「VR ZONE Project i Can」の仕掛け人に聞く エンターテインメント施設ならではのVR体験
- Vol.131
- バンダイナムコエンターテインメント 「Project i Can」の推進役 田宮幸春さん
この施設は、VR技術でエンターテインメントの未体験領域を開拓するプロジェクト「Project i Can」の研究施設として期間限定でオープンしました。 7月15日からはアクティビティを一部追加、変更し、雪山の急斜面を滑降する『スキーロデオ』、地上200メートルの高さを進む究極の度胸試し『高所恐怖SHOW』、仲間とともにグロテスクな病棟を進むホラー『脱出病棟Ω(オメガ)』、JR山手線の運転を体験できる『トレインマイスター』、アニメ絵の美少女とともに巨大ロボットに乗り込んで戦う『アーガイルシフト』、ロボット同士の重厚感みなぎるバトルが楽しめる、VR-ATシミュレーター「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」と、歓声を浴びる絶頂感が楽しめるスーパースター体験ステージ「マックスボルテージ」の7つのアクティビティが楽しめます。どれもリアリティたっぷりで、いずれ劣らぬ人気を誇っています。このプロジェクトの推進役であるタミヤ室長ことバンダイナムコエンターテインメントの田宮幸春氏に企画立ち上げの経緯やここまでの手応えなどを伺いました。
「VR ZONE Project i Can」開設のためのすべてのピースを 自分たちはすでに持っていた
まず、「VR ZONE Project i Can」という施設をオープンした経緯を教えていただけますか?
弊社は1年前に「バンダイナムコゲームス」から「バンダイナムコエンターテインメント」に社名を変更しました。これはゲームだけでなく、もっといろいろなエンターテインメントを手がけていくという、社としての決意表明で、我々の所属するAM事業部も従来のアミューズメントセンターのゲーム機器を開発する部署からもう半歩踏み出して新しいエンターテインメントが提案できないかという話になりました。そんなとき、これもちょうど1年くらい前から各社のヘッドマウントディスプレイ(以下「HMD」)、いわゆるVRの視覚に関する機器の性能が一気に上がってきたんです。
我々AM事業部はいわゆる体感ゲームというものをたくさん作ってきてきましたから、「自分がそういう体験をしている」という感覚が体感筐体(きょうたい)によって格段に上がることが元々わかっていて、それに視覚のパーツとなるHMDを組み合わせれば、面白いVRのコンテンツを作れるなと思いました。しかも、ナムコというアミューズメント施設の設営・運営能力を持つグループが会社の中にあり、「VR ZONE Project i Can」を開くためのすべてのピースを我々はすでに持っているということに気づき、であれば「各社がやる前にウチが最初にやるべき」という流れになり一気に走り出しました。
プロジェクト名の「Project i Can」の意味を教えていただけますか?
