金沢21世紀美術館で見えたデジタルテクノロジー×人間×アートの未来
金沢21世紀美術館で「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)-次のインターフェースへ」が開催中です。
デジタルテクノロジーに関連した作品を世界13か国から23組のアーティストや研究者が出展し、アートを楽しむミュージアムとしても実験や体験の場としても興味深い展覧会となっています。
今回、プレスガイダンスにお邪魔して作家さんたちから直接、作品に込められたメッセージをお聞きしました!
まず、展覧会入ってすぐの壁に展示されているのはスプツニ子!さんの映像作品「幸せの四葉のクローバーを探すドローン」です。
ドローンで撮影した東京都内のクローバー群生地の映像と、本来見つけることが難しい四葉のクローバーをAIが容易に見つけ出していく様子を2つのモニターで表しました。
「幸せの四葉のクローバーを探すドローン」について解説するスプツニ子!さん
オーストラリア人アーティストのジョナサン・ザワダさんは絵画と彫刻、コンピューターシステムなどを組み合わせたマルチメディア・インスタレーション作品「Sacrifice, An Act of Permanence(犠牲、永続の行為)」をギャラリールーム全体を使って構築しました。
壁にヒト染色体情報に基づいて描かれた地層の絵画を展示し、絵画を撮影しているウェブカメラからの情報は天井から吊るされたコンピューターに伝達され、変換されていきます。
Jonathan Zawada「Sacrifice, An Act of Permanence」2023
コンピューターの横には亀を模したワックスが何匹も連なっており、一連の作業により発生した熱で溶けて床に新たな地層を作っていく様までが作品となっています。
Jonathan Zawada「Sacrifice, An Act of Permanence」
かつて人は世界が亀の甲羅の上に成り立っていると考えていました。ジョナサン・ザワダさんは作品から、情報の伝達こそが全ての事象の核心であると伝えています。
作品を紹介するジョナサン・ザワダさん
3人組アートユニット「Keiken」のプロジェクト「Morphogenic Angels: Chapter 1(形態形成天使)」 はギャラリールームの壁一面がゲームモニターになっており、プレイヤーとしてゲームの主人公を操作したり円形の浴槽のようなスペースや点在するクッションに座って他人のプレイを観戦したりする、参加型のインスタレーション作品です。
Keiken「Morphogenic Angels: Chapter 1」
1,000年後の未来に人類=天使が先祖や肉体、自然などの意識=エネルギーを取り入れ、自分が何者なのか発見していくストーリーで、美しい映像と居心地のよい空間が印象的です。
Keikenのハナ・オーモリさんは「1時間弱のプレイ時間があるので、ゆっくりと楽しんでほしい」と笑顔を見せました。
Keiken ハナ・オーモリさん(右)
草野絵美さんは日本のファッションを軸とした5つの時代の精神、たとえばたけのこ族の反骨精神や流行った曲、各時代の人が考えた未来感のイメージなどを画像生成AIに学習させたインスタレーションを展示します。
草野絵美さん
男女の記号化された役割などを学習させて描いた作品も面白いものでした。
会場ではQRコードを読み取って草野絵美さんのNFT作品が無料で受け取れます。
円形の展示室ではアメリカを拠点に活動するデイヴィッド・オライリーさんが手掛けたシミュレーションを体感できます。
David OReilly 「Eye of the Dream」
人が音を立てることで3Dオブジェクトが変化していく空間の中に立って、「頭で考えず、『そこにいる』ということを感じてほしい」とデイヴィッド・オライリーさんは言います。
デイヴィッド・オライリーさん(左)
今回の展示会はデジタルと衣食住の関係もテーマになっています。
世界的なウィッグ・アーティストの河野富広さんは、人毛に繊細な彩色を施し、未確認生物のようなイメージで展示しています。
河野富広さんのウィッグ
展示室では河野富広さんのウィッグをヴァーチャルに装着できるARフィルターも体験できます。
わたしも体験してみました!
数あるデザインからどんなウィッグが自分にかぶせられるのか、その姿はどのように変化するのかも楽しめるコーナーです。
河野富広さんのウィッグは、東京大学 池上高志研究室が展示するヒューマノイドAlter(オルタ)3ともコラボレーションしています。
東京大学 池上高志研究室「Alter3」
オートクチュールのウィッグをかