古関裕而の隠れた名曲 「ひるのいこい」テーマ曲
去る11月27日に最終回を迎えたNHK朝の連続テレビ小説「エール」
窪田正孝演じる主人公・古山裕一のモデルは、昭和の偉大な作曲家、古関裕而。
「船頭可愛や」「栄冠は君に輝く」「長崎の鐘」はては「モスラ」などなど、往年の古関メロディーをキャスト一同がコンサートで歌い継ぐという、
異色の最終回だった。
今年、2020年晩秋は本来ならば「震災からの復興」としてのオリンピックの余韻に浸り、そして戦後復興から高度経済成長期の橋渡しとなった「旧オリンピック」へ思いをはせるあたり。旧オリンピックこと1964年、昭和39年東京大会の行進曲を作曲をしたのは古関裕而。
本来であれば、コロナさえ無ければ、当ドラマはオリンピック入場行進でフィナーレを迎える脚本だったのだろう。
戦後復興から高度経済成長、そして世相はエコノミックアニマルと諸外国から揶揄される昭和後期、爛熟のバブル期へと至る。だがイケイケドンドン(死語)の人心に染まることなく、農村の風の音、さらには音声からは伝わるはずもない土の香りが濃厚に薫る、古関裕而の名曲がある。
NHKラジオ第一放送で、昼の12時15分から放送される番組「ひるのいこい」
そのテーマ曲である。
まだ私が実家にいた平成ヒトケタ時代。
昭和40年代製の電子レンジで温めた冷や飯を、アルミ鍋で温めた白味噌仕立ての味噌汁で流し込む、そんな略式の日曜の昼飯。飯のおかずは塩の吹き出すような新巻き鮭か、テンプラ(北海道弁でいうところの「さつま揚げ」)とササゲに新じゃがの煮つけでもつけば上等だろう。
温めなおしの味噌汁の中で、拍子木に刻まれた大根、芯まで火が通った大根が白い姿態を晒している。口に運べば出汁をジュワッと湧き出させつつホロリとほぐれる。
そんな折、昭和50年代製のトランジスタラジオから流れ来るのが「ひるのいこい」だった。
根雪が春風を浴び融け、雪解けの滴を規則的に垂らすような
あるいは夏草が濃厚に覆いかぶさるような山道を歩めば
一帯の間隔をおいて現れては背後へと消える電信柱の群れのような
秋祭りの笛太鼓のような
雄大にして粗野な北海道の自然とは異なり、湿潤にして繊細な「内地」の風光を静かに漂わせるBGM。
これも古関裕而の手によるものと知ったのは、平成の末期のことだった。
BGMに合わせアナウンサーが、全国各地の「通信員」からの歳時記報告を静かな口調で読み上げる。
雪解け、田植え、梅雨入り、蝉の声、秋風、柿もぎ、そして初雪
ひたすら「内地」にあこがれた北海道時代
内地の風光が香る「ひるのいこい」
そんな平成初期の高校時代であった。