映画監督になるには 仕事内容・なり方 あの監督達の歩んできた道は?
映画が好きな人の中には、映画を撮ってみたい、映画監督を目指したいと思いながらも、まず何から始めればよいのか分からないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、映画監督の仕事とはどんなものか、映画監督になる方法や必要なスキルについて具体的に解説していきます。現在活躍中の監督が辿ってきた道や転機となったエピソードもご紹介していますので、是非参考にしてくださいね。
目次
1.映画監督とは
1-1. 映画監督とは?
映画監督の仕事は、企画段階から公開まで作品を巡る全ての工程に携わり、プロデューサーとともに統括していくことです。特に撮影現場では、全てにおいて指揮権、決定権を持ってキャストやスタッフを牽引していく役割を担います。
監督とプロデューサーとの違いを説明します。監督は「現場の最高責任者」として優れた作品づくりを追求する。対してプロデューサーは企画・資金調達・スタッフ編成・スポンサーとの交渉等、主にマネージメント部分の役割を担っています。とはいえ仕事の範囲が明確に分かれているわけではないので、監督自ら脚本を書いたり、予算や人数によっては資金調達を行う等、様々なポジションを兼任することも少なくありません。
1-2. 映画監督の仕事内容
・企画段階~撮影準備
脚本を元に画コンテを作成し、配役・ロケハン・衣裳合わせ・セットデザイン等、構想を映像に立ち上げるための準備をしていきます。
衣装や小道具等を決めたら、どうすればそれらを効果的に機能させられるかを念頭に置きながら、カメラ・照明・美術・衣装等各責任者との打ち合わせを重ね決定していきます。
思い描いた完成形にどこまで近づけるかがかかってくるとても重要な作業なので、準備段階で監督の頭の中に作品のゴールがしっかりとでき上がっていることがとても大切です。
・撮影開始~作品完成
ここでの監督の役割は、最高責任者としてキャストやスタッフを束ね、統率することです。司令塔となって、演出、俳優への演技指導、カメラワーク等の指示出しです。
現場では色々なことが同時に動いています。不明点やトラブル発生時には監督が判断し答えを出して先へと進んでいき、限られた時間での撮影が行われている場合も多く、素早い判断力が求められる場面もあるでしょう。
撮影終了後も監督の仕事は終わりません。編集に立ち合い、イメージどおりの作品に仕上げるため細かいチェックを行います。
・作品完成~公開
作品を沢山の観客に観てもらうためのメディア取材対応やプロモーション活動も監督の仕事です。
チームのリーダーとして常に全体を俯瞰しながら、発想力・推進力・決断力や柔軟性等、様々な能力を駆使して作品公開まで導いていくのが映画監督という存在なのです。
2.映画監督になるには? -方法は大きく分けて二つ
映画監督になるための特別な資格や学歴は必要なく、なり方にも決まった方法はありません。誰にでもチャンスがある、といえますが、決まった道がないだけに技術的スキルや感性・発想力を養いながら、自ら道を切り開いていく厳しい世界でもあります。
しかしながら活躍中の映画監督が歩んできた足跡を辿ると、選択肢は大きく分けて二つ見えてきます。
1つは「何らかの形で現場経験を積む」、もう1つは「独学で目指す」という道です。
2-1. 何らかの形で現場経験を積む
プロの下で実績を積めることはスキルを伸ばすうえで大きなメリットとなります。また、実績を積みながら自分の作品を作り続けた結果、関係者の目に留まり監督への道が開けた例も少なくありません。
では、現場経験を積むにはどうすればよいのでしょうか。
2-1-1. 現場へ入る方法1 -制作業界で経験を積む
・映画制作現場で経験を積む
映画製作現場へアシスタントとして入るといった方法があります。プロの仕事を間近で見て学べる機会ですが、映画の世界で働きたい人が沢山いるのに対し募集している人数が少ないため、常に狭き門となっています。
・他分野からの転身
テレビ番組、CM・音楽制作等、映像の現場で経験を積んでから映画制作の道へ進むケースは非常に多く、実際に現在活躍中の監督の多くは他分野出身です。
話の組み立て方や演出、映像表現で培った表現力は映画制作にも活かせるものが多く、また現場での体験から生まれるアイディアがのちの作品づくりの源となることもあり、映画監督を目指す人にとって成長の場となっています。
-テレビ制作会社から
是枝裕和監督(『万引き家族』)はテレビ番組制作会社時代に企画・演出したドキュメンタリー番組が「ギャラクシー賞」を受賞したことが、大きな転機になったそうです。
“ひとつの番組を作っていくプロセスで、自分の「世界に対する認識」が更新され、それが構成に反映され、番組が生き物のように変わっていくことを体感できたんです。”
引用元: https://employment.en-japan.com/myresume/entry/2020/08/25/103000
本広克行監督(「踊る大捜査線」シリーズ)は映画学校卒業後、制作会社でのバラエティ、ドラマ制作というルートを経て映画への道を進みました。
“ある先輩が「お前、映画撮りたかったんだよな」と言ってくれて初監督作品『7月7日、晴れ』(96年)を撮りました。“
