WEB・モバイル2009.04.01

『ケンケンキッキ』で、WEBによる企業広報について考える。なぜあんなハードなイメージのメーカーが、子供向け広報サイトに本気なのか。

vol.48
コマツ コーポレートコミュニケーション部広報グループ  FROGKICK 五反田建義さん、小山一志さん
『ケンキだいすき! ケンケンキッキ』(以下、ケンケンキッキ)というサイトをご存じだろうか。子育て中の編集部スタッフが、「これは、すごい」「子供が熱中するし、大人にも面白い」と体験談を紹介したのが発端。 実際におとずれてみると、たしかに、ひらがな表記による平易な言葉がベースで、明らかに子供向けにつくられた「建設機械のPRサイト」。しかしながら、コーナーはQ&Aからゲームから多彩で、多数で、それぞれのつくりこみもきわめて入念。これは、大人がはまるのもうなずける。 で、次に話題になったのは、「どこの誰が運営しているのだろう、こんなすごいサイト」であった。トップページ下段には「Copyright・・・Komatsu Ltd.」の表記が――あの、建設機械のコマツ(株式会社小松製作所)なのか?あのような重厚長大な企業が、こんなことを本気でやるのか?コマツ違いではないのか?と、文字通りケンケンガクガクとなりました。 もう聞いてみるしかないだろうとコマツに問い合わせると、「はい、当社で運営しています」とあっさりと疑問は解決。同時に、好奇心は膨らんでおさまらないので、取材を受けていただくこととしました。

<取材協力者> コマツ コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 五反田 建義さん FROGKICK 小山一志さん(WEBクリエイター)

『ケンキだいすき! ケンケンキッキ』URL http://www.kenkenkikki.jp/

発端は、問い合わせの多い「建設機械への質問」に答える 第2コーポレートサイト計画。

取材で、まず判明したのは、『ケンケンキッキ』がカットオーバーしたのは1997年で、もう12年目に突入している歴史あるサイトだということ。サイトでの企業広報の黎明期と言える時期に、こんなキュートなアプローチを立ち上げたことに、再度驚かされた。

【五反田さんのお話】 『ケンケンキッキ』は、1997年の12月24日に正式オープンしました。このサイトの企画の発端は、コマツのコーポレートサイト(http://www.komatsu.co.jp/)へのメールや広報への電話で、建設機械などに関する質問の声がとても多かったこと。 国内トップの建設機械メーカーとして、「コマツに聞けば分かるだろう」という一般の人々の期待に応え、広く知識・情報を提供し、建設機械をより身近に感じてもらうための「第2コーポレートサイト」が必要なのではと議論されたことから、このサイトの企画が始まりました。 電話の対応はもちろん広報なのですが、その、電話の主は圧倒的に「お母さん」で、お子さんの疑問を代弁してのものだったことが『ケンケンキッキ』の企画にも影響を与えている。個人的には、そう感じています。

企画者は、 「通すための案」の副案として企画会議に提出した。

情報提供の意義と、「子供向け」という切り口は、決して同義ではない。そこには、サイト企画案を依頼された企画者のアイデアがあるはず。ということで登場願うのが、『ケンケンキッキ』を企画し、立ち上げ、運営しと12年にわたってサイトを育てている小山一志さん。「企画・運営スタッフは、黒子であるべき」との意思から、写真掲載はなしとの条件でインタビューに応えてくれた。ちなみに、素顔は柔和な、「やさしいおにいさん」を絵に描いたような男性。この仕事をするために生まれたと思えるような方です。

【小山さんのお話】 「HP企画会議」に企画書を提出した時のことは、今もよくおぼえています。たしか、「コンペである」とうかがっていたので、「通すための案」を1案と、「こっちがやれれば楽しいな」という案を1案出しました。もちろん、『ケンケンキッキ』は後者で(笑)、前者は普通に、真面目に成人向けにメッセージする企画でした。結局『ケンケンキッキ』が採用されたと知らされ、ちょっと驚いたものです。 この案は、私としては「幼児向け」と考えて企画しています。第2HPの入り口が幼児向けでいいのかという疑問に対しては、「広く、あまねく、多くの人に技術を理解してもらうには、幼児にもわかるスタイルであるべき」と説明しましたが、実は、「その方が、楽しくできるから」というのが本音です(笑)。ですから、採用されたことに驚きましたし、コマツという企業の頭の柔らかさに感心もさせられました。

立ち上げ当初から、大きな注目を集め、社内的な認知も。

当時は、同社のサイト運営方針が整理されつつある最中で、参戦中だったF1に関するサイトや、コマツが支援する『日本花の会』のサイトなども、第2コーポレートサイトとして公開されていた。そんな中に、建設機械に親しめる『ケンケンキッキ』が、それらを集約する形で存在を確立していった背景には、圧倒的な注目度と反応があったという。

