お菓子が働くって、どういうこと? 遊びゴコロと創造力で企業を変える 株式会社 働くお菓子
- Vol.129
- ESSPRIDEグループ 代表取締役社長 経営戦略本部広報 西川裕揮さん鈴木麻理奈さん
リーマンショックの厳しい状況の中、 「クリエイティブ」に振り切った提案で活路を見出す
最初に、「働くお菓子」という会社の成り立ちについて教えてください。
西川さん: グループ親会社は、もともとお菓子を使ったセールスプロモーション全般を手掛けてきた会社なんです。広告代理店さんがクライアントへプロモーションを提案する際に、使われる販促ツールの一部を担当していて、その一環でお菓子も作っていました。代理店さんに紐づいて仕事をしていた時には、私たちが作ったツールがどんな使われ方をしているのか、どのような効果を生んでいるのかということが分かりづらかったんです。「直にお客さまの声を聞いて、どこまで効果的な提案ができるのか挑戦したい」と考え、直接企業さまとのお取引を始めました。
もともとは、お菓子を用いた販促ツールの制作会社のような立場でいらしたのですね。
西川さん: はい。代理店さんからの案件は形が決まっていて、情報も限られていました。「これは何に使うのですか? 誰が使うのですか?」と聞いても、そこまでの情報は出せないと言われて……。当時はそれで売上を確保していたのですが、ずっとこのままで大丈夫なのかという不安もありました。プロモーション関連の制作物は競合も多いので、少ない人数で勝ち続けるのは難しいと感じていましたね。
広告代理店さんとの安定した取引がある中で、あえて自社オリジナルで攻めていくというのは大きな決断だったと思うのですが……。
西川さん: そうですね。ちょうど2009年頃、リーマンショックの影響をもろに受けていた時期でした。提案を求められる数がものすごく増えたんですよ。企業の販促予算が削減される中、危機感を感じた代理店さんが自主提案に走り始めた時期でした。案はたくさん出すものの、それが受注につながるかどうかは本当に見えない状況でした。「200打席に立ってすべて空振り」ということもあったんですよ。当社としてもこれは本当にまずいと……。労働に対する対価が何も得られない状況ですからね。
鈴木さん: お客さまの気持ちに直接応えられない、というもどかしさもずっと抱えていました。代理店さんをいくつも通している仕事が多かったので、発注が伝言ゲームのようになってしまって、お客さまが何を本当に求めているかも分からないという状態で……。
「低予算で効果的な販促を」というニーズに応えて
そこからの脱却を図ったのが、ちょうど会社としての「働くお菓子」立ち上げの時期だったんですね。
西川さん: はい。親会社の中でやっていた「お菓子による販促提案」をより尖らせ、専門的に扱う会社として設立しました。
当初はどのような業界をターゲットにしていたのですか?
西川さん: ベンチャー企業や中小企業がメインでした。小ロットでオリジナルのお菓子を作れるという強みを生かし、「販促にお金はかけられない」という悩みに応える形で展開していきました。営業面や採用面、プロモーション全般に関わるニーズが多かったですね。
事業に手応えを感じるようになったのは……?
西川さん: うーん、まだあまり感じていないというのが正直なところですが(笑)。ただ、お問い合わせの件数が伸びていったりとか、ご紹介いただけるケースが増えていったりとか、そうした手応えは徐々に感じるようになってきました。
販促ツールの提案をお菓子だけで行う会社はとても珍しいですよね。
鈴木さん: 「お菓子」という分野でここまで掘り下げて販促を提案している企業というのは、他にないと思います。お菓子を扱うということは、食品特有のリスクも抱えるということ。クリエイティブ系の会社では珍しいと思うのですが、当社では品質管理の専門部署を設けて、全国に広がる製造拠点をすべて監査しています。品質管理に妥協しないための体制構築には、特に力を入れてきました。これは、他社が簡単に真似できない強みであると自負しています。
ハードでも、ソフトでも、他社が真似できない強みを
お菓子そのものも社内で作っているのですか?
西川さん: いえ、お菓子は提携している製菓メーカーで作ってもらっています。約300社の提携工場が全国にあります。大手ではなく中小メーカーがほとんどです。
鈴木さん: 大手メーカーでは小ロットで専用ラインを確保してもらうことが難しいので、「大福専門」「クッキー専門」といったさまざまな中小メーカーと提携しています。
約300社というのは、すごい数ですね……!
西川さん: はい。数が多い分だけ監査は大変ですが、高い品質を維持していくための活動自体が他社に負けない強みになっているのだと思います。お菓子の種類ごとに管理方法もまったく違いますからね。
鈴木さん: 独自に設けている約110項目の基準をクリアしたメーカーとだけ取引しています。中小メーカーには品質管理ノウハウが整っていない場合もあるので、一緒に環境を整えるところから取り組むこともあります。
一方のソフト面ではクライアントごとにメッセージを考え、お菓子のパッケージに反映していますね。制作工程はどのように進んでいくのでしょうか?
西川さん: クライアントからはまず、「展示会でお菓子を配りたい」「お中元用にオリジナルのお菓子を作りたい」といった場面での利用をきっかけに、お問い合わせをいただくことが多いですね。そこから目的の部分に踏み込んでいくプロセスを大切にしています。展示会でお菓子を配るにしても、名刺の獲得数を増やしたいのか、アンケートの回収率を増やしたいのかといった目的によって必要なクリエイティブが変わってきます。ターゲットの購買特性を分析し、その人たちにどのような感情的変化をもたらすべきなのかということを考えます。
そうしたプランニングは誰が担当するのですか?
