世界一美しい本を作る男②
みなさん、アートブックはお好きですか?
アートブックとは、その名のとおりアーティストの作品を本の形態にした作品集です。写真家が自分の作品をまとめた写真集は分かりやすいアートブックのひとつですが、無名のアーティストが自分で手作りしたこの世に1つしかない冊子もれっきとしたアートブックであり、部数やフォーマット、値段などに規程はありません。
ドイツにいた時にアートブック専門店に行くと、格調高い画家の絵画集からパラパラブックまで、さまざまなアートブックが並んでいて、その自由な表現形式に魅せられ、夢中になって眺めていました。
アートブックの魅力はお気に入りのアーティストの作品が、オリジナルのアートと比較して手頃な値段で手に入り、好きな時に見ることができるということにあると思います。
「世界一美しい本を作る男」という日本でも公開されたドキュメント映画で一躍有名になった出版者ゲルハルト・シュタイデルさんに、いいアートブックの定義について問いかけた時、まったく同じ答えが返ってきました。
「豪華な装丁で大判のアートブックは人目を引き、売上げもそれなりに伸びます。しかし私はソファで眺めたりベッドにも持ち込んだりできるサイズの本が好きです。毎日の生活にしっくり馴染んで愛される、そんな本を私は創り続けたいと思っています」
世界中の最高の芸術家の作品を、なるべく多くの人に届けたいという彼の出版に対する姿勢の中に自分は、質素さ、実用性、機能性を重んじるドイツ人らしい気質を感じます。
それを裏づけるように、シュタイデルさんは自分のことを「グーテンベルクの末裔」だといいました。
ヨハネス・グーテンベルクは、15世紀にヨーロッパではじめて活字による大量印刷を行った活版印刷の父と呼ばれる偉人です。
グーテンベルクの業績は、宗教改革者マルティン・ルターによるドイツ語訳聖書を、印刷によって民衆に広めたことだといわれています。それによって、長い間ラテン語で記されてきたため貴族や聖職者など特権階級のものだった神の言葉(聖書)に、誰もが接する恩恵を授かるようになったのです。
最高に価値のある本が誰にも読まれず朽ち果ててしまうとしたら、なんとも悲しいことですが、いつも時代も本当に必要なモノはシュタイデルさんのような価値を悟った人の情熱によって私たちの手に届く運命にあるのではないかとも思えます。