行間と行送り ~連載「組版夜話」第14話~

連載「組版夜話」第14話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田年昭

コロナコロナで鬱陶しい日々が続くが、 みなさんお変わりありませんか。

組版の仕事は、 活版の時代には工場労働だった。 同僚、 仲間との共同作業の要素がいまよりもずっと色濃かったのである。 写植になり、 DTPになって、 組版仕事から労働としての要素が薄くなっていったことは、 致し方ないこととはいえ、 失われたものは、 決して小さくはない。

二人でモノを運ぶときにあっちとこっち、 目と目で合図して、 息をあわせて持ち上げるような、 そんな共同作業のあり方はDTPでは、 ほとんどなくなってしまった。 正確にいえば、 「息をあわせる」 ときに、 身体で伝えられる要素が減ってしまったということだろう。

その分、 仕事のうえでのやり取りに占める言葉の重要性はいっそう増しつつある。

隣接する職域や分野に対してはもちろん、 同じ職域、 分野に対しても、 しっかりと言葉にして伝えることが、 決定的に大切になってきている。 指定紙の指示や校正紙の赤字を読み取る際に、 お互いに意味が正確に了解できなかったことはないだろうか。

今回から、 組版の基本用語について考えていきたい。 第1回は、 行間と行送りについてである。

和文組版における行間とは 「隣接する行の最も大きな文字サイズの文字の外枠間の距離」 のことであり、 行送りとは 「隣接する行の中心線から中心線までの距離」 のことである。

和文組版の基本用語として、 なぜ、 行間と行送りとの二つの言葉が必要なのか。 そこには区別と理由がある。

しかし、 他方で、 ワード (MS Word) では、 行の上端 (縦組みでは右端) と次の行の上端 (縦組みでは右端) までの間隔のことを 「行間」 「間隔」 と呼び、 「行送り」 も同義としている。 ここに混乱の一因がある。 いや正確にいえば、 原因をワードが作ったというのではない。 ワードは和文組版に対する一知半解の、 ひとつの、典型的な現象であり、 結果なのである。

〔この項、つづく〕

 連載「組版夜話」もくじ

プロフィール
組版者
前田年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

  汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
  KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
  繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP