WEB・モバイル2006.12.01

クリエイターのためのWeb2.0講座

vol.20
株式会社はてな 広報担当 山田聖裕さん
気になるなあ、でもよくわかんない。新聞でも、雑誌でも、特集が組まれて、どうやらとってもすごいみたい。で、ところで、「Web2.0って、何?」と素朴な疑問を投げてみると、驚くほど見事に、端的な回答のできる人が近くにいない。どうです?みなさん、そんな状況じゃあ、ありませんか。というわけで、「クリエイティブ好奇心」の第20回は、その、謎のトレンド「Web2.0」に迫ってみます。こういうことは、実態を掴まずに振り回されるのが一番いけない。実像の情報量が膨大なら、少なくとも輪郭だけでも把握したいもの。いつものように、入門編です。日本における「Web2.0」の旗手――株式会社はてなにも、お話を伺いました。

Chap.1 Web2.0を知るためのキーワード

ティム・オライリー

「Web2.0」を言い出した人。1954年アイルランド生まれ。インターネットのアイデア先駆者、洞察者として世界的に知られる論客であり、現在はテクノロジー関連のマニュアルや書籍を出版するオライリー・メディアのCEO。新興で、自由で、その分無法になりがちなネット世界のあり様に、様々なことを提唱している。

「WEB進化論」筑摩書房刊

2006年2月に発刊された、梅田望夫氏著のこの本がわかりやすい。クリステお奨めのWeb2.0入門書です。大手メディアにおける「Web2.0」露出度がぐんと上がった時期から察するに、多くの関係者がこの本に触発されて今のブームにいたっている。そう睨んでます。

マッシュアップ(MashUp)

直訳すれば、「混ぜ合わせる」。音楽業界ではリミックス作品などにこの言葉が昔から使われてきたが、Web2.0において、それは複数の異なる提供元の技術やコンテンツを複合させて新しいサービスを形作ることを意味する。マッシュアップとして生み出されるWebサービスの内容は様々で、地図の表示と郵便番号データを対応させるものから、あるキーワードについて議論しているブログとショッピングサイトの関連製品を同時に表示させるものまで様々。Amazon、Google、はてな等、主だったWeb2.0企業は自社のWebサービスの機能をAPIとして無償で提供し、盛んにマッシュアップを行っている。

Ajax(エイジャックス)

サッカーファンは「アヤックス」と読んでしまうが、WEB用語ではエイジャックスとなる。JavaScript の組み込みクラスである XMLHttpRequest を利用した非同期通信を利用して、ウェブブラウザ上で既存の枠組みにとらわれないインタフェースを実現するための技術。Ajax を用いて構築されたインタフェースの代表例として Google Suggest や Google Maps がある。

ギーク(Geek)

パソコンやネットの世界で、おたくを意味する言葉。英語(米語)で、日本でのオタクに近い意味を表すためにはNerd(ナード)という言葉が用いられるが、パソコンオタクや電子工作オタクを指す場合は Geek(ギーク)が用られる。アニメの世界がそうであるように、ギークと呼ばれるヘビーユーザーor開発者たちがWeb2.0の新サービスや新解釈を先へ先へと進めている。


Chap.2 「で、どういうこと?」――Web2.0解釈指南

もし誰かに説明を求められたら、「たとえば、WEBがアプリケーションとして動くことだよ」なんて言うのが、スマートかも。定義的に言えば、「WEBをプラットフォームとして位置付ける、オープン志向・ユーザー基点・ネットワークの外部性といった、インターネット本来の特性を活かす思想に基づいて提供されるサービスの次世代フレームワーク」ということになるのだけど、これも「つまり、次世代のWEBのあり方の総称だよ」と、かいつまんで説明すればいい。 インターネットの仕組みはとてつもなく可能性に富んでいて、コンピュータによって、これまでにできなかったこと、できなかったサービスが生み出せる。特徴は、WEB自体がプラットフォームになるということ。地球を包み、人類全体を結びつけたネットワークそのものをフレーム(=コンピュータ)として利用すれば、もの凄いことができるはずだ。そういうことは、すでに‘90年代からわかっていた。ネックはいくつかあったけど、そのひとつであるパソコンのスペックが充実し、ネットへの常時接続も増えてきたせいで、Web2.0が形になりつつあるわけだ。GoogleもAmazonもはてなもmixiも、他に先んじてそこを押さえたサービスを提供して成長している。 で、そんなWeb2.0が出てきた結果、何が起きているか?端的に言えば「従来、送り手側が情報を発信し、利用者はそれを受け取るだけの関係だったものが、ユーザー側も情報を積極的に発信し、参加するようになった」ということになる。世界中のあらゆる人が情報発信者になれる。ブログは、その象徴。参加者がよってたかって疑問を晴らす、はてなの人力検索もまさにそれ。この辺、前章の「マッシュアップ」と混同してはいけない(マッシュアップは、プログラマーたちが参加して行う開発行動)けど、オープンな環境ゆえに可能な動線はまったく同じだね。 売れ筋ではない小口商品で収益を上げるAmazonや、広告代理店が見向きもしなかった小数ページビュー媒体をAdSenseで収益化させたGoogleがロングテール理論(恐竜の細長いしっぽの意味)を体現してビジネスの世界に革命を起こしたことまでが理解できていれば、当面、Web2.0への理解は合格点。そう思います。


Chap.3 株式会社はてな/山田聖裕さんとの会話

株式会社はてな広報担当:山田聖裕さん

株式会社はてな広報担当:山田聖裕さん

山田聖裕さんProfile/株式会社はてなのサポートスタッフ。主に広報活動を担当。同社が提供するサービスを広報し、解説する活動の一環としてItproに連載していた『「はてな」を使ったWeb情報の収集・活用術』(11月に連載終了)は、Web2.0理解に役立つので必読!(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060727/244509/

はてなという会社の概要を教えてください。

山田 全社員21名。約半分がエンジニア(プログラマー)で、その他営業3名、デザイナー2名、サポート2名、経理2名で構成されています。

オフィスの奥には、こんな掘りごたつスペースが・・・

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多くの人に支持される、はてなのサービス創造の秘密は?

山田 エンジニアが、自分がユーザーとして欲しいものを作っていることではないでしょうか。当社には企画部みたいなものはなく、全サービスにわたってエンジニアが自分で考え、自分で実装しています。エンジニアがユーザーとして「こんなことがあれば便利だ、嬉しい」「こんなものを作ったらかっこいい」という着想をまず形にし、世界に向けて発表します。その結果として、弊社のサービスがユーザーに受け入れられているのだと思います。

開発や運営のために、日夜スタッフはフル稼働?

山田 勤務時間は朝の10時から夜7時まで。みんなさっさと帰りますよ。9時にはほとんどの人は、帰宅してますね。

はてなの長期戦略は?

福利厚生の一つ、お菓子は大人気

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山田 ないです(笑)。近藤(代表取締役/近藤淳也氏)がインタビューで「日本のGoogleを目指す」と語ったことがありますが、あれはエンジニアの開発環境に関する見解で、「Googleのようなサービスを提供する会社を目指す」ということではありません。エンジニアが思いついたイタズラを形にする。世界中の人々を驚かせるものをどんどん形にしていきたい、という考え方が唯一の戦略だと言えるでしょうか。その挑戦の中で、いくつかビジネス的なブレイクスルーが生まれてくると考えています。

Web2.0って何ですか?

山田 言葉だけがひとり歩きしている感がありますね。WEB業界ではもう1~2年前から語られていることで、最近の盛り上がりを見ると逆にこちらが「何が起こっているんだ?」となりますね(笑)。インターネットを当たり前に使っていたら見えてくる世界を、「インターネットの未来ってこんな感じだよね」と再定義しただけのものだと思います。

はてながWeb2.0の旗手と見られているのは、自覚している?

山田 自覚はあまりないのですが、世間ではそう見られているようですね。はてなのスタッフのほとんどは、学生の頃からインターネットが好きで、ヘビーなユーザーだった人間が集まった集団です。そういったインターネットネイティブな集団が肌で感じたことにしたがって活動していたら、いつのまにか「2.0っぽいね」と言われるようになったということだと思います。Web2.0とラベルづけされたからと言って、はてなのやることはこれからも変わらないと思います。

クリエイターたちにとって、Web2.0はどんな意味があるのだろう?クリステとしてはそこに興味があるのですが。

山田 私の個人的見解としては、Web2.0の時代はクリエイターが情報をオープンにしていく時代だと思います。日本のクリエイターは、欧米のクリエイターと比べると作品を公開するベクトルが弱いですよね。特にネット上に公開しない。あちらでは、動画はYouTubeに、写真はFlickrへと多くのクリエイターがどんどん作品をアップしています。面白い動画を公開したことがきっかけで映像作家としてブレイクした人も多くいる。匿名文化とも言える日本のクリエイターの行動原理も、今後はもっともっとオープンになっていくのでは?そう考えています。

ありがとうございました。

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