「一」と「無」のあいだ ―書作品と図書の展示―

東京
書道家・ライター
Tohku
桃空

12月4日(金)から明治大学生田図書館Gallery ZEROにて実作品の展示が始まりました。

例年どおりならなんの問題もなく誰でも出入り自由でしたが、2020年は始まりからこれまでCovid19の流行が一向に下火にならず(そればかりか医療機関も深刻で)、あいにく窓のないGallery ZEROは人がなかに入れないようになっています。そこで「密閉された空間そのものを見せる」展示にしました。

箱型の空間を想像していると、ふと、自然と良寛の五合庵での隠遁生活が頭に浮かんできました。

続いて、たまたま行った古本屋で「良寛」とだけ書かれた布張りの和綴じ本と出合いました。

たとえこんな偶然が重なっても「良寛の臨書だなんて自分には十年早いだろう」そう思ってパラパラとめくりはじめました。

冒頭には「天上大風」の凧、よく学んだとされている古の中国書人の字と比較された評も載っていました。

わたしにとって「狂草」は書のなかでも魅力的な境地であり、この書体こそ今の状況である「蜜」を語っていると感じました。

「誰もが読める字ではないのに、屏風となって飾られてしまっている」その矛盾の面白さ!驚愕です。

思わずそのへんにある半紙をまえに筆をとりました。

そして、室内で全紙を六枚も広げて書くことにも、ちょっとした矛盾を感じながら書き始めていました。

案の定、部屋じゅうが「良寛だらけ」になって行くわけです。書も狂っているけれど、なんだかとても楽しい!

良寛の文字は、重々しい心持ちでは絶対に書けないことも臨書でわかったことです。

心軽やかに、そしていつも傍らに「自然」を感じて書くのが合っています。

「一」について、デジタル展覧会の「はじまり」のところで触れています。

書人たちの「一」は、それぞれに書き方が違います。逆筆で入ったり、ガクガクと揺れて書かれているものもあるわけです。

書字は「点」や線となる「一画」が最小単位といえますが、それさえも全員違う書き方をするのです。

もうひとつ「無」についてですが、このとらえかたも人ぞれぞれだと思っています。

在るものがそこに在り、しかしいつかは消えゆくものです。自然も、人も、消えてなくなる。

だけれども、なにか見えないものが、どこかに残ってしまうと思うのです。それを「無」とわたしはとらえてみます。

また、デジタル展示のなかでは「経過」はお見せできておりませんが、「良寛 漢詩屏風 一隻」の臨書作品の下には

真っ白なロール紙がダーッと敷き詰めてあります。

この上に、良寛屏風の残り一隻の文字を散らしながら現在書き進めています。

「無 Ⅰ」と題した、いわゆるワーク・イン・プログレスなのですが、このロール状の紙に臨書したあとに「捨てる」予定です。

この時代に捨てるとは!と、怒られてしまいそうですが、本来、紙は燃えて消えゆくものです。

かつて「焚書坑儒」という思想の弾圧がありました。

こういうことは「かつて」のことであって、今起きるべきではないと思っています。

思想への弾圧、自由を脅かすことなどは、歴史からなにも学ばなかったことになります。

良寛はきっと「書いたあとに燃やしますよ」と言ったとしても、理由がわかれば許してくれるでしょう。

世界はいま、大きく揺れている。

わたしたちは心の底でそれを感じている。

感じないふりをしながらも、わたしたちはほんとうはわかっている。

わたしはこの場所で「良寛や空海の臨書ができた」ことを幸せに思います。

今後の世界が少しでも平和に、自然に近づけるように願います。

「書の展覧会」は大概、紙と筆の食い込み具合や、墨の染み込みの度合いなど、また面白みがあるのは筆順が紙の染み込みによってわかることもあり

遠くから書の展示を見ることに違和感を覚える人も少なくないでしょう。風合いや味わいを重視した書道の世界では批判されそうですが「今は今なりの見せ方」というのがあるのではないかと考えたうえで展示しています。「遠くから全体を見る」ことも「余白」を見ることも、書の別の鑑賞ではないかと思います。

どうぞご覧になって、そして忌憚なきご感想をお聞かせいただけたらと思います。

●手順●

①Comceptboard【計画・設計スタジオ1/「一」と「無」のあいだ】画面

②〈Sign in〉〈Guest acces〉を選択しお入りください。

 ※過去Comceptboardを使用したことのある方は〈Sign in〉、その他の方は〈Guest acces〉へ

③扉からボード〈右〉へとお進みください。

④〈大きな円相〉のまわりに作品とビデオのアイコン散りばめられています。

 ※PC、Macintosh 左下の〈Minimap〉で見ている箇所が確認できます。

 ※スマートフォン ピンチアウトで画像拡大してください。

 ★ご注意、PC、Macintoshから動画はハイパーリンクからご覧になれますが、

  スマートフォンからは以下のURL(Vimeo)でご覧になれます。

  1.墨と硯 書 桃空、撮影/編集 篠田優

  2. 書 桃空、撮影/編集 篠田優

  3. 書 桃空、撮影/編集 篠田優

  4.円相の裏側 書 桃空、撮影/編集 松本力

 

⑤図書選定【「書」と「図書」 はどのように響きあうのか】

 管啓次郎(明治大学教授)、林真((独立研究者、総合芸術系博士前期課程修了生)、中野行準(総合芸術系博士前期課程1年)

Comceptboardデザイン、レイアウト 谷口岳 

GalleryZERO展示 笠間悠貴

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墨と硯(Vimeo 上記リンクよりキャプチャー)

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円(Vimeo 上記リンクよりキャプチャー)

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Comceptboard【計画・設計スタジオ1/「一」と「無」のあいだ】画面の全体はこのようなマップになっています。

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