マーケティングプランをデザインとして 落とし込む作業はかなり得意
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- Vol.55
- 空間デザイナー/株式会社デザインカフェ代表取締役 平澤太(Futoshi Hirasawa)氏
チェーンのありようを0から開発するプロジェクトが 好きで、気に入っています。
いきなりですが、昨今の業界動向を教えてください。
かなり、混沌としています。全体論として言えるのは、それくらいですかね。僕の身についての現象を言えば、この1~2年、Webからのダイレクトな依頼が増えています。
クライアントさんが、直に、ネットを通じて打診してくる?
そうです。クライアントはスポンサーさんの場合もありますが、プロダクションや代理店からのオファーもあります。特に最近は、クロスメディア系のプロダクションさんがプロジェクトのチームに参加してほしいと依頼してくる案件が目立ちますね。
クライアントさん直というのは?
いわゆる中小企業さんですね。店舗設計の相談に乗ってほしいという案件です。ただ、最近は、景気の影響か、徐々に減ってきています。その分、プロダクションさんからの依頼が増えているという感じです。BtoCからBtoBに移行するような、流れ。大げさに言えば、そんな現象が見えています。
平澤さんの得意ジャンルは?
好きな分野としてはチェーンストアですね。チェーンのありようを0から開発するプロジェクトが好きです。マーケティングプランがあって、それを店舗や空間のデザインとして落とし込む作業はかなり得意だと自負しています。
チェーンストアの設計、デザインとは、つまりフォーマットの開発ですかね。
今まではそういう理解で間違っていなかったんですが、最近は、そういうフォーマット化やマニュアル化に逆らってみたいという依頼主が増えています。基本のデザインは決めるが、具体的な出店にあたっては土地柄や施設の背景を投影してその場所やカスタマーにマッチした店舗をつくることになります。
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久米繊維工業本社プレスルーム(上記2枚共に) 創業70周年を迎えた老舗Tシャツメーカーのショールーム兼プレスルーム。 Photo: 茂木喜芳
e-コマースの時代、店舗の役割も変りつつある。
クライアントの要望は、かなり細かくなっている。
ある意味必然だと思いますよ。e-コマースの出現以来、物販は販売チャンネルが爆発的に増えていますから、わざわざ店に足を運んでもらうにはそれなりの動機を喚起しなければならない。買うだけならインターネットの方が断然手軽で便利なわけですから、店舗は、そこに行かなければ見られない、感じられない「何か」を持っている必要があるんです。
なるほど、e-コマースの時代、店舗の役割も変りつつあるんですね。
明らかに変りつつありますが、なくなるというわけでもありません。数は減るかもしれませんが、むしろ役割は重くなるかもしれませんね。ネットは便利ですが、よく理解していない商品をクリックするのは勇気がいるじゃないですか。最終的にはネットで買うけど、サイズ確認は店で、実際の品物も店で見たいというニーズもあるでしょうし。
修行時代には、 業界では有名な「池袋西武の全館リニューアル」にも参加。
そういう状況やニーズを適確に把握している部分が、平澤さんの強みということになりますね。
チェーンストアさんというのは出店先のほとんどがデパートや大型モールといった商業施設なので、その特性も含めての理解が必要です。僕は長く「環境側」の仕事にたずさわっていたので、そういう点は強みになると思っています。
「環境側」とは?
