スペース2020.11.04

「山への恩返し」を使命に、地元産材「能登ヒバ」の魅力を伝える事業を展開

金沢
ウッドスタイルクオリティー株式会社 代表取締役社長
Seiichi Masue
増江 世圭

120年の歴史を有する加賀木材株式会社の社長を務める増江世圭(ますえ せいいち)さんは、 石川県能登地方の特産材「能登ヒバ」の魅力を広く消費者へ伝え、その価値を高めることを目指して、2017年にウッドスタイルクオリティー株式会社を設立しました。住宅や店舗の設計・施工のみならず、能登ヒバの香りや質感、有効成分を生かしたカフェやべーカリー、エステサロンを展開しています。

なぜこれらの事業形態を選択したのか、各店舗の運営にどのような手法や工夫を行っているのか、さらに木材の流通や林業を取り巻く課題に向けた展望などを伺いました。

「能登ヒバ」の価値を消費者に伝えるための会社を設立

ご経歴を教えてください。

私は材木商を営む家に生まれ、家業を継ぐために東京農業大学林学科(現・森林総合科学科)で林業経営を学びました。卒業後は東京の木材専門商社で6年間修業し、その後金沢へ戻り加賀木材へ入社。バンクーバー駐在や東京営業所の責任者を経て、2010年、37歳のときに代表取締役に就任しました。2017年にウッドスタイルクオリティーを立ち上げ、両社の社長として現在に至っています。

立ち上げにはどのような経緯がありましたか。

学生時代に体験した山での演習やその後の仕事を通して、本物の木材を用いた快適で健康的な住空間作りをしたいと考えるようになりました。木は人間の五感に心地よい天然素材です。しかし普段目にする壁や床などの建材は、一見木のように見えながら、本物は少ないのが現状です。これらは経年劣化するばかりですが、本物は年月とともに味わいと愛着が生まれ、さらに次世代へ引き継がれ長く大切に使える、地球に優しい素材です。

石川県には北陸の気候風土に合わせて使われてきた「能登ヒバ」という希少な地域産材があります。能登ヒバをはじめ、木材の魅力をより多くの方に知っていただくための商品とサービスを考え、木材の新たな価値を創造することを目指してこの会社を立ち上げました。

加賀木材とは別法人にされたのはなぜですか。

加賀木材は木材業界や地域の工務店さまなどに支えられてきたBtoB(企業間取引)の商売ですが、ウッドスタイルクオリティーが進める事業はBtoC(企業対消費者取引)です。PRの方法やメッセージの内容も異なりますので、あえて別法人といたしました。

またBtoBの商売では、値下げを求められることが多く、能登ヒバも例外ではありません。そのたび私は「なぜ、こんなに上等な物を安くというのだろう」と感じていました。そこで、消費者が木の価値を理解してくだされば流通業界の認識も変わり、適正な価格を維持できるのではないかと考えたのです。

能登ヒバを活用した「美・食・住」を提供し、その魅力を発信

事業コンセプト、目指しておられる会社像を教えてください。

能登ヒバを余すところなく活用してお客さまに「美・食・住」を提供することです。能登ヒバには、雑菌や害虫を寄せ付けにくい効果や、アンモニアなどの嫌な臭いを軽減する有効成分が含まれています。

この特徴を適材適所に生かした空間を作り、その中で美容と健康をサポートするサービスや食事を提供しながら、地域の皆さまの良質なライフスタイルづくりをお手伝いする会社を目指しています。

昔は住宅に能登ヒバが使われていたのですか。

ええ、北陸は雨や雪の日が多く、カビや白アリなどが発生しやすい環境のため、腐りにくく害虫に強い能登ヒバが昔から用いられてきました。能登産だけでは足らず、青森のヒバも使っていたくらいです。それが高度成長期以降どんどん家が建つようになると、インテリアに使われるのは木材風の新建材ばかりとなり、本物の木の魅力が分からなくなってしまいました。

そこで、能登ヒバを用いた空間を体感していただくことでその価値をお伝えしたいと考えました。

具体的な事業内容を教えてください。

能登ヒバを使った家造りを行いながら、ベーカリー、カフェ、エステサロンを手掛けています。当社の強みは木材に関する豊富な知識と経験です。これらを生かして開発した商品とサービスは、どこにも負けない独自のものだと思っています。

注文住宅や店舗の設計、施工の中で特に工夫された事例を教えてください。

能登ヒバをバランスよく使うとともに、見えない所にこだわっています。できるだけ木を取り入れたいですが、使い方を間違えると逆効果になってしまいます。そこで、珪藻土(けいそうど)や漆喰(しっくい)、ウッドファイバーなど天然素材の中から調湿効果の高いものを選び、能登ヒバと組み合わせた快適な空間作りを心掛けています。