VRのコンテンツを作るとなったとき、プレイヤーをただビックリさせるだけの企画ばかりになりがちなんですが、その驚きってピークは高いけれど、すぐに色あせてしまうものなんです。だから、ただ単にビックリさせるのではなくて、ひとつ芯を作らないといけないという思いが最初からありました。そこで我々が考えたコンセプトが「大人がやってみたいこと、やってみたかったことができる」です。夢や好奇心を刺激されるけど、「無理だよね」とあきらめていたようなことをVRで、「あなたも、私もできる」本物の体験として提供する。そういう狙いを体現するものとして「Project i Can」という名前を付けました。
VRコンテンツを作成するにあたって特に力を入れた部分は何でしょう。
どんな感覚をお客様に与えると一番リアリティが増すのか、それがどういうタイミングで入ってくるのがいいのかといった点についての工夫がキモになっていますね。例えば、地上200メートルの板上で子猫を助ける『高所恐怖SHOW』の場合、まずエレベーターホールからエレベーターに乗って地上200メートルの高所に上っていただきます。こうした導入部分があるからこそトビラが開いた瞬間に感情が「わー!」と盛り上がって、世界観に没入していけるわけです。
もし、そこで入り込めなくても、一歩足を踏み出したときに伝わる感触が絨毯から画面内と同じ板に変わっていることに気づき高所だと信じる人もいます。一歩踏み出したときに横から受ける風を感じて「本当に屋外かもしれない」と思ってしまう人もいれば、足下の板のぐらつきから「あ、落ちるかも。ヤバい」となる人もいます。場合によっては子猫を助けるため猫に触った瞬間に「ドキっ」として本当にいると思って信じてしまう方もいます。
つまり、視覚以外の体感のトリガーを順番に引く仕掛けになっているんです。どのトリガーが効くかはお客様によって千差万別です。そもそも空中にいるはずなのに横から「お客様大丈夫ですか?」とか、友達の「お前、なに足震えているんだよ」とかいう声が聞こえるなんて、あり得ないじゃないですか。そこで現実に戻るトリガーを引かれているはずなんですけど、1回信じ切っちゃうともうダメなんですね。そういう状態をとにかく作ることがVRはとっても大事で、他のコンテンツも体験の導入部分を過剰なくらい丁寧に作っています。
オープン直後からカップルやグループ客が殺到 来場者のリアクションは想定外の連続
オープンから3カ月経とうとしていますが、これまでの手応えを聞かせていただけますか。
非常にいいですね。オープン前は業界関係者とか、VR好きのマニアの方たちがひとりでいらっしゃる感じかなと思っていたのですが、いざフタを開けてみたら、最初の土日からVRを初めて体験するというカップルやグループの方がたくさんいらっしゃいました。「本当にびっくりしました」と言って帰っていかれる姿を見て、VRが新しいエンターテインメントとしてちゃんと一般の方に受け入れられるモノになるという最初の手応えを得ることができました。
来場者の予想外のリアクションなどはありましたか?
いろいろありましたね。例えば『高所恐怖SHOW』でいうと、やっぱり落ちてみたい願望のある人がいるので、足を踏み外したら落下する映像が入って、その後、係員が救出に向かいますという演出を入れていたんです。それでも、社内の人やゲーム開発者はどこかで「ここはお台場、ここは床」という感覚を持ってくれているので、片足を踏み出してみるだけとか、両足でピョンと飛び降りるとかなんですね。ところが、一般の方にも同じように対応していたところ、ある方がバンジージャンプのように大の字になって空中に身を投げ出してしまったんです。
初めてVRを体験される方って本当にその場所にいるという感覚を持ってしまうらしいんですね。だから、お客様がその場所で取り得る、あらゆる行動を考慮に入れておかないと大変なことになるという気づきがありました。他にも、『スキーロデオ』で岩にぶつかった瞬間に驚いてハンドルから手を放してバランスを崩す方もいました。だから、今では安全対策のため『スキーロデオ』のハンドル部分にストラップを付けて必ず手首をそこに通していただいています。『高所恐怖SHOW』も落ちた瞬間にゲームオーバーになるように変更し、運営のマニュアルもいろいろ事例が発生するたびに変えていって現在の形になりました。その意味ではすべてが予想外という感じです。
プレイ中の撮影が自由、SNSへの投稿もOKなど、かなり来場者に自由が与えられています。そうした理由を教えていただけますか?