【小山さんのお話】 開設当初に、雑誌等からの取材をかなり受けました。その後も、数年サイクルで、メディアに紹介されるブームが何度かありました。「あのコマツが、こんな柔らかいことを」という驚きは、意外なほど風化しないようなのです。

「他社にないものを面白がる」気風が、 反映された『ケンケンキッキ』。

「企業がサイトを運営する」と聞けば、ほとんどの者が、「で、そこからどんな利益、収益を期待して?」と考える。この取材の真の動機も、どんなビジネスモデルなのかを確認するところにあったと言える。だが、真実は、そんなところにはなかったのが、本当の驚きだったのです。

【五反田さんのお話】 CSRであるとか、ましてやメセナだとか、そういう大上段に構えた理念はありません。 ではなぜ、こんなことをしているのかと問われれば、第1に、建機に関する興味を抱いた方が、お子さんに限らず、たくさんいらっしゃること。第2に、そのような好奇心に丁寧にお答えすることが、業界の地位向上や社会からの理解深化につながるだろうと確信していること。 少なくとも、歴代の社長が、「こういうことで、認知されるのもとても良いことだ」ときわめて肯定的にとらえているのは確かです。 このサイトには「コピーライト表記」はしていますが、コマツのロゴマークは使っていません。ある意味、そこに企業としての意思表示があると思っていただければ。たぶん、ロゴマークが入っていたら、ここまで自由にはできないでしょう(笑)。

【小山さんのお話】 長いお付き合いの中で、確信しますが、コマツさんという企業は、常に新しいことに取り組み、「他社にないもの」を高く評価する気風を持っています。

リーディングカンパニーの自覚と使命感。

つまりは、日本の建設機械メーカーとしてはトップ、つまりリーディングカンパニーである同社には自社の利益だけでなく、業界全体の利益を考える視点が普通に宿っている。麗しい。

【五反田さんのお話】 『ケンケンキッキ』がファンを獲得するということは、将来のコマツファンを増やすことはもちろん、ひいては建設機械業界がファンを獲得することになるという考えで、サイト更新を続けています。トップメーカーとしての自覚を持ち、業界全体に貢献するために誠実な情報発信をすることを心がけています。

小山さんは「機械オンチ」。 たぶん、そこにサイト長寿の秘訣がある。

そんな人気サイトの企画と運営を任されている小山さんにとって、本案件は、仕事として重要であるのは当然だが、クリエイターとして「楽しい」仕事であるのも本当のところだろう。

【小山さんのお話】 それは、明らかに楽しいです(笑)。自分の企画した『ケンケンキッキ』の世界をどう膨らませるかと考えるのも、技術情報を取得するためにコマツの技術者にお会いするのも、どれもやっていて楽しいことばかり。 ちなみに、私はどちらかというと「機械オンチ」です。むしろ、だからこそこの仕事がつづいているのかもしれませんね。知らないからこそケンケンキッキを見てくれる方と同じ技術解説の視点が持てるのだと思いますし、最新技術への驚きは、「本当に心から」のもので、とてもいい刺激になります。

【五反田さんのお話】 小山さんにお任せして安心なのは、『ケンケンキッキ』の企画者である小山さんの考える世界観と当社の求めるイメージとコミュニケーションの方向性がしっかりと合致しているから。毎年、「ぬりえグランプリ」の絵柄を確定する会議があるのですが、小山さんと一緒に、楽しませてもらっています。

塗り絵の応募作品は、海外からも届く。 素敵なコミュニケーションを、どこまでも育てたい。

最後に、『ケンケンキッキ』の今後の方向性やビジョンについてうかがった。

【五反田さんのお話】 「ぬりえグランプリ」には、毎年数多くの力作が寄せられています。一般の方だけでなく、コマツグループの皆さんや、そのご家族も応募してくれています。また、ケンケンキッキは英語版のサイトも開設しているので、海外からも力作が多く寄せられています。とても素敵なコミュニケーションが育っていると、心から感じます。 ちなみに「ケンケンキッキの塗り絵」は業界でもかなり知られており、業界主催の建設機械展示会で下絵を提供、子どもたちの塗り絵が会場を飾ったこともあります。 ケンケンキッキはPCだけでなく、2008年2月14日より、携帯サイトも開設しています。最近のお母さんは、携帯でしかインターネットをしない方も多くいます。そういった方に向けて、建機の大図鑑をはじめ、建機フォトフレームや建機の音ダウンロードなど、携帯ならではのコンテンツを充実させています。 このように「建機ファン獲得」の活動を、今後も永続的に展開したいと考えています。

【小山さんのお話】 運営方針として今取り組んでいるのは、いわば原点回帰。バラエティの方向に広がりすぎたという反省のもと、「建設機械をわかりやすく解説する」という、いわば本筋のコンテンツを再度充実させる方向でリニューアル企画を進めています。

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