北海道の初夏 エゾハルゼミの歌
6月
本州以南ではその年最初の夏日、真夏日が観測されると同時に一気に梅雨入り。
しとしとと小糠雨に濡れる紫陽花は赤に紫に変化する、風情ありつつもジットリ陰鬱な季節。
一年で一番昼間が長い日の日の出日の入りを拝めたら、それは幸運というものだ。
かたや北海道では1年の中で最良の季節。
午前三時になれば北寄りの東方が白み、白は桃色へ、桃色はオレンジ色に
やがて黄金色に染め上げられたところで、満を持して太陽が姿を現す。
トウモロコシの初々しい苗、その葉脈を一筋一筋照らしながら。
北海道には梅雨がない。
空気は澄み風は湿気に邪魔されることなく軽やかに吹きわたる。まさに水無月。
成層圏からカッと大気を刺し貫く陽光がトドマツ林を照らせばセミが鳴く。
北海道の初夏の風物詩 エゾハルゼミの蝉時雨である。
ただ問題は、その鳴き声だ
「ミーンミーンミーン」
ではない
「ジー」
でもない
「ツクツクボーシ ツクツクボーシ」
でもない
「カナカナカナカナ」
でもない
文字表記では
「ミョーキン ミョーキン ミョーキンミョーケケケケケケケ」
「オーギィー オーギィー オーギィーォキギギギギギギギギ」
など一筋縄ではいかない鳴き方をするセミ
トドマツ林で一匹がオーギィーと鳴きだせば別の個体もオーギィー、
そのまた別の個体もオーギィーとつられてカノン唱法の蝉時雨が林野を覆う。
梅雨のないさわやかな北海道の六月
5月にようやく桜が咲き、
8月の盛夏になってわずか半月程度「海水浴ができる気温」に恵まれる北海道。
それからひと月も過ぎれば、朝晩の気温は10度程度に冷え込みストーブの出番
雪のない季節は貴重だ。
盛夏になれば、北海道であれ独特の「蒸す」ような空気感が支配する日もある。
それとも無縁の、さわやかな初夏
気候は穏やか、空気はさわやか、
そして来る盛夏への期待に満ち溢れた時候。
それが北海道の六月
その象徴こそ、エゾハルゼミ
来る夏への期待を体現しつつ蝉は輪唱する。