“今までの経験、何ひとつ無駄になっていないんですよ。それって面白い。演出は基本、どんなジャンルでも同じだと思います。”
「新田真剣佑主演の群像劇『ブレイブ -群青戦記-』。本広克行監督の思い「携わった人にとって名刺代わりになる作品にしたい」
-CM・音楽・映像制作から
吉田大八監督(『桐島、部活やめるってよ』『騙し絵の牙』)は、CM制作会社出身の一人です。
CMディレクターやミュージックビデオの監督として活躍する中、短編映画の制作を手掛けたことが映画監督デビューへと繋がりました。
“よく「どうして、映画を撮り始めたんですか?」と聞かれることがあるんですが、ショートフィルムを数本撮っていたプロセスがなければ、映画を撮ろうなんてイメージさえ持てなかったはずだと思う。それくらい、自分にとっては大きな経験ですね。”
2-1-2 現場へ入る方法2 -学校で学んでから制作現場へ
制作業界へ入るために、まずは大学や専門学校で知識やスキル・ノウハウを身につける方法です。それぞれどのような特長があるのでしょうか。またメリット・デメリットについても考えてみたいと思います。
・大学で学ぶ
映画制作に必要なスキルは、映画学科の他にも映像・デザイン・美術系の大学でも学べるところがあります。
大学で学ぶことのメリットは、映画制作以外にも文学・美術・デザインといった様々な科目を学べることです。幅広い知識や教養はインスピレーションの源となり、表現を形にする力になるでしょう。
・専門学校で学ぶ
専門学校は、映画業界への就職に向けた実践スキルを集中的に習得することに重点を置いている傾向があります。現場のエキスパート育成の場というイメージです。制作業界で活躍中のプロを講師に迎え、現場に近い感覚を体験できるところも。また、学校やコースによっては大学と比べて期間が短く費用が安いのも特長で、一方では幅広い学問を学ぶ機会が大学よりは少ないため、発想力・アイディアといった部分についてはより自主性をもって培っていくことが必要となります。
学校で習得できることは知識や技術的スキルだけではありません。同じ目標を持つ仲間と切磋琢磨しながら、グループワークや期限に沿った作品制作等に取り組むことで、チームワークや「仕事をやりとおす」というプロ意識を培えるでしょう。
2-2. 独学 で目指す
比較的安価な撮影機材や編集アプリ等の制作ツールが増えてきたこと、YouTube等で世界に向けて発信できることで、自主制作映画を世に出すための環境が以前より整ってきています。
既存の枠や制約にとらわれず自由な作品作りができる一方、デメリットがあるとすればプロとの接点が少ないことでしょうか。その分知識やノウハウを自ら貪欲に吸収していくガッツが必要になってきます。また映画業界は人脈が重要な面もあり、その点でも自分で道を切り開いていく力が要るでしょう。
独学からプロの監督を目指す人にとって、飛躍への大きなステップとなるのがコンペに出品して評価を得ることです。また、コンペ出品には、受賞すること以外にも収穫があります。
プロに審査してもらえることは作品をブラッシュアップするよい機会ですし、また制作関係者の目に留まりプロへの道へ進むケースもあったりと、出会いとチャンスの場でもあるのです。
クリストファー・ノーラン監督(『ダンケルク』『テネット』)は、大学では英文学を専攻しながら自主制作で短編を撮ることから映画制作を始めました。映画ではなく英文学を専攻した理由について、「視点を広げるため」と話しています。また、Wikipediaによると、映画制作施設の整っていたことも大学を選んだ理由のようです。
映画監督になるために自分が身につけるべきものは何なのかを見極めることが、成功へ導く鍵となるようですね。
3.映画監督に求められるスキル
映画監督の仕事には多方面において高いスキルが必要とされます。具体的にはどういったことを身につければよいのでしょうか。
・幅広い知識と技術的スキル
制作現場で実際に動くのは撮影、録音、編集といった専門の人たちですが、責任者として指示、判断を行う為には機材や技術の仕組み、手法等の理解が不可欠です。
・発想力・感性
映画とは、インスピレーションやアイディアを広げ、具現化していくことです。
発想力を養うには、日々の生活において好奇心旺盛にアンテナを広げ、アイディアの種を探し続けることが大切です。
堤幸彦監督(「SPEC」シリーズ、『望み』)
“言いたいのは、一つだけでいいので、何か一つ「私はこれなんだ」というものを持ってください、ということです。”
“見つかるまで諦めないぞと執念を維持してアンテナを張っていると、必ず出会いがありますし、何かが見えてくる瞬間があります。何にもなかったはずなのに、つながっていることに気づき、驚かされる体験もするでしょう。”
・コミュニケーション力
コミュニケーション力は、映画監督が何よりも必要とするスキルです。
監督は常に誰かと密接にコミュニケーションをとりながら進めていく仕事です。大勢のスタッフを動かし、俳優の演技を引き出すためには、自分の考えを上手く伝える力・相手の声を受け止める力が不可欠。また、プロデューサーやスタッフと意見がぶつかった時にはやりたいことを押し通すだけではなく、柔軟に対応したり交渉する力も必要となり、どんな時も円滑なコミュニケーションをとれるように、日々の中で人間力を養うことが大切です。
4.どんな人が映画監督に向いているのか?
