ゴールデンカムイの謎 その9 チタタㇷ゚の正しい作り方
ゴールデンカムイ1巻5話
前話、前々話でリスを捕えたアシㇼパは、さっそくさばいて料理に仕立てていく。
皮をはぎ、丸太を輪切りにした肉切り台に載せる。そのまま山刀で叩き刻んでミンチ状にしていく。
数々のグルメシーンが物語のエッセンスとして効いているマンガ・ゴールデンカムイ。
北海道伝統の食文化ながら、いままでほとんど取り上げられていなかった「アイヌ料理」をメジャーにした意味でも意義深いマンガである。
さて、アシㇼパは肉切り台の上でリスを刻んでミンチにする。ゴールデンカムイを通じて有名になった料理「チタタㇷ゚」だ。
チタタㇷ゚とは、直訳すれば「我らが叩いたもの」の意。
ナラの木など硬い材質の木を輪切りにして作った肉切り台「イタタニ」、
直訳すれば「それを叩く木」に載せて丹念に叩き刻む。
硬い材質の木材で作られた肉切り台だが、使い込めば自然とすり減る。
そのためアイヌ語の言い回しでは、背の低い者を「イソンクㇽ・イタタニ」(狩り名人の肉切り台)、
背の高い者を「イペサクㇽ・イタタニ」(狩り下手の肉切り台)と呼ぶ。
アシㇼパも、それをまねた杉元も、イタタニの上でミンチ肉を叩く。
彼女に習い、「チタタプ、チタタプ」と口ずさみながら叩く。
以降マンガの物語世界ではチタタㇷ゚を作るたびにこのセリフが登場する。
敵か味方かわからない緒方も、新選組の生き残りも口ずさむ。
ゴールデンカムイファンのお気に入りの場面
だが、これはマンガ的な設定である。
いにしえのアイヌ民族がチタタㇷ゚を刻むさいに、あえてこの言葉を発することは無かった。
恐らくは作者の野田サトル氏が、参考文献「アイヌの四季」を改めた折、
説明文の一節
「チタタㇷ゚ チタタㇷ゚ というように叩く」
から創作した設定だろう。
だが、実に絵になる光景である。
皆で唱和しながらチタタㇷ゚チタタㇷ゚する。
ドロドロとした人間関係が練り混ぜられて昇華し、滋味が醸し出される。
実に旨いアクセントではなかろうか。
ちなみに参考文献『聞き書き アイヌの食事』によれば、
リスのチタタㇷ゚は味が濃く、少量食べても飽きが来るということだ。
さすがに杉元の消化器官が受け付けないことはないだろうが
※参考文献
『日本の食生活全集48 アイヌの食事』農文協 1992年
『アイヌの四季』計良智子、鍛冶明美 明石書店 1995年