ティシュペーパー狂想曲❤︎その2

Vol.9
編集&ライター
Juzooo
ジューゾー

 デマの拡散により、町中の小売店からトイレットペーパーとテッシュペーパーが消えた事件発生中の最中、僕はドラッグストアの店員の女の子から有力な情報を得た。 「確実ではないのですが、明日入荷するみたいです」  その情報を信じ、早く床に着いた僕は、7時半に起床し、8時過ぎに家を出て、駅前のドラッグストアに向かった。 「入荷するのは、トイレットペーパーなのか、それともテッシュペーパーなのか、それともひょっとして両方?」  期待に胸を膨らませながら、開店の9時にはまだ早いから、ちょっとカフェでモーニングを食べていこうか。いやいや、最優先はトイレットペーパー&テッシュペーパーの確保だ。モーニングはそれからでも遅くはあるまい……。  そんなことを考えながら、ドラッグストアを目指した。新規開店したスロット場の角を曲がると、ドラッグストアはもう目の前だ。時計を見るとまだ8時20分過ぎ。やっぱりちょっと早かったかな。  そう考えながらスロット場の角を曲がると、驚きの光景が目に飛び込んできた。なんとまだ開店まで30分以上もあるというのに、ドラッグストアの前にはすでに長い人の列が出来上がっていたのである。ゆうに100人はいるだろうか。僕は唖然とし、その場で棒のように立ちすくんだ。次に失望が波のように襲ってきた。せっかくの休日に早起きして出てきたのに、なんたる光景だ……。  僕は重い足取りで行列に近づいたが、その数に圧倒されて並ぶのを諦め、カフェへ行こうとした。するとその時、行列が動き始めた。 「やはり並ぼう」  そう思い返して、行列の最後尾に並んだ。行列は順調に進み、ようやく店内に入ることができた。トイレットペーパー&テッシュペーパーが置いてあるのは2階だ。はやる気持ちでエスカレーターに乗る。昔のオイルショックの時のように、おばさんたちが取り合いをしているのだろうか。エスカレーターを上りきると、テッシュ5箱入りのパッケージを抱えた男が勝ち組みの顔で立っていた。売り場は一番奥だ。自然に足早になった。しかし、その棚には何もなかった。その前で諦め顔で何人もの人が立っていた。レジには男と同じテッシュ5箱入りのパッケージを持った人が10人ほど並んでいた。周りの人たちの会話で、その朝に入荷したのはテッシュだけで、それも20人分ほどしかなかったらしい。  多くの人たちと同じように、僕は重い足取りでドラッグストアを後にした。カフェに入り、モーニングを食した。早起きが徒労に終わったことに、後悔はしていないが、少し虚しかった。  10時過ぎ、カフェを後にして家に帰ろうと交差点で信号待ちをしていると、あのドラッグストアのものとは違うテッシュ5箱入りのパッケージとトイレットパーパーの包みを抱えた主婦が歩いていくのが見えた。どうやら駅裏のもう一つのスーパーの方から歩いてきたらしい。 「ひょっとしてあそこにはまだあるのか?」  思い直してそのスーパーに向かった。ここも日用雑貨売り場は2階だ。エスカレーターを駆け上がる。しかし、待ち受けていたのは空っぽになった棚だった。 「ここももう売り切れてしまったのか」  愕然としていると、おじさんの店員が台車を押してやって来た。なんとそこには、テッシュ5箱入りのパッケージが10個ほど載せられており、棚に並べ始めたのだ……。  こうして僕は、やっとテッシュ5箱入りのパッケージを1つ確保することができたのだった。デマのせいで、とんだ目にあったものだ。

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