コピーできちんと稼ぐ考え方を書いた 「ここらで広告コピーの本当の話をします。」
- Vol.110
- コピーライター/クリエイティブディレクター 小霜和也(Kazuya Koshimo)氏
“ゆるい仕事”を探していた学生時代 なりゆきでコピーライターに
小霜さんが広告への道を志したのは?
学生時代は勉強はまったくせずに昼はバイトをして、夜は酒を飲む、そんな適当な生活を送っていました。そんな生活をしていると、周りから説教をされるんですよね。自分でもダメな奴だという自覚はあり、官庁や金融のようなカタい業界は無理だと思っていました。できるだけゆるい会社に行きたいなぁ~と探していたところ、OB訪問で「博報堂はゆるい!」と確信したので、何となく就職を決めたんですよね。
博報堂に入社して、コピーライターになったのは?
「コレ!」という希望部署があったわけではなかったので、面接では「これからはPRの時代です」と適当なことを言っていました。これも明確な根拠があったわけではなく、広告代理店で営業志望だと普通すぎるかな、と思いまして。新入社員研修を終えたら配属が発表になるのですが、気づいたら制作室のコピーライターになっていました。
クリエイティブ志望ではなかったんですね。
クリエイティブにはまったく興味がなかったですし、コピーライターは机にかじりついているイメージがあって嫌だったんですよ。それが今となっては自分で広告学校を主催したり、コピーライター志望の人の前で話をすることも多いのですが、この経緯を話すとガッカリされてしまいます…。でも嘘はつけませんしねぇ。
制作室にコピーライターとして配属されて、想像していたイメージとの違いはありましたか?
思っていた以上に地味でしたねぇ。広告代理店だからタレントやモデルと仲良くなれるかと思ったら、まったくそんなことはない。営業やプランナーに比べて、机に向かっている時間も長いし、つまんないなぁと思っていましたよ。
先輩を喜ばせたかった新人時代 「目の前の人を喜ばせたい」は今も変わらない
最初の仕事は?
情報誌「ぴあ」の表紙めくったところの見開きページに毎回資生堂が広告出稿してまして。「男と女の合言葉」という企画で、そのコピーを考える仕事をひとつ上の先輩から引き継ぎました。まったく何を書いていいのかわからず、フランスの恋愛映画を名画座に見に行ってヒントをつかもうとしたんですが、恋愛映画って苦手なんですよ。だから見に行っても寝ちゃったりして。
先ほどから、典型的にダメな新入社員の雰囲気が漂っていますが(笑)、仕事へのモチベーションはどうやって上げていったんですか?
博報堂では、新人はトレーナーについて仕事を学ぶのですが、配属されてすぐに、新商品のシャンプーのネーミングの仕事があったんですよ。みんなで案を出し合ったら、自分の案が採用され、店頭に自分がネーミングした商品が並びました。それはそれで嬉しかったですが、それよりも目の前のトレーナーを笑わせることにやりがいを感じていましたね。他の人が出さないような案を出して「小霜が出す案は面白いな!」と言わせたかったんです。
目の前の人を喜ばせたい、というモチベーションなんですね。
今でもコピーを考えること自体は、あまり面白くないですね。コピーを出した相手が喜ぶのが面白いです。考えながら、「コレいいね!」と言ってくれる相手の顔を想像してニヤニヤしています。20代の時は先輩のCD(クリエイティブディレクター)が相手でしたが、30代以降はプレゼンする相手がクライアントになっただけで、いつも「目の前の人が喜んでくれるかな?」とワクワクしている根っこは最初から変わっていません。
「価値はひとつではない」と教えてくれたトレーナー 厳しくも鍛えられた「プレイステーション」の仕事
小霜さんにとって、転機となった出会いはありますか?
やはり最初に出会ったCDであり、トレーナーでもあった安藤輝彦さんでしょうか。僕は子どもの頃から字がヘタで、親や先生から何度も「ひどすぎるから何とかしろ」と言われていたくらいで、コンプレックスがあったんですね。ところが、安藤さんは僕の字を見て「良い字だなぁ!」と褒めてくれました。「お前の字は、人の心に隙間を作る字だ。これからはお前の字でプレゼンしよう」と、それから僕が書いた字を拡大コピーしてボードに貼ってプレゼンするようになったんです。その時に、字は達筆であることがすべての価値ではないこと、価値はひとつではなく個人によって決められるものだと気づかされました。 今でこそ、ヘタはヘタなりの価値があるとされ、ヘタな手書き風のフォントがあるくらいですが、当時はそんなこと言う人はいませんでしたからね。
小霜さんはプレイステーションの立ち上げから関わっていたことでも知られていますよね。
プレステのマーケティング本部長は、ものすごくアタマのいい人でした。プレステは決してタレントやキャラクターを使ったプロモーションをしなかったのですが、「コンテンツであるソフトは個性が必要だけど、プレステはプラットフォームだから個性は必要ない」と。アタマが良く、そして進んだ考え方の人でしたから、いつもプレゼンは緊張感であふれ、ヒリヒリした現場でした。 プレゼンにあたり、クライアントからオリエンテーションを受けて、そのオリエンを踏まえた提案をするのが普通ですが、オリエンどおりのプレゼンをすると怒るんですよ(笑)。「こんなオリエンでしたが、こうした方がいいのでは?」とプレゼンをすると、喜んでくれるんです。
それは厳しい仕事ですね。
鍛えられましたね。ですが、当時、プレステは絶対成功しないと言われていました。そのゼロの状態から作り上げていく醍醐味、快感を味わうことができた仕事です。
コピーは“大喜利”ではない 稼げるコピーライターになるために必要な考え方を出版
新刊『ここらで広告コピーの本当の話をします。』を書いたキッカケは?
