新型コロナウイルスの騒動が続いている。 　マスクを探し求めて、都内を駆け巡った方も少なくないと思う。見えない敵に怯える日々は当分続きそうだ。 　そんなある日、トイレットペーパーとテッシュペーパーが同時になくなったので、近所のドラッグストアに買いに行ったのだが、どこを探してもない。置いていないのだ。おかしいなと思いながらも、近くのスーパーに向かった。ところがここも、いつもは山積みになっているはずのトイレットペーパーもテッシュペーパーも姿を消していた。 　何もない棚の上に、１個だけ商品が残っていた。見るとそれは「鼻セ○ブ」という超高級系のテッシュで、一度は手に取ったもののその値段を見て、その高さにビビり棚に戻していた。いくら切羽詰まっていても、テッシュごときに払いたくない値段だった。 　いったいこれはどういうことだ？　近くのカフェに入ってアイスコーヒーをすすりながらスマホで検索してみた。 〈トイレットペーパー　ティッシュペーパー　ない　何故〉 　そしてすぐにその理由が判明した。なんでもネットで、 〈使い捨てマスクとトイレットペーパーやティシュペーパーは、 原料が同じ紙だから、品薄になる〉 　そんな情報が拡散したため、買占めが始まったのだという。これは九州地方発信のデマだったらしいが、買占めは止まらず、街のあらゆる小売店からトイレットペーパーもテッシュペーパーも姿を消してしまったということらしい。 　困り果てて最初のドラッグストアに戻ってみると、店員の女の子が空になった棚の前で、値札の張り替え作業をしていた。 「凄いことになってるね」 　僕が声をかけると、 「申し訳ありません」 　店員の女の子は本当にすまなそうに頭を下げた。 「当分入荷しないの？」 　そう尋ねてみたら、 「確実ではないのですが、明日入荷するみたいです」 　意外だが、嬉しい答えが返ってきた。 　そして僕は、翌朝開店前に並ぶ決心をし、その夜は早めに床に着いたのだった。（その２へつづく）