「本の居場所を、映画で応援したい」篠原監督『本を綴る』取材で知った、街の本屋の実情
「本の居場所」となる街の本屋さんや図書館、そして作家さんをも応援したい! と企画された映画『本を綴る』が、2024年10月5日(土)より新宿 K’s cinema、京成ローザ⑩他にて全国順次公開される。
“全国の「本の居場所」を映画で応援したい!! ”という思いから始まったこのプロジェクトは、もともと2021年、『東京の本屋さん〜街に本屋があるということ〜』というYouTubeチャンネルが開設されたことから始まっている。
その後、YouTubeチャンネルには書店紹介動画が制作され、篠原哲雄監督と脚本家の千勝一凜などが携わることに。篠原監督が本屋に取材していく中でその実情や店主の声を聞き、「本屋にまつわるドラマ」を企画書にまとめて東京都書店商業組合に出したことがキッカケとなり、YouTubeドラマ『本を贈る』が制作された。(約10分×9話、2022年2月25日より配信中)そして、10月5日から公開される『本を綴る』は、YouTubeドラマの続編にあたる。監督を務めた篠原哲雄監督に、映画のこと、自身のキャリアのことについて聞いた。
20年前に比べて約6割が減少…消えてしまった街の本屋さん
10月5日公開の『本を綴る』は、昨年12月に映画の舞台でもある那須で先行上映されましたね。反響はいかがでしたか?
テーマ的にも、那須の方々にとって非常に好まれるタイプの映画だったようで、90席ほどの上映会場は連日満席でした。私含め俳優陣も上映会に参加していて、始めは1週間のみ公開する予定が、あまりに盛況でもう1週間続映したほどです。
映画には地元の関係者も出演しているのですが、最初は自分の知り合いを見に来た人も、やがて映画から感じられる本屋の心地よさを求めてリピートしてくれるようになりました。また以前、那須でYouTubeの『本を贈る』を図書館やイベントスペースで上映したこともあり、地元の人にとってもなじみ深い作品だったのかもしれませんね。
『本を綴る』公開のきっかけとなったドラマ『本を贈る』について教えてください。
現在、昔懐かしい街の本屋さんは、20年前に比べて約6割も減ってしまっています。そんな状況で東京都書店商業組合より「消えてしまった東京の本屋さんに一人でも多くのお客様が足を運んで貰えるようにしたい!」という相談を受け、私と脚本家の千勝一凜などが携わり、街の本屋さんと店主さんにスポットを当てた紹介動画を制作しました。そこで、本屋さんの後継者問題、店主のこだわり、書店流通の仕組みを学び “主人公が本屋の実情を知っていくドラマを作りたい!”と思い書店組合に企画書を出したんです。
その企画書が無事ドラマ化につながったんですね。そこからどのように『本を綴る』の制作に至ったのでしょう?
ドラマ『本を贈る』を観た方から「その後どうなったの?」「全国には素敵な本屋さんがたくさんある」などの声を多数頂いたんです。もともと『本を贈る』の時点で“書けない作家が書けるようになるまで”というスピンオフのような構想はありました。でも、せっかく『本を贈る』で東京の本屋の話を作ったから、全国の魅力的な本屋を巡るような話にできないか? と思い、そこからストーリーも決めていきました。
本作の主人公である一ノ関哲弘(矢柴俊博)はかつてベストセラー作家だったけれども、ある理由で作品を書けなくなってしまいます。そこで旅に出て、一期一会の出会いや友人との再会で刺激と温かさ、厳しさを痛感しながら書けなくなった原因と向き合う…という物語になっています。
今回の物語は、那須・京都・香川が主な舞台になっています。実際に取材に行かれて、どんな本屋さんがありましたか?
香川県であれば、全国にいくつもの本屋を展開している宮脇書店。京都であれば、一乗寺駅(叡山電車)近くに恵文社があります。恵文社は英紙の「世界で一番美しい本屋10」として、2010年に日本で唯一選ばれた本屋さんでもあります。
それから那須に2017年にオープンした「那須ブックセンター」は、登山客が多く訪れる那須連山の麓にある本屋さんです。書店の無いエリアである那須町の一角に本屋を作り、書棚にこだわった書店を作ろうということでオープンしたのですが、残念ながら2021年に閉店してしまったという話を聞きました。そのため、やはり書店を盛り上げようという機運や運動は大事だと思い、主人公が那須ブックセンターを訪ねたけれど既になくなっている事実を知り、それが主人公の行動の発端になる…そんな物語を描きたいと思い、脚本作りが始まりました。
篠原監督作品『草の上の仕事』、『月とキャベツ』で実感した“チャンスを掴む嗅覚”
『本を綴る』では、主人公のベストセラー作家が “書けない”という状態に陥ってしまいます。篠原監督はキャリアの中で、書けない・撮れないという時期はありましたか?
