続・URLという難問 ~連載「組版夜話」第19話~

連載「組版夜話」第19話
組版者
MAEDA, Toshiaki
前田年昭

異物ともいえるURLを和文組版のなかでどう取り扱えばいいのかを前回, 考察した。 今回も引き続きURLの話である。

なぜ, それほどまでに気を使うのか。 困難の理由は, 文字列が意味を持たない (ことが多い) ことにある。 意味を持たないから推測がはたらかない。 ゆえに書く (発信) 側も読む (受信) 側も一字一句間違えないように緊張させられる。 入力を間違えた結果,アクセスしたいURLにたどりつけず, 「404-Page Not Found」というエラーメッセージとともに迷い子になってしまった経験はほとんどの人にあるだろう。 「Unable to Connect」 というエラーとはちがって, 「Not Found」 はたいていの場合, 入力したURLが存在しているURLと合致しないことに起因する。 入力スペルミスのほかにも, URL中のスペースや全角/半角の混在をめぐる混乱,メール文でやり取りするうちにURL中に入ってしまった折り返し改行の問題などが, やり取りをさらに困難にする。

意味の無い記号に過ぎないURLも, 組版する際には, その前提として, 使われる文字と仕組み, 構造について, 最低限, 知っておく必要がある。 URL(URI)で本来使える文字は, アルファベット A-Z a-z, 数字 0-9 および - _ であるとRFC 3986で規定されている。 < > # " % { } | \ ^ [ ] ` は使えない。 また, OSによる扱いの違いがあり, 大文字/小文字は,UNIXは区別ありだがWindowsやMacintoshは区別なしだ(設定側は大文字アルファベットは用いない方が安全である)。 半角スペースは, WindowsやMacintoshではフォルダ名やファイル名に使うことは認められているが, URLには使用できない。 この場合, パーセント・エンコーディング(Percent-encoding), 「%」 に続けて16進2桁のコードで記述する方法で回避する。 たとえば、半角スペースの16進数のASCIIコードは 20 なので, %20 と書く(例・「bread and freedom」は「bread%20and%20freedom」と記述)。

全角の和字, 漢字や仮名を使って, たとえば, 「真土事件」 のWikipedia記事のURLを知人に紹介したいという場合 (ちなみに, Wikipediaのなかでは 「真土事件」 の記事は秀逸), そのURLは https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%9F%E5%9C%9F%E4%BA%8B%E4%BB%B6 となる。 末尾の %E7%9C%9F%E5%9C%9F%E4%BA%8B%E4%BB%B6 ココが 真土事件 を表す文字列になるが, これは通常コピーペーストすることはあっても手入力することは難しい。 つまり, リンク付けや文字列コピーができるウェブや電子書籍ならいいが, 紙媒体では不可能だ。 いちおう載せておきましたよという, ひとりよがりのアリバイ的な発信でしかなく, そこには受信者 (読者) への心遣いはない。 それならいっそ 「Wikipediaで検索 真土事件」 と検索語とサイト名であらわしたほうが, 当該の情報へたどり着きやすいのではないだろうか。

URLは話し言葉ではなく書き言葉でありしかも特殊な書き言葉意味の無いモールス符号のような文字列である

目的あっての行為であるから, 発信者はできるだけわかりやすく, URLを伝える必要があり, 「アルファベット A-Z a-z, 数字 0-9 および - と _ 」 で, しかも短く伝えられない場合――たとえば紙媒体――では, QRコード作成ツールでこしらえたQRコード (右に載せたのが 「真土事件」 記事URLをQRコードにしたもの) で伝えるなどするのが現実的である。 もっとも, この場合, 文字を並べた行組版のなかにQRコードという画像, しかもどんなに小さくても一辺5mm以上の大きさを持つ画像をどう組み入れるかという新たな 「困難」 が生まれる。

組版は読者 (受信者) への心遣いでありそれをかたちにするためには組方向と用字系に対する, 目的に沿った認識が必須である

 連載「組版夜話」もくじ

プロフィール
組版者
前田年昭

1954年、大阪生まれ。新聞好きの少年だったが、中国の文化大革命での壁新聞の力に感銘を受け、以来、活版―電算写植―DTPと組版一筋に歩んできた。

1992-1993 みえ吉友の会世話人、1996-1998 日本語の文字と組版を考える会世話人、1996-1999 日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員。現在、神戸芸術工科大学で組版講義を担当。

  汀線社WEB https://teisensha.jimdofree.com/
  KDU組版講義 http://www.teisensha.com/KDU/
  繙蟠録 http://www.teisensha.com/han/hanhanroku.htm

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