沙羅双樹の花に見る、散り際の美学。
梅雨の季節の花といえば、紫陽花を想う人が多いでしょう。
しかし、紫陽花も今は、温室でどんな季節にも咲かせることができるようになったようです。冬にも紫陽花は楽しめます。
そんな進化した栽培事情がある中、昔ながらの季節感も残っています。
今なお、6月にしか咲かない花をご存知ですか?
それは、「沙羅双樹(さらそうじゅ)」の花。
沙羅の花はツバキ科で、「夏椿」と呼ばれることもあります。
椿は冬に咲く赤い花というイメージがありますが、沙羅の花は白く初夏に咲きます。
朝、美しく咲くと、夕方には散ってしまうというような、はかない花です。
平家物語の有名な一節に
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらわす」とあります。
栄華を極めた者も、いつかは必ずその勢いを弱める…朝咲いて夕方には散りゆく、せつなくも美しい沙羅の花に人生の無常観がたとえられています。
この花の特徴は、「散り方」なんです。
花びら1枚1枚が日数をかけて落ちてゆくのではなく、
花ごとボタッと一瞬にして落ちるので、はかなくもその散り方は潔いと言われています。
散り際が美しい「滅びの美学」として愛され、死に様に潔さを求められる武士たちに、とりわけ好まれたそうです。
「散り方」に哲学がある花って、めずらしいですよね。
咲いている時のはかなげでありながら、凛とした気品が好きな方もいれば、
地面いっぱいに沙羅の花が広がる、散った後の美しい光景に魅了される方も多いとか。
どこで見られるかと言うと、私もかつて取材に訪れたことがある京都の「東林院」という小寺です。
実は、通常、非公開の庭園を「沙羅の花を愛でる会」として、毎年6月15日頃から30日まで、公開しています。
「東林院」は、緑豊かな京の洛西の中心地にある妙心寺の塔頭の一つ。
妙心寺には約40ケ寺以上もの塔頭があります。その中でもひと際庭園が美しい、「沙羅双樹の寺」として佇むのがこの小さなお寺です。
塔頭とは、高僧の死後、弟子たちが徳を慕って墓所に建てた別坊のことを指します。
「東林院」は、宿泊できる宿坊も兼ねていて、和尚さま自らが精進料理も振るまってくれます。
ぜひ、この季節にしか見られない沙羅の花の実物をご覧いただきたいですね。
今年は、新型コロナウイルスの感染防止のために、実施されるかどうか、
有無や内容を直接ご確認くださいね。
どんな状況であれ、美しく咲き、力強く散る、沙羅双樹が、
今年も見頃です。