ゴールデンカムイの謎 その8 山の神の髭・サルオガセ
小樽の街と森の結界
サルオガセ
ゴールデンカムイ1巻3話。
前の話でリス捕獲用の罠をかけたアシㇼパと杉元は、いったん山を下りて小樽の街に向かい、私娼窟街で聞き込みをする。だか、傷もあらわなご面相の杉元と、明治後期でアイヌ風俗も和人化していた時期ながら、古式ゆかしい狩り装束のアシㇼパのコンビは嫌でも目立ってしまう。聞き込みを切り上げ、森へ戻る2人。そんな2人を付け狙う不審な男。
彼は2人を追って森へ入っていく。
まだ開拓の手が及ばない、荒れた森。森の深さに恐れをなした男は、「ここでやっちまおうか」と懐からピストルを取り出した…彼の行く手を、倒れたトドマツの大木が通せんぼしている。そのトドマツからは苔の一種が垂れ下がり、「のれん」のように目隠ししている。
その苔の一種は「サルオガセ」と呼ばれる地衣類だ。
アイヌ語では
木の髭
サルオガセは霧が多い、湿気た森林の樹木に付着する苔の一種である。アイヌ語ではニ・レㇰ(木のひげ)と呼ばれ、シㇼコㇿカムイ(大地の神)のヒゲとされていた。神のひげであるからこそ、神聖な物。勝手に取れば叱られる。北海道西部、日高や胆振地方では、めったなことには使われない。熊送りの儀式でクマの口が汚れたとき、きれいに拭う時のみ使用を許される。
北海道西部では神聖な植物
東部では生活雑貨
だが、これは霧の少ない、つまりサルオガセが珍しい気候の北海道西部だからこそ。
毎年初夏ともなれば濃い霧に覆われる北海道東部・釧路、根室地方では、珍しくもなんともない物だった。山の木はもちろん、神社の鳥居、はては家の板壁にすら付着する。そんなわけでありがたみも薄れ、山で用を足した際の後始末、あるいは鍋磨き用のタワシに用いたという。
杉元とアシㇼパが当時根城としたのは、北海道日本海側・小樽市に近い山林。気候を考えればサルオガセは珍しい、神聖な物。
後の展開を見るに、サルオガセは神聖なものとして2人を守護してくれたのだろう。
※参考文献
『コタン生物記Ⅰ 樹木・雑草篇』更科源蔵 法政大学出版局 1976年