直接のキッカケは、宣伝会議の編集者から依頼を受けたことです。「コピーとお金の話を書いてほしい」ということで、最初は「コピー1本1000万円もらえる理由」というタイトルにしたいと言われたんですが「さすがに1000万は無理」と言いました。ですが、根っこのコンセプトは同じで、最近の若手コピーライターはコピーでのお金の取り方が わかっていないので、きちんと稼げる仕事をしよう、そのためにはどんな考え方で何が必要か、伝える本にしたつもりです。
具体的には、どんな考え方が必要なのでしょうか?
コピーが“言葉いじり”、“言葉遊び”だと思っている人が多くて、その誤解がある限りは稼げません。“お題”をもとに面白い言葉を探すのはコピーではなくて“大喜利”です。コピーライターの仕事は商品価値を高めることで、価値を高めた対価としてお金をもらえるのだから、言葉をいじる前のコンセプトを考えることが大切なのです。
出版されてからの反響はどうですか?
「なんでこんなに面白いのにダメって言われるんだろう?」と、“大喜利コピー”では通用しないことに気づいている人は多くて、「そういうことか!と目からウロコでした」と言われることが多く、嬉しいです。出版記念セミナーには200人以上の人が集まりました。広告業界の人やコピーライター志望者だけではなく、クライアントである広告主が読んでくれて「この内容で社内研修をしたい」と問い合わせも来ています。
これまでの知見を活かし 会社を一緒に“作り上げていく”過程の仕事を!
小霜さんは今後「クリエイティブ・コンサルティング」をやっていきたいと著書の中で書かれていますが、その方向性とは?
若いCDや、企業のマーケティング部を支えてあげたい。博報堂を独立してから今まで、自分が中心に立ってプレゼンをし、仕事を決め、責任も取る仕事をしてきましたが、それでは僕の中に知見がたまるだけです。今後は、広告会社(代理店)や制作会社(プロダクション)、一般企業に対してコミュニケーションの考え方や取り方をコンサルティングして、それぞれに知見がたまるような手伝いをしていきたいと考えています。また新たな方向性として、僕はフェローズ(※)にクリエイターとして登録したんですよ!
※編集部注:フェローズはクリエイター専門のマネジメント会社。クリエイターズステーションの運営会社でもある。
フェローズ経由でお仕事を受けるということでしょうか?その理由は?
おかげさまでキャリアも長く、大きな仕事をやってきたので、僕のところに来る仕事はよく知られた大手ナショナルクライアントの仕事が多いんですよね。もち ろん今後もその仕事はやっていきますが、今は小さな会社が個性的な技術やサービスであっという間に巨大になる時代。本当に面白いのは、「大きな仕事」よりも「大きくなる仕事」なんです。今日本には大きなポテンシャルを秘めながらもコミュニケーションの問題でくすぶっている会社がたくさんあるはずで、そんな会社が大きくなっていく過程で一緒に汗をかきたいですね。フェローズを通じてそういう出会いがあればいいなと思っています。楽しみにしています!
取材日:2014年12月9日 ライター:植松
Profile of 小霜和也
1962年 兵庫県西宮市生まれ 1986年 東京大学法学部卒業 1986年 博報堂入社 2009年 ノープロブレム合同会社設立
<最近の仕事> ・「共闘先生」(SCEJA PSVita 2013) ・「こんなことになってんゾー!!」(SCEJA PSVita 2013) ・「我が家は南アルプスです」(サントリー 天然水サーバー 2013) ・「目から元気に」(メガネスーパー 2013) ・「こうしましょう」(TECDIA 企業CI 2013) ・「どーんとニッセイ学資保険」(日本生命 2013) ・「元気をもっと飲みやすく」(武田薬品工業 アリナミンゼロセブン 2012) ・「重力からの芸術の解放」(JAXA 人文社会科学パイロットミッション 2012) ・「反則?」(Reebok ZIGTECH 2012) ・「キッチンはステンレスエコキャビネットの時代へ」(クリナップ 2012) ・「光ライフいいんです」(NTT西日本 フレッツ光 2012) ・「全てを変える1秒がある」(CITIZEN ECO-DRIVE 2012) など