幸い自分は監督としては比較的仕事に恵まれていた方だと思います。なので監督としての決断に迷うことはあっても仕事はうまく押し進めていたと思ってます。
自主制作から監督になる道として『草の上の仕事』が映画祭で評価を受け、劇場公開に至ったことが大きな弾みになりました。その後、『月とキャベツ』(96年)に至るまではオリジナルで企画を考え映画会社にもプレゼンして動いていた時期もありました。その中でご縁があった会社の一つがアスミックエースさんで、当時原社長が手掛けられていた「サッポロ映像セミナー」では、書き上げられた脚本を新人監督に撮らせるというミルプロジェクトが誕生しました。そこで僕に一つのチャンスが与えられたんです。そのプロジェクトで選んだ脚本は「眠れない夜の終わり」というタイトルだったけれど、自分なりに映画化を目指していく中で『月とキャベツ』という映画に変貌していきました。
もう一つのチャンスは、助監督時代から付き合いのあるボノボという会社の笹岡幸三郎プロデューサーが自分に合うだろうと見つけてくれた「洗濯機は俺にまかせろ」という原作です。これも原作を活かしながら映画化できたということは自分にとって大きな経験になり、これをきっかけに他の映画会社からオファーを受けれるようになりました。その後、『はつ恋』(00年)や『天国の本屋〜恋火』(04年)という風に繋がっていき、比較的コンスタントに映画を撮れる環境に巡り合えるという幸運な時期もありました。
ですが、僕の仕事は脚本家と二人三脚で作り上げるというやり方が多く、多くの優秀な脚本家に随分と助けられているという自覚があります。僕自身、最初のオリジナル作品『草の上の仕事』以来、オリジナルを書けていないというジレンマはずっとあります。けれど、一方で監督と脚本の仕事の違いというのもわかってきて、僕自身、演出のプロを目指すようになっていきました。
現在は自分で脚本を書くことはありますか?
いえ、実は書こうという意欲自体はあったんですが、今はその作業を脚本家の方にゆだねるようにしているんです。もちろんすべての映画の脚本に関わりますが、ゼロから脚本を書くことはしていないですね。特にトラウマがあるわけではないんですが(笑)。
頭の中に企画は思い浮かぶけど、書く才能と撮る才能は違います。監督業が日々現場と向き合うことが主な仕事であるのに対し、脚本はひとつの作業に没頭する必要があり、時間の過ごし方も違います。ただ、今回の『本を綴る』を撮ってみて、僕も書かなきゃいけないんじゃないかなって思いました。いつかオリジナルを書きたいって思うけど、なかなか行動には移せないですね(笑)。
最後に、映画業界を志すクリエイターの皆さんに向けてアドバイスをいただきたいです!
何かやりたいと思った時、チャンスはどこかに必ずあって、それを信じていくしかありません。じゃあどうするかというと、タイミングを見極めることが重要だと思います。
以前、お笑いコンビ・爆笑問題の太田光さんが監督を務めた『バカヤロー!4』(91年)という映画で助監督をやっていたんですが、太田さんとすごく仲良くなりました。そこで、自分が考えていた脚本を太田さんに見せて、「私の映画に出てくれませんか?」と言ったら、二つ返事で「やります」って言ってくれました。
そこから脚本も見直し、少し借金をしながらも世に出したのが、『草の上の仕事』(93年)です。自分の監督・脚本作品としては初の16ミリ作品かつ、劇場デビュー作でもありました。40分ほどの短編なんですが、神戸国際インディペンデント映画祭のグランプリも受賞し、自分の監督人生で大きな転機にもなりました。
虎視眈々と、チャンスをうかがっていたんですね。
『草の上の仕事』や『月とキャベツ』で、人生はいろんなことが巡り廻ってチャンスが訪れるんだと実感しました。それは周囲の協力や相手の出方を敏感に察知し、前に進んでいった結果だと思っています。チャンスに巡り合うのには時間がかかるかもしれないけど、来たら絶対に掴んでやるという意識を忘れない。特に若い人は諦めずにやり続けること。僕も自主映画を作るまで8、9年くらいかかりましたし、すぐ諦めちゃダメですよ!(笑)。
『本を綴る』
10 月 5 日(土)より新宿 K’s cinema、京成ローザ⑩他全国順次公開
■『本を綴る』ストーリー
小説が書けなくなった作家・一ノ関哲弘(矢柴俊博)は、全国の本屋を巡りながら本の書評や本屋のコラムを書くことを生業にしている。旅に出て一期一会の出会いや友人との再会で刺激と温かさ、厳しさを痛感しながら書けなくなった原因と向き合う。哲弘には「悲哀の廃村」というベストセラーがあるがその本が書けなくなった根源でもあった…。
■出演
矢柴俊博 宮本真希 長谷川朝晴 加藤久雅 遠藤久美子
■監督・総合プロデュース|篠原哲雄
■脚本・キャスティング・プロデューサー|千勝一凜
■プロデューサー|櫻庭賢輝
■アソシエイトプロデューサー|山中勝己
■音楽|GEN
■主題歌|ASKA 「I feel so good」
■撮影|上野彰吾(JSC) 尾道幸治
■録音|田中靖志 田辺正晴
■照明|浅川周
■助監督|市原大地
■企画協力|日本書店商業組合連合会 東京都書店商業組合
■デザインイラスト|松永由美子 宮本奈々
■企画・製作|ストラーユ
■配給|アークエンタテインメント
■2023年|カラー|日本|DCP|ビスタ|107分|5.1ch ©ストラーユ
■公式サイト:http://honwotsuzuru.com @honwotsuzuru :@honwotsuzuru ハシュタグ:#本を綴る
■YouTubeドラマ「本を贈る」URL
https://www.youtube.com/playlist?list=PLqEsc8gylHta5a4paoMSN4WVnH3vzSHuG