映像2020.11.04

脚本術か、俳優術か

Vol.1
編集者・シニアハーバルセラピスト (JAMHA認定)
脚本と俳優と映画と
二橋彩乃
 
先日、ある映画監督、プロデューサー、俳優への取材の機会を得られた。
そこで改めて、「脚本」や「俳優の在り方」について、いろんなことを考えさせられた。
 
改めて、というのは、私は前職の出版社で、脚本家を目指す、
もしくはすでに活躍中の読者に向けた脚本の書き方についての実用書(いわゆる「脚本術」本)や、
俳優に向けた演技指南書を、編集担当してきたからだ。
 
「脚本術」本では、古くから伝わる鉄板の法則から、アクションやホラーなどジャンルごとの書き方の特徴、
限界まで言葉を削ぎ無駄を省くための技術、映像化に際してより面白く見せるための表現方法、
書き手にとって勉強になる映画のタイトル一覧まで紹介されている。
 
脚本家が、観客をのめり込ませるために、1行1行、一言一言に、
いかに思いを込めて映画の設計図たる脚本を書いているか、
何冊編集を担当しても、毎回深く感心し、唸っていた。
 
私自身も、短期間ながら映画の自主制作に携わり、シナリオスクールに通ったことがある。
特にスクールでは、1行をきちんと書くための技術や、映像へのセンスを磨く必要性を、ひしひしと感じた。
 
スクールの授業では、毎週、与えられた課題について書いた短い脚本を、クラスの仲間と先生の前で朗読する。
自分では笑ってほしいつもりで書いた台詞が、聞いていた仲間には重く受け止められてしまったり、
ト書きが小説風になってしまい、「で、どう映像にするの?」と先生に問い詰められたりする。
 
自分の頭の中にある映像を、そのまま思い通りに脚本の形式で伝えられたら……、と、本当に苦心した。
 
脚本家は、当たり前のように普段から人間観察を怠らず、
量が質に転換するまで映画や小説など大量のコンテンツに触れ続け、
書いたものを幾度も推敲し、どんな人間ドラマを作るか、日々苦心している。
監督も同じように、脚本家と何度もの打ち合わせを経ている(脚本を書く監督もたくさんいるが)。
 
こうして、一つ一つの台詞、振る舞い、ト書きの描写まで、
当然、1行1行がすべて計算され、磨き抜かれている。
 
しかし。
 
いざ、それを演じる俳優が、育っていないという。
そして、そんな若手をきちんと育てる俳優教育のシステムが、日本では少ないという。
 
若手俳優や俳優志望者向けのワークショップを開催しても、
課題となる脚本をきちんと読み込んでその場で表現できる俳優が、少ないという。
 
もはや、国語力というか、読解力の問題だと聞いた。
 
特に日本の脚本は、前述の通り、磨き抜かれたゆえに、余計なことが一切書かれておらず、想像力を要する。
 
読みながら、自分自身で「なぜ、ここにこんなことが書かれているのか」、
例えば「なぜ、この主人公はここでこの行動に出たのか、この台詞を言うのか」を、
そこに書かれていなくても、的確に掴まなければいけない。
台詞と行動が、いつも一致しているわけではない
(本音と建前のように。普段の生活から考えてみれば当たり前だが)。
 
想像力をフル回転させつつ、さまざまな技術をもって自分なりの表現をするのが俳優という仕事だが、
そこに至る手前、脚本を読み込む段階で、なかなか苦労しているという。
 
しかし、その俳優の表現を、映像で見せて、一つの作品として仕上げるために、
撮影や照明や衣裳など、すべての技術力が投入されていく。
言わずもがな、脚本が、すべてのスタッフをつなぐ土台になっている。
 
つまり、俳優が脚本をきちんと読めなければ、意思疎通ができないということになる。
脚本の理解が足りなければ、到底、血の通った役を作ることはできないし、
どんな作品を目指すのか、が、不明なままとなる。
 
「脚本術」よりも、「俳優術」のほうが、今は必要とされてきているのかもしれない……
 
表現のために、まずは「読む力」を根本から鍛えなくてはいけないのでは……?
 
これまでの作ってきたものとは違う、新しい切り口の企画が早急に必要だと、
なんとなく焦るような気持ちで、取材を終えたのだった。
 
 
プロフィール
編集者・シニアハーバルセラピスト (JAMHA認定)
二橋彩乃
2つの出版社で映画やデザイン、アート、生活実用など、多ジャンルの書籍編集経験を経て独立。独立後の仕事に『マンガで実用 使える禅』(編集・執筆/朝日新聞出版)、『美術館&博物館さんぽ 首都圏版』(編集制作/ぴあMOOK)、雑誌「セラピスト」(取材・執筆/BABジャパン)、企業の会報誌や医療系webメディアの執筆など。ハーブの魅力にとりつかれ、シニアハーバルセラピストの資格を取得(日本メディカルハーブ協会認定)。 クリエイターズステーションでは、植物(ハーブ&アロマ) or 俳優や脚本、映画について綴っている。

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