店舗の集まった施設、エリアの店舗以外の空間です。商業施設にどんな動線をつくるか、店舗と店舗の間の空間をどう設計するかという部分ですね。そこはそこで、専門家が企画、設計しているのです。
なるほど、そうですね。店舗を集める、「入れ物」もちゃんと設計し、デザインされていなければなりませんよね。平澤さんは、そういう分野にも経験があるんですね。
1990年代にこの世界に入った際は、そういう案件ばかり扱う会社で修行していました。業界では有名な「池袋西武全館リニューアル」にも参加していたんですよ。「デパ地下」のフォーマットをつくったと言われる仕事は、僕の参加していたチームの業績です。僕は下っ端だったけど(笑)。
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JAPANTEX 2009 TOSO ブース
日本最大級のインテリアトレンドショーである JAPANTEX(2009.11/11~13)に出展したTOSOの展示ブース。ウインドトリートメントメーカーとしての総合力がテーマ。ロールスクリーン等の新製品の紹介を中心に圧倒的な商品量を誇るカーテンレールを展示しつつ、その「動きのある商品」に対して静かに訴求する環境として「STATIC」というブースデザインコンセプトを打ち出し、外観はシンプルな設え感を、内部は商品の持つしなやかさをダイナミズムを感じられる展示構成 でブースデザインを行った。
Design & CG: 平澤太デザイン計画機構+河口学
独立に際しては、うまくいくに決まっていると思っていた。 根拠のない自信は、すぐに崩れましたけど(笑)。
2000年に独立。これはもう、自信を持っての独立だった。
もの凄く自信にあふれていました。正確に言うと、うまくいくに決まっていると思っていた。根拠のない自信は、すぐに崩れましたけど(笑)。世間知らずだったと反省はしています。でも、後悔はしていない。いい経験ができたと思っています。
2009年に株式会社デザインカフェを設立していますが、それまでは平澤太デザイン計画機構として、つまりはフリーランスだった。
そうです。フリーとして軌道に乗ったと感じた2004年に、平澤太デザイン計画機構の名義を名乗りました。基本的に僕個人で受ける仕事はそれで十分まかなえるのですが、さらにステップアップするために法人にしました。
ステップアップとは?
アートディレクターとして、プランナーとして、いろんな分野のクリエイターと組んだチームプレイを広げていきたいのです。デザインカフェとしての仕事はもういくつも動き始めていて、アジアなどの海外からのオファーなども受けています。
他社とのコミュニケーション能力は絶対的に求められます。
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CAFE & BAR KIKORI
「history of Dutch」「Organic Modern」をテーマに 躯体条件を生かしつつ、カフェらしいテクスチャーと素材を吟味し抑制された空間を目指した CAFE & BAR。
Photo: 大泉裕
今、仕事は、かなり順調?
今年の前半はやはり厳しかったですが、ここ数年で見るとそうですね。
順調な状態というのは、どんな状態?
規模が小さくてもいいから、やりたいことができる状態。それが、僕の仕事の理想像で、今はそれが保たれています。
それは、いいですね。明らかに、快適そうだ。好きなように、できている。
誤解のないよう解説すると、僕はチームプレイを好むタイプです。作家然として「俺が、俺が」という活動をするつもりはありません。力を認め合った仲間と、納得のいく仕事をしてきたいですね。
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aesthetics salon LUCE
エステサロンの営業の顔の他に、定休日に宝飾卸業としてのジュエリーの展示販売を行なう二つの目的を16坪という狭小空間で計画。
Photo: 大泉裕
ところで、空間デザインには、どんなことが求められるのですか? どうすればなれるのだろうと興味を持つ人は多くいると思います。
たとえば、グラフィックデザインなどと決定的に違うのは、自分の描いた構想を形にするために人の手を要する事です。具体的には職方さんたちだったり、メーカーだったり。ですから、他者とのコミュニケーション能力は絶対的に求められます。最初から最後まで、長いプロセスに関わってものづくりを貫徹させる。その途上には、クライアントさんとのコミュニケーションもあるし、自分には手を出せない部分を担う職人さんたちとも渡り合わなければならない。スパンとして、1~2年の中で、それをしつづける根気やノウハウが必要になりますね。
では、最後に、そんな、空間デザインの世界に憧れる若い人たちに向かって、エールをお願いします。
とにかく勉強してほしい。僕も含めてなんですけど、学校の勉強ということだけでなく、広く世の中のことを知ってほしい。僕の拙い仕事経験の中で痛感するのは、「世間知らずはよくない」です。社会のことに関心のない人に、デザインはできません。社会のことに関心を持つとは、追求するということ。追求するには予備知識が必要です。予備知識がいくつも集まって、大きな幹をつくるんです。
また、誰かが教えてくれるのを待つのもいけないと思う。自分が求めない限り、どんな知識もノウハウも血にも肉にもなりません。待つ事よりも積極的に知ろうとする事がやっぱり大切なのかなって思っています。
取材日:2009年9月29日
Profile of 平澤太
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商業施設の企画設計会社を経て2000年に独立。 ディベロッパーの外部プランナー、大規模プロジェクトの外部デザインディレクターを経験した後、2004年東京・日本橋にて平澤太デザイン計画機構を設立。2009年、クリエイティブプロダクションとして株式会社デザインカフェ設立。
専門は、商業建築と商空間デザイン。大型施設から小さなお店まで、変化するコミュニケーションの形態とアクティヴィティーの関係性を重視しながらデザインすることを心がけている。