映画ドラえもん のび太の新恐竜を手掛けたCGクリエイター・森江康太が考えるCG業界の未来
「最近の映画はCGがすごいな!」と感じたことはありませんか? CGはアニメやSF映画などで描かれる架空の世界をリアルに表現し、見る人に感動を与えています。そんなCGを自由自在に扱うのは、CGクリエイターと呼ばれる方々です。
MORIE Inc.代表の森江康太さんはCGクリエイターでありながら、監督、ディレクター、映像作家といったあらゆる角度から映像作品を生み出し続けています。最近では『映画ドラえもん のび太の新恐竜』のCGアニメーションスーパーバイザーを担当した森江さんですが、これまでどんなキャリアを歩んできたのか、何をヒントに制作しているのか、など気になることを伺ってきました。
“アニメ”と“恐竜”、両極にあるものを融合し感動を生み出す
まずは最近話題になった『映画ドラえもん のび太の新恐竜』についてお伺いします。制作はいつ頃始まりましたか?
今回は恐竜をCGで作るという依頼を受けて、結構初期から関わらせていただきました。『ドラえもん』は毎年春に映画を公開しているのですが、映画本編が終わった後に翌年の映画のおまけ映像が入ります。そのおまけ映像にCGで恐竜を出したいという依頼を頂いたのが2018年の夏頃でした。ですので実は結構前からやってたので、制作期間だけで言うと1年以上関わっています。
映画『ジュラシック・ワールド』のように、リアルな恐竜を作るセオリーはある程度できあがっているのですが、アニメで恐竜を作るというノウハウは今までやったことが無かったので、具体的にどういう作り方をすればいいのか、キャラクターデザインも含めてやらせて頂けたというのが仕事としてはすごく楽しかったですね。
森江さんの手掛けた「NHKスペシャル 恐竜超世界」
恐竜と言えば、森江さんはNHKの恐竜番組も手掛けられていましたよね。
そうですね。僕が最初に関わったCGの仕事は、「FREEDOM」というアニメーション作品だったのですが、その仕事が終わった後、NHKの恐竜番組を手掛けるようになったんです。アニメと恐竜は両極にあって、アニメは昔から培われてきた技術や見せ方を追求するのですが、恐竜はできるだけリアルに忠実に再現することが求められる。つまり表現と再現のような違いがあります。アニメを経験してから恐竜をすごく研究した時期があったので、その流れで『ドラえもん』のオファーもいただきました。
点と点が線で繋がったんですね。では『ドラえもん』を手掛ける際に気を付けたことは何ですか?
とにかくキャラクターの感情や動きの表現を豊かにして、子供たちがしっかりと食いついてくれる映像を目指しました。「再現」を目指すのではなく、アニメならではの「表現」にかじを切ったというのが大きいです。
それと個人的に作画アニメーターの方に対して、CGクリエイターとして今も負い目を感じています。ですので、作画アニメーターの方から「すごいCGアニメーションが上がってきた!」という風に言って頂けるよう、『絵コンテにはこんなポーズは描かれてないけど、入れてみました。どうでしょう?』といった感じで弊社のアニメーターと試行錯誤しながらアイデアをいくつも提案させて頂きました。監督や作画アニメーターの方々の想像を超えた動きを作りたい、という願望も大きかったです。
映画は2020年8月に公開されるということですが、1番の見所はどこですか?
CGで作った恐竜に関しては動きや質感など、細部にまでこだわったので、是非そこも見て頂きたいという想いはあるのですが、やはり完成した映画本編を試写で観たら、悔しいぐらいに作画アニメーションが良かったですね。キャラクターがすごく生き生きと描かれてるところに、CGが至らない領域を、改めて感じさせられました。僕らCGアニメーターにはまだまだ沢山の学ぶべきことがあると、痛感しています。また、本編はストーリーがとてもステキで感動的ですので、ぜひみなさん劇場で泣いてください。
自分が培ってきたものがアイデアになる
そもそも森江さんがCGクリエイターを目指したのはいつ頃ですか?
映画監督になりたいというのが小学生からの夢でした。映画自体が好きというのもあったのですが、「映画のCG」が好きだということにはっきりと気付いたのが中学生の頃でした。当時は映画のCGのレベルがどんどん上がっていた時期で『ターミネーター2』や『トイ・ストーリー』、『ジュラシック・パーク』など、『最近の映画はCGがすごいね』と言われるような作品が沢山出始めた時期で、そこにすごく影響を受けてCGを仕事にしたいと思ったのはありますね。
学生の頃はどんな生活でしたか?
あまり真面目ではありませんでしたが、同級生にCGが(詳しく)上手な人がいて、専門学校時代は彼とずっと一緒にいて、放課後もずっと一緒に作品制作をしてました。彼とはそのまま同じ会社に就職しましたね。今振り返ると、学生時代はそこまでCGをやっていなかったのですが、20歳の頃から働き始めて、20代は毎日地道に手を動かしていたような気がします。そのおかげで技術力が身に付いたと思いますね。同じ会社に11年間勤めました。
独立されてからはどのようにお仕事を進めていますか?
最近は企画・演出から提案することが結構増えてきました。映像作品を作る上でディレクター(監督)という存在が必要なのですが、CG業界からディレクターになる人はあまり多くはない印象です。そもそもCG業界は受注型というか、「映像に必要なCGを受注生産する」という仕事の受け方が一般的です。ですので、映像作品全体を企画演出し、キャラクターデザインをイチから手掛けるといった作品を作る場合、CG業界にまるっと制作を投げるのは、なかなか難しいという側面があります。
そういった中で、僕はディレクターとして立ち振る舞い、必要であればシナリオや絵コンテも書き、映像作品の企画演出も自分たちで出来るという部分をCG業界に居ながら世間に提示していくことに非常に意味があると感じています。
なるほど。では作品のヒントにしてるものは何かありますか?
SNSで自分の好きな作家さんやフォローしてる人を見たり、話題になってる映像を見たりもするのですけど、アイデアは自分が今まで培ってきたものからしか出ないなと最近思うんですよ。
例えば今日見た技術はなんらかの手段として明日の作品に使えるなということは結構あるんですが、そもそもの根本的なアイデアそれ自体は、昔見た忘れられない作品や景色、体験がその源泉になっていることが多いです。それらが自然と自分が作る作品に影響していると日々感じます。
原風景から生まれることが多いということですね。映像で言うと、今まで影響を受けたCG作品は何ですか?
やはり『トイ・ストーリー』を見たときは衝撃的でした。当時は何度も観返して、フルCGアニメーションの映画というものに酔いしれていましたね。でも実は、今観返すとCGの技術的にはまだ発展途上の段階にあったんだなと思うシーンがいくつかあります。でも、当時はそんなことまったく気になりませんでした。これこそが映像作品のすべてだと感じます。
技術的な部分に拘ることもとても重要ですが、そもそも映像作品とは、「観る人を楽しませる」ことが目的だと思います。CGのテクニカルな部分にすごく拘ってしまうときもありますが、そもそもの目的を見失わないようにしなきゃと自分を戒めています。ちなみに『トイ・ストーリー』は“当時の技術力”という意味では圧倒的です。よくあれだけのものを作って頂けたと、制作されていた方々に感謝したいです。
【森江さん作品集】
NHK連続テレビ小説「ひよっこ2」タイトルバックはクリステにも登場してくれた田中達也氏と森江さんの合作
時間をかけて磨き上げた芸は誰からも奪われない
森江さんがこれまで手掛けてきた作品で1番思い出深い作品は何ですか?
27歳のときに作った『Express』というミュージックビデオは思い出深いですね。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにした作品です。それまでの働き方は下請け的というか、作品に非常に深く関わっていたとしてもクレジットに載せてもらえないなど、悔しい思いをいくつもしていました。こんなに特殊な技能を持ってるのにCG業界は立場が弱いな、とずっと感じていたので、そこに一石を投じようと、僕らだけでイチから作ろうというきっかけになったのがこの作品です。
転機になった作品なんですね。
そうですね。これが出てからディレクターとしての仕事の依頼も増えたので、そういう意味でも大きかったです。自分でイチから作ったという達成感もなかなか得難いものだなと思います。初監督作品ということもあり、すごく思い出深いです。
CG業界はますます注目されていくんじゃないかなと思いますが、今後CG業界はどんな風に変わっていくと思いますか?
実は“CG業界”という定義は難しいんです。CGはあくまでツールという立ち位置で、映画やCM、ゲーム、アニメ、VR・AR、遊技機などいろいろな業界と協業している状態と言えます。その時々で需要の多い産業は変わるのですが、使ってる技術はほとんど同じなので潰しが効くと思います。CGへの依頼だけで見ると、総量はどんどん増えているなと感じますね。今後もお仕事がなくなることはないでしょうし、もっと需要は高まると思います。
では森江さんご自身は今後どんな活動をしていきたいですか?
今35歳で現役世代なので、まだまだしばらくは作るということに軸を置いて活動したいです。出来れば、今後は自分のオリジナル作品も作っていきたい。
依頼されたものを作るというクライアントワークもすごく幸せで楽しいんですけど、純粋に自分のために作品を世に出したいですし、ゆくゆくは映画もやってみたいなと思います。CGを通して学んだ映像制作のノウハウを、今度は自分の作品に生かしたいという思いはすごく強いです。
最後にCGクリエイターや映像作家を志望している若者に向けてアドバイスをお願いします。
今の世の中って数字で測られることが多いと思うんですよ。例えばSNSのフォロワー数やいいね数が可視化される時代になりました。そうなると技術とは別にその人自身の数字でその人の価値が測られてしまうなと感じることがあります。これが続くと、若い人は「自分ももっとフォロワー数を稼がなきゃいけないんじゃないか」、「もっと有名にならなきゃいけないんじゃないか」と感じてしまうと思うんですよ。
でも僕がCGを15年間やって手元に残ったものは、やはり自分がずっと追求してきた技術力、いわゆる芸だと思います。これだけは誰も奪うことができないし、何があっても自分の手元にずっと残り続けます。
ただ、その芸を磨くためには数週間とか数ヵ月ではなくて、どうしても年単位という時間軸で向き合っていく必要があります。それでも僕は、安易に目先の数字稼ぎに走るよりは、時間がかかったとしても、じっくりと自分の腕を磨くことに本当の価値があると信じています。
取材日:2020年5月18日 ライター:坂本 彩
※オンラインにて取材
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