売ってもらえなかった金魚
東京
編集ライター
海外暮らしと帰国してから
Joshy氏
日本のライターさんの中には、映画や音楽、医療のように、専門の分野を持っている方も多いと思います。
自分がドイツのベルリンに住んでいた時は、ライターの数が少なかったというのもあり、さまざまなジャンルの雑誌から依頼を受けました。
旅、デザイン、建築、アート、音楽、映画、コスメ、ダンス、グルメ、自動車、ファッション、ペット、スポーツ(サッカー)、馬、政治、文学……。
ざっと思いつくだけでも、こんな感じ。
よく、どれが面白かったですか? と聞かれますが、どの分野も例外なく興味深かったです。
例えば、自分にはベルリンで、ペットショップに金魚を買いに行き、売ってもらえなかった経験があります。店員さんから、金魚の飼育環境について、水槽の大きさから酸素ポンプのありなしまで事細かに聞かれ、洗面器の中で飼うと伝えた自分に、彼女は「あなた、酸素のない狭い部屋に住みたい?」と言い放ちました。
その時は心の中で、「人間も動物だよ~。動物を思いやるのも大切だけど、人間にも優しくね~」と思ったものですが、その後ペット雑誌からの依頼で、ドイツのペット事情について取材する機会を得ました。
そして、オーナーのペットに対する愛情の注ぎ方や、動物の愛護や管理に関する法律について知るようになり、「売ってもらえなかった金魚の背景」が分かるようになりました。ドイツには動物虐待を許容しない、社会的な風潮があるように思います。
自分にとって雑誌との仕事は、生きるための糧であることはもちろんですが、普段接点のない人や場所に接することで、ドイツ社会をより深く知ることができる貴重なツールでもあったのです。
プロフィール
編集ライター
Joshy氏
ヨーロッパに20年滞在し、ライターとして記事を発信。帰国後、編集者として働きながら、日々の中で感じたこと、文化の違いなどを綴ってみたいと思います。