消滅しつつある言語
自分が使っているiPhoneには、使用する言語を選べる機能があります。以前はドイツ語の選択肢はひとつしかありませんでしたが、最近
●ドイツ語(ドイツ)
●ドイツ語(オーストリア)
●ドイツ語(スイス)
の3つの内から選べるようになっているのに気がつきました。
一概にドイツ語といっても、「こんにちは」という毎日使われる挨拶を例に取ってみても
●ドイツ → Guten Tag (グーテン・ターク)
●南ドイツとオーストリア → Grüß Gott (グリュス・ゴット)
●スイス → Grüezi (グリュツィ)
というように場所によって言い方はずいぶん違います。このことを通して、マイノリティ言語について再考するようになりました。
インドで200以上の言語が消滅
2013年にAFPが発表した記事になりますが、「インドでは過去50年間で200以上の言語が消滅した」というニュースを読んだ時とてもショックを受けました。
インドは膨大な数の民族が住む国家で、1961年のインド政府の国勢調査によると、当時約1,100の言語が存在しましたが、急激な近代化が進む中で870の言語が生き残り、230の言語が消滅したというのです。
言語は自分にとって人と繋がるためのコミュニケーション手段であり、アイデンティティとも言える大切な存在です。それが失われるとしたらどんなに大変で心苦しいことでしょうか。
日本にもある「消滅危機言語」
1,000以上の言語が存在するインドという国は自分の想像力の範囲を超えているので、マイノリティ言語について調べたところ、日本にも「消滅の危機に瀕する言語」があるそうなのです。
消滅危機にある言語とは、母語話者がいなくなることで死語化の危機にある言語のことをいいます。
世界には6,000~7,000の言語があり、そのうち約2,500に上る言語が消滅の危機にあるといわれています。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)が2019年に発表した「Atlas of the World’s Languages in Danger(消滅危機言語地図)」によると、日本国内では以下の8言語・方言が消滅の危機にあるといいます。
【極めて深刻】 アイヌ語
【重大な危機】 八重山(やえやま)語(八重山方言)、与那国(よなぐに)語(与那国方言)
【危険】 八丈(はちじょう)語(八丈方言)、奄美(あまみ)語(奄美方言)、国頭(くにがみ)語(国頭方言)、沖縄(おきなわ)語(沖縄方言)、宮古(みやこ)語(宮古方言)
な〜るほど。身近な例に置き換えてみると分かりやすいですね。ユネスコでは「言語」と「方言」を区別せず、全て「言語」で統一しているところがポイントです。方言も含めれば言語の範囲はぐっと広がります。
しかし、話者がなんと20人以下というアイヌ語や、比較的馴染みのある沖縄方言がリストに入っているという実態には、これまたびっくりさせられました。
前述したAFPの記事によると、インドで言語が消滅している理由には、人々の流動性と交流の増加を背景に、遊動民族らが母語を話すことに対する「恐れ」が原因としてあるそうです。
日本ではインドほど嫌がらせや差別を受けることはないと思いますが、方言を話すことで田舎者だと思われるのが恥ずかしいといった気持ちは理解できます。
また、少数言語を学んでも、その言語を生かした仕事に就いて経済的な利益を得られる機会が少ないため、親から子どもに言語が継承されなくなることも言語消滅の理由に挙げられるそうです。
冒頭の写真は、人口の0.5%が話すというロマンシュが話されるスイス・グラウビュンデン州の美しい山間部の風景です。
自分にとってマイノリティ言語が尊重され、複数の言語が存在する多言語国家として理想的な状態を保っているのがスイスです。次回は、スイスで経験したことを通して引き続きマイノリティ言語について考察できたらと思います。