二度の挫折を経て、V字回復!地方発プライスカードのサブスクで世界展開を狙う会社
愛媛県松山市に本社を構える株式会社イプラ(IPLA)は、中古車のフロントガラスに貼り付けるプライスカードや仕様の書かれたPOPを作成できるサブスクサービス「エアプラ」などを展開する会社です。利用数は1万3千社を突破!エアプラ成長の裏側には、どんなドラマがあったのか。倒産危機や二度の挫折を乗り越えた代表の小田 泰平(おだ たいへい)さんにお話を伺いました。
実家の倒産危機を救うためUターン。味わった二度の挫折
会社の代表となるまでのキャリアを教えてください。
学生時代、天才精神科医が事件の解明に挑む映画「羊たちの沈黙」に影響された私は心理捜査官に憧れ、千葉大学で心理学を専攻していました。
しかし日本にはまだ心理捜査官の仕事がなく、心理捜査官の道を泣く泣く断念。
その後は、年単位で技術革新していくIT業界の面白さに魅了され、東京のベンチャー企業に就職しました。
およそ5年経ち、IT企業の仕事にも慣れてきた頃、実家で母が経営していた愛媛企画という会社が「倒産の危機に陥っている」と連絡があったのです。
大いに悩んだ末、自分が会社を引き継ぐことを決意し、2004年に地元の松山市に戻りました。
社長に就任し、ご苦労されたことは何ですか?
はじめは、赤字の経営を立て直すために「自社で工場を持たないファブレスメーカーになろう!」と考えていました。
その頃は円高でしたから、中国の工場で他社が作っていないオリジナル製品を製造し、販売する輸入事業を行うことにしたのです。
順調に売り上げが伸び、社員数も増え、成長を続けていたところ……なんと、製造元の中国の工場から取引を打ち切られ……。
時間をかけて育ててきた我が社のクライアントに対し、直接営業をかけられてしまい、売り上げが半減! 社員も半分くらいが辞めてしまいました。これが一度目の挫折です。
その後は、まだその頃には珍しかった「ネット通販」に挑戦することに。
売り上げも順調で、ネット通販の手ごたえを感じてきた頃、商品を卸してもらっていたメーカーさんから「売れ過ぎだ。ウチが元々贔屓(ひいき)にしている卸し先に、迷惑をかけないでくれ」と言われ、商品を卸してもらえなくなりました。
それにより売り上げの6割が消え、窮地に立たされます。これが二度目の挫折でした。
自社でクリエイティブする重要性に気付き、生まれた「エアプラ」
中古車販売用プライス作成サブスクサービス「エアプラ」について教えてください。
二度の挫折を経て、誕生したのがプライスカードや仕様の書かれたPOPを作れるエアプラというサービスです。「モノを仕入れて売るような従来の方法では、長くやっていけない」「オリジナリティーのあるサービスでなければ、独自性は生まれない」と気付いたのです。「自社の運命を他社に預けない方法で、成長しなければ!」と強く思いました。
中古車は、フロントガラスにプライスカードや仕様の書かれたPOPを貼ることが義務付けられています。 このPOPには中古車販売において記入すべき法令記載義務項目があり、昔はホワイトボードにマーカーで一つ一つ、中古車販売店の営業さんが手書きしていたものでした。
これがなかなか手間で、中古車販売店を泣かせていました。
東京のカフェで偶然目にした、飲食業界の無料アプリからヒントを得た私は「中古車のPOPを作れるソフトウェアを作り、無料開放すれば、リードを獲得できるのでは!?」と思いつきました。さらに、POPを印刷した紙を入れるエアプラ専用ケースを販売し、利益を上げようと考えたのです。
12年にはエアプラのユーザーも劇的に増え、毎日200~300社が利用してくれる状態が続いたのですが、残念ながら売り上げの方は、あまり芳しくありませんでした。
売り上げの伸び悩みで視察へ、理由に「愕然」。解決策は
当初、エアプラの売り上げが芳しくなかったのは、なぜですか?
「なぜ、売り上げが上がらないのか……」と悩んだ末、私は全国各地の中古車販売店売り場の視察に出かけたのです。そこで中古車販売店の車のPOPを見て、愕然としました。
なんと、エアプラで制作した印刷物が、チープにもセロハンテープで貼られて利用されているではありませんか……!
我々が売っているエアプラ専用ケースは購入してもらえず、無料のソフトウェアだけフリーライドされている状態だということに気付いたのです。
そのまま3~4年続けてみたものの、専用ケースの売り上げは増えていませんでした。
「リードはとれているものの、このままではダメだ。ハードウェアを売る以外の方法で売り上げを出さなければ、ジリ貧だ」と、再び頭を抱えることになったのです。
エアプラをサブスク化した経緯を教えてください。
その頃、売り上げ自体は赤字だったものの、エアプラのユーザーは順調に増加していました。
「ハードウェアで売り上げを求めるのは難しい。だったら、むしろ無料だったソフトウェアのエアプラそのものを『お金を出してでも使いたい!』と思ってもらえるような、強いコンテンツに育ててみたらどうだろう?」と考えたのです。
それまで5パターンだったエアプラのデザインを、一気に100パターンまで増加させることにしました。色や雰囲気を変えたり、季節感を出したり。
中古車販売店で営業をしているスタッフが使いやすく、中古車販売店に来店されるお客さまが見やすい“売り場で映えて、売れるPOP”を考えることにしました。
エアプラ最初の100デザインは、社長の私自ら、社外のデザイナーと一緒に作りました。
この100デザインをプロトタイプとすることで、今後のデザインの方向性を決めてしまおうと考えたのです。
社長の私が寝る暇もないくらい、ずっとデザイン作りをしていたので、社員が退社しにくい事態とならないよう、サテライトオフィスを構え、こもることにしました。
サテライトオフィスの壁や天井には一面、作ったデザインを貼りつけ、「このデザインたちの日の目を早く見たい…」と思いながら、黙々と作業を続けていましたね。
目を酷使し過ぎたせいか、左目が網膜剥離になりかけていました。
車に詳しくない人にも良さを伝える工夫とは?全国1万社超が利用
エアプラのこだわりを教えてください。
BtoB法人ではありますが、お客さんに伝わるサービスを提供するため、マーケットリサーチ会社さながらの研究を日々行い、制作物に反映させている点です。
例えば、これまでの中古車売り場のPOPは、モーター業界の専門用語がわからない方には難しい売り場でした。私ですら当初は「ヒルアシストコントロール」と言われても、坂道発進をアシストしてくれる機能だと直ぐに理解できなかったのです。
その実体験を生かし、エアプラでは専門用語は見た目で理解しやすいようにイラストで表すことにしました。また、最大容量はこのくらいで、奥行きは〇mで……と言われてもピンとこない方が多いので「ベビーカーを丸ごと入れても、天井に当たりません」と表現するなど、誰にでも理解しやすい表示になるよう心がけています。
現在は何社程度が利用しているのでしょうか?
1万3千社以上にご利用いただいています。当初から大幅にデザインを増やしたことが利用者に評価いただけていると思っています。実は当時、エアプラのデザインを100に増やしたところ、ユーザーもさらに増えたのです。
そこで「今度は10倍の1千デザインにしよう!1千デザイン作れたら、エアプラを有料化しよう!デザイン数を1千まで増やせば、お金を払ってでも使いたいと思ってくれるのではないだろうか?」と考えました。
エアプラが成功した理由は、競合がいないだけでなく、デザイン性や使い勝手もよく、会社の企画力が高かったおかげです。
エアプラが見据える海外展開。目指すは「車屋以上に車を売っていく会社」
展望を教えてください。
今後もエアプラを育て続け、いずれは海外にも展開したいと考えています。 海外には中古車の性能や状態・安全性などを審査する機関がありません。中古の車を他人に販売する際は、消費者同士のCtoCがほとんどです。
そのため後々トラブルになる可能性が高いとされています。その際に弊社のプライスカードや仕様の書かれたPOPを使用していただければ、少しでもトラブル防止につながるのではないかと考えています。
エアプラのデザインは世界共通で使えますし、あとはWebのフォントをその地域の言語に変更し、通貨を対応させられれば、即戦力として使えるとみています。
そのためにはまず、日本国内でのスタンダードになる必要があるので、3年後をめどに、ユーザー数を1万3千から3万ユーザーへ増やすつもりです。
その目標が達成できたら、リソースを海外に振っていこうと思います。
会社の求める人材は、どのような方でしょうか?
このモーター業界に、爪痕を残したい人を募集しています。 私の座右の銘の一つは、「自分の見たい景色を生み出せ!」です。“自分の居る世界と居なかった世界とで見える景色が違うからこそ、存在意義がある”という考え方に賛同してくれる方と一緒に仕事がしたいですね。
例えば、エアプラが登場したことによって、10~20年後の中古車販売店売り場の景色を変えたいです。
エアプラを使っていただくことで中古車が売れ、日本経済をけん引していく欠かせない存在になりたいと思っています。
極論、イプラが社会に対して何の影響も残せない会社であるならば、ずっと続かなくてもいいのです。
社会に何かしらの爪痕を残せたら、この会社で働く充実感があると思います。
これからも車屋以上に車を売っていく会社であり続けようと思っていますので、興味を持たれた方はお気軽にご連絡ください!
取材日:2024年10月18日 ライター:山口 夏織
株式会社イプラ
- 代表者名:小田 泰平
- 設立年月:1974年10月
- 資本金:1千万円
- 事業内容:展示場集客用品の企画開発事業、店舗ブランディング用品事業、クラウドサービス事業、女性向けカー用品ブランド事業、集客改善向けセミナー事業
- 所在地:〒791-1102 愛媛県松山市来住町1420-2
- URL:https://ipla-grp.com/
- お問い合わせ先:0120-318-522