西川さん: プランニングは企画営業が担当します。営業しながら企画も手掛け、そのアイデアをデザイナーや生産管理などの部門担当者と連携しながら形にしていきます。広報担当者である鈴木との連携も重要です。商品を作り、メディアに配信することで取り組みをニュースにしてもらいます。
鈴木さん: 広報担当として、当社のPRはもちろんですが、クライアントの広報をどう組み立てるかという観点でもお手伝いしています。最近では調査リリースにも力を入れています。自社のサービスに絡むリリースを面白おかしく提供して、それがメディアでバズるという結果にもつながっているんです。
特定のクライアントの販促にとどまらない 「チップスメディア」が誕生
最近、口コミが広がっている商品は何ですか?
鈴木さん: 弊社ESSPRIDEグループが展開する『イケメンチップス』(http://motteru-ch.com/ikemenchips/)ですね。一般企業から応募を募ったイケメン社員のカードが付いています(笑)。イケメンに関する調査を会社勤めの女性を対象に行ったところ、「女性の8割が会社にイケメンが必要だと思っている」という結果が出ました。そうした面白おかしい要素を商品に付加して、メディアに注目されるよう取り組みました。
西川さん: 同じく弊社ESSPRIDEグループが展開する『社長チップス』(http://chips-media.com/shacho/)という商品にも力を入れています。先日はテレビ番組でも取り上げられました。おまけのカードは全国の中小企業の社長を紹介していて、裏面には約30項目からなる自己採点による「戦闘能力」が掲載されています。一見するとふざけた商品のように思われるかもしれませんが、実はとても真面目な思いで作っています。モノづくりの現場で頑張っている全国の社長を取り上げて発信、ゆくゆくは社長同士のつながりから新しいビジネスが生まれれば……という思いで展開しています。
これはもう、特定のクライアントの販促という枠組みを超えていますね!
鈴木さん: そうですね。当社では、ポテトチップスをメディアにしてしまおうと「チップスメディア」と呼んでいます。紹介するのは各都道府県から10社ずつ、合計470社限定。現段階では約70名の社長に参加していただいていますね。
真面目に頑張っている会社のことを もっともっと知ってもらえるように
『社長チップス』に登場する社長は、どのように選んでいるのですか?
西川さん: 先方からお問い合わせをいただくケースもありますし、こちらで勝手にピックアップした「地場で頑張っている企業」へアプローチするケースもあります。
今回はどんな方々にご登場いただいているのでしょうか?
鈴木さん: チップスの味は、「汗と涙のCEO(塩)味」。会社運営にストーリーがあって、苦しい時期を乗り越えてきたという社長を対象にしました。モノづくり企業を中心に、中にはリンゴ農園を運営している企業もあります。全国的にはあまり知られていないような、地元で頑張っている会社が多いですね。
西川さん: 実際にインタビューしていると、経営のあり方や考え方などの面で、とても勉強になるんですよね。こういう企業は、もっともっと世の中に知られるべきじゃないかと。そういう意味では、とても良いメディアになったと思います。ご登場いただいた社長の皆さまには、自分のカードが入った商品を自社の採用イベントで配布するなど、さまざまな形でご活用いただいています。
お菓子には、人の心を動かす力がある
クリエイティブに大きく力を割いて商品開発をされていますが、苦労も多いのでは……?
西川さん: 強いて言うなら、「お菓子が事業になる」「お菓子がこんな場面で使える」ということを分かっていただくまでに、かなり時間がかかっているということでしょうか。お菓子を営業や採用のシーンで使うというのは、企業によっては抵抗があることも多いので。最近では少なくなってきましたが、「食品を販促に使うのはNG」という企業も多かったですよ。
それでもお菓子の提案を続けてきたのは、どんな思いからなんでしょうか?
西川さん: お菓子には、人の心を動かす力があります。お菓子をもらってうれしい気持ちになり、ビジネスの場面でもポジティブな効果が生まれる。人がどんなに頑張るよりも、お菓子の存在感一つで雰囲気をガラッと変えることができますからね。
鈴木さん: 『社長チップス』にしても、単純に全国の社長を取り上げた冊子だったらここまで心が動かないと思います。チップスという形だからこそ興味や好感を持ってもらえます。組合せの発想と、さらにそれがお菓子だということできもち心が動く。お菓子が果たす役割は大きいと思っています。
お菓子に助けられて成長してきたから、 お菓子に恩返しをしていきたい
最後に、今後の展望についても教えてください。
鈴木さん: 当社グループが設立した一般社団法人「日本おやつ協会」(http://oyatsu-daisuki.com/)の取り組みに力を入れていきたいと考えています。私たちの会社は、お菓子に助けられて成長してきた会社なので、業界に恩返しをしていきたいという思いで立ち上げました。品質管理に課題がある中小メーカーにノウハウを提供したり、海外進出を支援したり、おやつ文化を先導する人を「おやつマスター」に認定する「おやつ検定」を実施したり、『3時のおやつ』という歌を作ってPVやCDのリリースを準備したり……いろいろな活動を進めています。現在は会員企業が約80社となり、全国で定期的なセミナーも開いているんですよ。
西川さん: 「働くお菓子」としては、今年は全国で数十名規模の採用を進めます。クリエイティブなお菓子作りに関わる仲間を増やして、より多くのクライアントに価値提供していきたいと考えています。『イケメンチップス』や『社長チップス』のように、お菓子が媒介となって新しい出会いを生み、世の中を元気にしていくような新たなヒット商品を送り出したいですね。
取材日:2016年4月18日 ライター : 多田慎介