・映画が大好きな人
映画監督になるには、作品の成り立ちや表現方法を探求し、論理的に分析する力が必要です。分析力を養うにはただ単に観て楽しむのではなく映画を色々な角度から徹底的に研究することが役立ちます。カメラアングル・音響・編集等がどう機能して作品が成り立っているのか、具体的な表現手段を探っていくことで作り手の視点が見えてくるでしょう。また、自分で実際に撮ってみることも、俯瞰的観点や技法等を意識するのにいい方法かもしれません。
犬童一心監督(『ジョゼと虎と魚たち』)
“小学生のときから本当に好きな映画監督がいっぱいいて、その映画がどういうふうにできているかを知りたくて、真似したかったんです。映画は、たとえば人が会話しているとき、こっちを撮って次にこっちを撮りますが、普通、そういうことにはなかなか気づかないで、面白いからただ見ちゃっているだけです。でも僕は、好きな映画監督の撮ったシーンとか、ニュアンスとか、それを真似したいっていう欲望があった。それで8mmで映画を撮りだして、そのままずっとやっているようなところがあります。”
深田晃司監督(『よこがお』)
“今まで自分が観てきた映画から、映画を一番学んでいる気がしています。演技や音楽なども含めて表現をすることって、どこかで学ぶというよりは、日々の中で自然と学んでいたっていう方が大きいと思うんです。“
・困難を乗り越えるねばり強さのある人
映画監督の道は険しく、うまくいかない時もあるでしょう。そんな時、自分を信じ作り続けることが前に進む原動力となり、チャンスをつかむことにもつながります。
藤村享平監督(『パパはわるものチャンピオン』)
“結局本当に自分が面白いと思うものを書いた時に、全員には伝わらなくても何人かには伝わるんだという経験を得たので、その経験が僕の土台にはあると思っています。”
“「棚からぼたもち」の落ちてきたもちを取るには棚の下に居なきゃいけない。落ちてくるのは明日かも10年後かもしれない。でもそこに居続けることが重要だということ。チャンスが来た時にいつでももちが取れるように、精進するのが一番いいと思います。“
・人として魅力のある人
チームの中心でキャストやスタッフをまとめながら良い作品を完成させるためには、この人のために協力したい!一緒にいいものを作りたい!と思ってもらえる人物であることがとても重要です。日頃から、ポジティブな雰囲気を作る、良好な人間関係を構築していくといったことを意識・努力してみましょう。
上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』)
”僕が上から皆に指示をするのではなく、横一列に並んで一緒に映画を作るという感じですね。風通しが良く、スタッフ誰もがアイデアを出せる雰囲気だと思います。”
5.まとめ
以上、映画監督になるにはどんな方法があるか、どんなスキルが必要かについて解説してきました。
映画監督は、アイディアを広い知識とスキル・人間力で形にしていく仕事です。身につけるべきことが多く長い道のりに感じられますが、ご紹介してきたように、現在活躍中の映画監督たちも葛藤と模索を繰り返しながら、独自のアプローチ方法を確立してきたのです。
先人たちの歩んできた道もヒントにしながら、はじめの一歩を踏み出してみませんか。
趣味:ピアノ演奏・語学学習・映画鑑賞・グルテンフリー創作料理