴァケイション』『僕の彼女はサイボーグ』『禅』『感染列島』『重力ピエロ』『キャタピラー』『インシテミル』など、映画のVFXを中心に活動している。
≪VFXスーパーバイザーとしての主な作品≫
・『回路』 ・『ドラゴンヘッド』 ・『MAKOTO』 ・『容疑者 室井慎次』 ・『ありがとう』 ・『サッド・ヴァケイション』 ・『Life 天国で君に逢えたら』 ・『僕の彼女はサイボーグ』 ・『フライングラビッツ』 ・『禅』 ・『感染列島』 ・『重力ピエロ』 ・『余命一ヶ月の花嫁』 ・『キャタピラー』 ・『おのぼり物語』 ・『BOX袴田事件 命とは』 ・『インシテミル』 ・『毎日かあさん』