オープン前のお披露目イベントで、グループの首脳陣のある方が『高所恐怖SHOW』を体験したときに、「おーっ」と言う声とともに板の上で四つんばいになってしまったんですが、それを見て周りがみんな笑っていて、その場がとっても楽しそうだったんです。これもひとつのコンテンツだと思いまして、当初はブースの中にもうひとつカーテンを引いて、プレイしているところを事前に見せないようにするつもりでしたが、単独で体験していただくのではなく、グループの方は全員ブース内に入ってもらって待っているときも楽しんでいただく形にしました。
それは『脱出病棟Ω』も同じです。このコンテンツはホラーのため、ちょっとダメそうというお客様はスタッフがお断りするようにしていますが、その時は「ぜひ、カメラで撮影してください」とお願いするようにしています。スマートフォンでムービーや写真を撮って、後でみんなで楽しんでくださいと。体験していない人たちも仲間が叫んでいる姿を撮ることで参加できるわけです。そうすると仲間外れのない楽しみ方ができるというのは発見でしたね。
みんなにVRの面白さを知ってもらって 体験したいという人がもっと増えてほしい
オープンは10月中旬までとのことですが、今後の展望を聞かせていただけますか。
今まさに次の話をしている最中なので、現時点でお答えすることはできません。ただ、今回「VR ZONE」のような方向でVRのコンテンツを体験していただくことに対して手応えを感じることはできました。安全に体験していただくための知見や運営のノウハウも大分貯まってきたので、こうした体験の場の提供を今後もやっていきたいという思いはありますね。後ろで控えているコンテンツもあって、それらをどういうタイミングで導入するかを悩んでいる状態です。
ということはコンテンツの入れ替えもあり得るということですか?
あり得ますよ。ただ、予約制で、まだ体験した人の人数も限られています。早く世に問いたいという思いもありますが、そこの兼ね合いをどうしようかと思案中です。
これから日本でVRが発展していくためには何が必要だとお考えですか?
もう少し皆さんにVRの面白さを知っていただくこと、体験したいという人がもっと増えることですね。なるべく多くの人に「これは、いいものだ」と思っていただくことが、最終的にいいコンテンツを生み出す流れになっていくと思いますので、ちゃんと対価として売上が上がるようになって、その売上を元にもっといいコンテンツを作ろうという循環が生まれるといいなと思います。その流れに勢いをつけられるかというのがまさに今年だと考えています。その意味では施設でやるVRは大仕掛けですが、手軽に体験できるので、初めての人にはうってつけだと思います。とにかく今はたくさんの人に「VRすごかったね」と言っていただくことに集中したい。たくさんの人がVRの体験をしたい、やりたいっていう状態がたくさん作れたらいいですね。
ただ、VRはゲームの画像や動画では面白さが伝わりにくい部分があります。プロモーションの部分でみなさん試行錯誤されていると思いますが、どうお考えですか?
その点については「VR ZONE」で解を出したつもりでいます。社内で一生懸命VRコンテンツのすごさや内容を説明してもまったく伝わらないという経験をしてきましたが、潮目が変わったのは『高所恐怖SHOW』の体験プレイでした。このコンテンツが体験できる状態になったとき、テストとして社内の若い人たちを集めて体験してもらったんですよ。すると、まさにPV(プロモーションビデオ)のようなさまざまなリアクションが見受けられたんです。 VRコンテンツそのものを映像や説明などで分かっていただくのは難しいですが、体験者が取り乱したり感情を爆発させたりしている姿を見せることで「なんなんだ?」という興味を引くことができたんです。
それで、PVを作るにあたってコンテンツの映像はほとんど使わず、体験者が驚いている様子をひたすら流すことにしました。要は体験者が感情を爆発させているところを外向きにアピールしました。作戦というよりも、その方法しかないという確信がありました。先ほどお話した、一般のお客様にカメラやムービーで自由に撮っていただくというのもその延長で、そうした体験中の画像や映像を見ていただくのが一番VRの面白さが伝わる方法であると思っています。ですから、体験した方にはぜひこの楽しさをSNSなどで広めて欲しいですね。
取材日:2016年6月28日 ライター:仁志睦
VR ZONE Project i Can
期間限定オープン:2016年4月15日(金) ~ 10月中旬
営業時間:10:00 〜 21:00 住所:東京都江東区青海 1-1-10ダイバーシティ東京プラザ3F
VR ZONE Project i Can https://project-ican.com/