質問を作る力
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.37
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
誰かと話をして、有意義に盛り上がり、相手を尊敬することもできた。
また話をしたいとか、あいつは面白いとか、思ったり思われたり。
そういうことがあった日は、幸せな気分になれる。
人と対峙してコミュニケーションをうまく進めるには、守らなければならないルールみたいなものがある。
日本語は、言いたいことをはっきり言わないで自分の意志を他人にどうやって伝達するかを、高度に進化させた言語だと思う。曖昧な言い回しが多く、それにともなって形成された(卵が先か鶏が先かは難しいところだが)とりあえず誰かの出方をうかがう文化とメンタリティが、世界的に認知された日本人の特性だ(笑)。
ってな余談はさておき、本題に入りましょう。言語はなんであれ、人とうまく話をつづけるために絶対に欠かせない、高度なコミュニケーション力の秘訣は、ずばり「相手に対して質問を作る力」だと思うのです。「質問を作る」なんて簡単に聞こえるけれど、これが結構難しい。
サッカーの国際試合の試合後に、アナウンサーが監督や選手を捕まえてインタビューをする。あのインタビューの質問が、なんともアホっぽくてダメなことが多いと思いませんか?
たとえば、「放送席、岡田監督に来てもらいました。監督、ゲームは3-1でした。この結果はどうですか?」。馬鹿か、こいつは。もっと他に聞き方があるだろ。質問のレベルが低い。悪例その1、「相手の出方待ち」である。 自分からインタビューを切り出しているにもかかわらず、何が聞きたいのか決めないで、とりあえずマイクを向けて、試合について言いたいことを言ってくださいなんて、とても失礼だ。これでは面白い話や、視聴者が大きくうなずく有意義な話など聞き出せないだろう。
人と有意義な話をするには、切り出しの準備とその後の計画が必要である。
同じようなことは、日常生活の中でも起きている。せっかく人に会えても、聞きたいことが聞けずに話が終わってしまったり、的外れな質問をしてその場をしらけさせてしまったりするのは、結局、準備不足ゆえなのである。
ひっくり返すと、こうなる。話し上手な人というのは、(元来その人が持っているネタのおもしろさや話し方のうまさもあるが)質問がうまくて相手からおもしろい話が引き出せる人でもある。質問がうまければ、優れた人から興味深い話を聞き出し、自分に面白いネタがなくてもその場にぱっと豊かな時間を生み出すことができる。みんな楽しくなるし、嬉しいし、またその人と同じ時間を過ごしたくなるから、「話し上手」という評判が定着するわけだ。 そういう人は、常に質問の準備ができている人だ。なぜそんなことができるかと言えば、考えているからだ。
「考える」という行為は、自分の中に質問を作って、その答えを求めている状態のことだ。僕はそう思う。「考える」は、自分に質問をすることなのである。
他人とコミュニケーションするのが苦手な人は、人に対して問いかける「質問を作る」力が足りない。他人に何かを聞いてみたいと思う好奇心も足りないし、準備もしない。それはすなわち、自分に対する問いかけがないからだ。つまり、考えていない。
「質問を作る力」は、いつも「どうやったらもっとうまくいくのか?」という質問を自分に投げかけている人にやどる。 よく「相手の気持ちになってコミュニケーションをしよう」と言われるが、「相手の気持ちになるって、どういうこと?」とぴんとこない人には、「普段自分に問いかけていることを相手に問いかけてみるとそうなるじゃないの」とアドバイスしたい。親切心とか同情心とかに嫌悪感を持つ人でも、これは受け入れられるんじゃないだろうか。 問いかけられた人は、それが興味もないのに聞いているのかそうでないかがわかる。本当に、真剣に、考え抜いた上で発せられた質問には心が動く。そういうことなんだと、思う。
人と話すための準備。いつも自分に問いかけ答えを考えるから、他人の考えを引き出すロジックを持てる。だから、自分がないと人との会話は成立しない。当たり前と言えば当たり前の話なんですが。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV