Second Life/セカンドライフ
- vol.28
- デジタルハリウッド株式会社 ソリューション事業部コンサルティンググループ グループマネージャー 工藤政嗣さん
工藤政嗣さん
デジタルハリウッド株式会社/
ソリューション事業部コンサルティンググループ/
グループマネージャー
2007年7月27日、いよいよバーチャルワールドSecond Life(以下:セカンドライフ)の日本語版アカウントの登録が開始された(http://jp.secondlife.com/)。この春あたりから日本でも注目されるようになり、様々な報道によって期待感の膨らみきったセカンドライフ。もちろん膨らんだのは期待だけではなく、数多くの企業がその可能性を大きく評価して次々に出店やサービス提供に踏み切っている。待ちきれずに英語版アカウントで活動している日本人も増えていたらしいが、日本語版アカウントの提供開始でその人気は一気に本格化するだろう。 そこで今回は、セカンドライフ運営会社/リンデン社と早くからコンタクトをとり、実質的にオフィシャルな啓蒙活動、広報活動に取り組んでいるデジタルハリウッド株式会社の工藤政嗣さんにお話を伺った。
デジタルハリウッドは、きわめて早い段階からリンデン社とコンタクトをとり、日本版セカンドライフのオープンに向けた取り組みをしている。その担当者である工藤さんが、明確に述べることがひとつ。それは、「セカンドライフで何ができるか?今は、それをみんなが考えているところです」。デジタルハリウッドでは現在、セカンドライフ関連講座として(1)ユーザーとして楽しむ講座、(2)セカンドライフ内ビジネスの講座、(3)セカンドライフ内での制作スキルの講座、(4)リンデンスクリプト講座の4講座を開設しているが、同時並行して大手広告会社と共同の研究活動も進めているそうだ。巧妙なまでに、無限ともいえる可能性をもって構築されている世界――セカンドライフは、そこに参加する企業と個人のアイデアが努力次第でいかようにも育っていく世界なのである。
「想像」、「探索」、「売買」、「繋ぐ」、「遊ぶ」、 「所有する」。その6つを自由に楽しめる空間。
セカンドライフの人気は、どこから火がついたのでしょう?
リンデン社は1990年設立で、2002年にはセカンドライフのサービスを開始しています。しかし、当初は会員数の伸びは目覚しいものでありませんでした。アカウント取得にクレジットカード情報登録を求める仕組みをやめたことがきっかけで、会員数が一挙に増えたと聞いています。さらに、セカンドライフ内の通貨であるリンデンドルをリアルなUSドルにトレードできる仕組みのもと、セカンドライフ内でのビジネス成功で本当のミリオネラーになれることが実証されるに至り、人気が一気に爆発しました。
つまり、セカンドライフとは?
リンデン社は、セカンドライフにおいて6つのコンセプトを立てています。それは、「創造」、「探検」、「売買」、「繋ぐ」、「遊ぶ」、「所有する」。その6つを自由に楽しめる空間ですよということです。平たく言えば、「場所は提供するから、あとは勝手に遊んで」と言っています(笑)。リンデン社はサーバビジネスをしているだけだとも言えます。でも、その着想がすごいんですね、結局。これは、史上初の3Dオンラインコミュニティです。ユーザーは、セカンドライフの中で、好きなものを好きなだけ作れる。「デジタルは無限だ」という理念が、誰にでも体験、体感できる空間なんです。
空間内で作ったものの著作権はすべて制作者にあり、 いっさいの手数料をとらない。
ユーザーは、どれくらい?
セカンドライフの人気がどれくらい爆発的かという数値を、ご紹介しましょう。2006年8月時点で、アカウント取得者は全世界で60万人。それが、2007年7月時点では、840万人にまで増えています。アカウント取得者の性別は登録情報で把握できていて、男女比はおおむね6:4です。ところが、セカンドライフ内のアバターの性別は圧倒的に女性が多い(笑)。面白い現象ですね。もちろんアバターに男性を選ぶか女性を選ぶかはユーザーの自由なので、こういう現象が起きます。セカンドライフの今後を考えるには、重要な傾向かとも思います。
なぜユーザーが、大金持ちになれる?
セカンドライフ参加者から本当のミリオネアーが生まれることのベースとなるのは、空間内通貨が実際の通貨に換金できる仕組みです。セカンドライフ内で多くのものを売った人、多くのリンデンドルを手にした人はお金持ちになれます。そしてもうひとつ重要なのは、空間内で作ったものの著作権がすべて制作者にあり、リンデン社はいっさいの手数料をとらないことも見逃せません。 たとえば、空間内で完成した「Tringo」というパズルゲームは、セカンドライフ内でのヒットが派生して、リアルな世界でのゲーム機に移植されています。その権利は、すべて制作者にある。つまり、作った人が相当のお金を稼いでいます。もちろん、このケースのような可能性は、ゲームソフトのみにとどまるはずはありません。セカンドライフ内で、自由な発想で作った意外なものが、リアル世界で企業や投資家の目にとまり、大きなビジネスになっていくという現象がいくつも起こるはずです。
Mayaからのデータインポートを可能にしたため、3DCG クリエイターの力量がストレートに生きるようになった。
プロのクリエイターは、空間内で優れた制作者になれる?
基本的に、リアル社会で上手に服の作れる人は、空間内でも他者より良い服が作れるはずです。技術やノウハウの違いは絶対的に出ます。空間内でのもの作りは、セカンドライフに内蔵されている3DCGソフト「コンテンツクリエーションツール」によって行います。その使い勝手の良さ、いわゆる素人でも操作できる簡易さが特長です。 昨年、その「コンテンツクリエーションツール」がMaya(市販3DCGアプリケーション)から付加作業はあるもののデータインポートを一部可能にしたため、リアル世界の3DCGクリエイターの力量がストレートに生きるようになりました。また、制作物の動きなどを生み出す言語/リンデンスクリプトはC言語+Flashアクションスクリプトのような言語で、WEBクリエイターたちのノウハウがかなり生きます。簡易なものを作るだけで満足な人にも楽しめるし、高度なものを作る人の技術も生きる。セカンドライフは、そういう世界です。
ところで、セカンドライフにまつわる制作ビジネスはどんな状況?
セカンドライフにまつわる制作請け負い案件は、確実に増えています。それを専門とする制作会社も生まれ始めています。内容は、企業出店に関する受託業務が多いですね。今、日本の企業のセカンドライフへの関心は、かなり高いですから。 それらの案件を受けているのは、やはりCG制作かWEB制作の会社か個人。能力があれば、個人での受託も可能でしょう。基本的に技術情報はオープンソースとなっていますから、個人で勉強して、制作案件を獲得することは可能です。
個人の可能性は、会社の可能性より大きい?
もちろん、空間内でのビジネスチャンスは個人で十分に獲得できるはずです。むしろ個人の発想と行動が主流になると言ってもいい。セカンドライフ内で成功しているビジネスモデルは、BtoCよりCtoCが圧倒的に多いです。もうすでに、「空間内でリンデンドルを稼ぐ」、「空間内で宅配ピザを頼み自宅で受け取る」、「支払いはクレジットカードで行い、引き落としはリンデンドルを換金した口座から」――つまり、家から一歩も出ずに生活しているという人物も生まれているようです(笑)。 セカンドライフによって、リアル社会のライフスタイルがどう変容するのかという興味も尽きませんが、それはさておき、セカンドライフは個人の発想ともの作りにおいて、きわめて大きな可能性に満ちている世界なのです。