また、こだわっているのは玄関の香りです。入店時に能登ヒバの爽やかな香りを感じていただけるよう床下や天井裏にチップやおがくずを潜ませ、見えない工夫を行っています。

年齢を問わず利用できる心地よい3つの空間を展開

「ウッドスタイルカフェ」を設けたのはどのようなお考えからですか。

未来を担う子供たちに木の魅力を五感で感じてもらうには、子供連れのママさんたちがくつろげる場所を作るのが一番です。これに最もふさわしいのは、能登ヒバを随所に生かし、木の質感や香りに触れることができるカフェでした。

その特徴について教えてください。

赤ちゃんがハイハイできるように、また子供が転んでもけがをしないように靴を脱いで入るスタイルにしました。能登ヒバのぬくもりを足裏で直に感じてもらうこともできます。店奥に能登ヒバのウッドプールを備えたキッズスペースを設け、ママさんたちが子供を遊ばせながらゆっくりと食事を楽しめるようになっています。

エステサロン「ウッドスタイルビューティー」も立ち上げられましたね。

ママさんたちに能登ヒバの特性をより深く知っていただく場所として、酵素風呂を備えたエステサロンをオープンしました。能登ヒバには抗菌・消臭が期待できる成分があると申し上げましたが、香りにはリラックス効果もあります。製材などの過程で出てくるおがくずの活用を考えているときに、おがくずの酵素風呂があると知り、これなら能登ヒバを余すところなく使って健康や美容に生かすことができると思いました。

酵素風呂で体の芯まで温めてから全身を施術でほぐし、心身ともにリラックスしていただいています。

さらに「NOTOHIBAKARA BAKERY」も手掛けたのはなぜですか。

子供たちとママさんたちの次に、お父さん方も含め幅広い世代に能登ヒバの魅力を知っていただきたいと考え、カフェへの相乗効果も期待してベーカリーを立ち上げました。能登ヒバの端材を内装に使用し、家具やパンの陳列台、トレーまですべて能登ヒバで製作しています。もちろん安心安全でおいしいパンをご提供することが第一ですが、能登ヒバの香りや明るい色で清涼感や清潔感を感じていただけるベーカリーになったと思っています。繰り返し来店してくださるお客さまが多く、パンを焼いているシェフも「この空間がリピートにつながっている」と話しています。

また、お店を利用されたお客さまが能登ヒバを使った家を建てられるケースも増えておりまして、カフェ風の家をというご希望もありますし、ベーカリーをご覧になり、同じように能登ヒバを使ってベーカリーを建てられた県外の方もいらっしゃいます。

「山への恩返しプロジェクト」で林業の活性化と担い手の育成を目指す

加賀木材を経営しながら、多角的に事業を展開される上でのご苦労や心掛けていることを教えてください。

新たに始めた店舗やサービスが独自のものでしたので、軌道に乗るまでに相当な時間とお金がかかりました。順調とはいえない状況だと周囲からいろいろな声も聞こえてきますし、社員たちが不安を覚えていた時期もありました。

しかし、私は能登ヒバという素材についての自信と絶対成功させるという信念を持ち、時間をかければ、口コミやSNSなどを通してこの木の価値を分かってくださる方が増えていくだろうと思っていました。そのうえで、全ての事業の根っこに木材を据え、相乗効果が生まれるよう各事業に関連性を持たせることを心掛けています。

今後の事業展開や会社を通して解決したいこと、挑戦したいことについてお聞かせください。

弊社は120年もの長い間、山からの恩恵を受けながら商売を続けておりますので、山へ恩返しをすることがグループ挙げての使命だと考えています。林業はたいへん厳しい状況にあり、例えば、柱が取れる大きさまで木を育てるには50年ほどかかりますが、柱の販売価格は1本2000~3000円という安さです。これでは若い人が参入しようという気持ちにはなれません。

林業の担い手が生まれるよう、木の価値に見合った適正な価格で取り引きされる仕組みをつくるのがまず必要なことだと思っています。そのための取り組みに今後も注力し、地方創生の一翼を担えるような企業を目指していきたいと考えています。

当社では、お客さまと子供たち、そして社員が山の手入れや植林を体験するイベントも開催しています。皆さまにも、このような機会を通して山や木を守る大切さに共感いただけたらと思っています。

取材日:2020年9月18日 ライター:井上 靖恵

ウッドスタイルクオリティー株式会社

  • 代表者名:代表取締役社長 増江 世圭
  • 設立年月:2017年5月
  • 資本金:2,800万円
  • 事業内容:注文住宅・各種店舗の請負・設計・施工管理、宅地の企画開発・販売、家具の販売・コーディネート、飲食店経営 など
  • 所在地:〒920-0027 石川県金沢市駅西新町3-11-9
  • URL:https://www.wood-style-design.com/
  • お問い合わせ先:TEL:076-222-1141

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP