不安とたたかうには

番長プロデューサーの世直しコラムVol.77
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

今週末ロケ撮影がある。とする。 プロデューサーの一番の心配は、事故が起きないか?天気がいいかどうか? ということになる。

まだ撮影まで数日はあるのに、Yahooの天気予報や、気象庁の発表、週間予報なんかを15分毎にチェックして、晴れマークがついていたらこれが雨マークに変わらないか心配になり、雨マークがついていたら絶望的な気分になる。ため息ついちゃったりして。

こんな事を考えていると、人生もそうなんだよなぁ・・・と思うんです。 つまり、どうにもならない事を心配して不安になり、鬱な気分で過ごす時間がすごく多いという事。

撮影の日程なんか、タレントさんの都合やオンエアの都合、スタッフのスケジュールやなんやかんやの都合を一つにあわせた「ある日」に決まって行くものです。 その日が晴れるか雨が降るかなんて神様にしかわからない。 僕がどんなに悩んでも本当にどうにもならない。 なのに、撮影を目前にため息をついて過ごす。

もう何年もそういう事を繰り返して、なんとなく乗り切ってきたのだけれど、いい加減、どうにもならない事を考えて不安な日々を過ごすのは嫌だなぁ、と。 で、その不安との戦い方、対処法を考えてみたんです。

答えは 「事実と感情は切り離す」 というところにたどり着きました。

「不安」は、自分で、自分の頭の中に作り出したモンスターです。 勝手にうまくいかなかった自分を想像して、怖くなり、憂鬱になる。 そんな実体のないもんに、ため息をつかされているのです。

じゃあ、そのモンスターを駆逐するにはどうしたらいいか。 自分の感情はちょっと横に置いておいて、事実だけを考えることです。

ロケの日に雨が降るのは嫌だけれど、そんなのどうしようもないんだから、雨が降ったらどうするかを一生懸命考えればいいだけなんです。やらなきゃいけないことは、「撮影をする」ということで、「雨を降らせない」ということではないはず。

雨が降っちゃったら、天気予備の日に撮影をずらすのか? ずらしたら出演者やスタッフのスケジュールは大丈夫か? いつ判断してどうやってみんなに伝えるのか? はたまたスタジオに入るのか?その場合、背景の素材はいつ撮影するのか? なんてことを、「雨が降るのは嫌だなぁ」という憂鬱な感情は置いておいて、とっとと一生懸命考えたほうがいい。事実として、雨が降ったらどういう風に対処をするとCMが完成するかを。

だって雨が降るのは俺のせいじゃないもん。

そんな事心配してるより、その嫌な事にどう対処するかを一生懸命考えて手を打つ方が健全に決まっています。その手を打ちつくしたら、自分の中に生まれていたモンスターがちっちゃくなっているのがわかります。気にならなくなる。

そもそも、この「不安=モンスター」は、起こりうる嫌なことに対処しないで、ただ子供のように嫌だ嫌だと言っているだけのことなんじゃないかと思うのです。要は、やることをやってない事が原因なのです。きっと。

そう考えて行くと、実生活の中での不安な事なんて全部そうでしょう。 受験の前に、「不合格だったらどうしよう?」と悩むくらいなら、勉強すればいいだけだし、試合の前に、「負けたらどうしよう?」と考えるなら、できる限りの練習をすればいい。 打つべき手は打ったという自信がないから、面接の前に「選ばれなかったらどうしよう?」と緊張して、ガチガチになって、本番で泣き出しちゃったりして。

今の自分以上のものが、準備した以上のものが、そのときだけ降りてくる訳が無いんです。

事実と感情は切り離す。 事実の中の問題点を洗い出して、それにできる限り対処する。 やることはやったぜ。清々しい。 それでも駄目ならそれまでだ。死ぬ訳じゃないし。と思う。 そうすることでしか、心の中の不安とは戦えないんだと思うのです。

強くなるとは、そういうことなんじゃないんでしょうか。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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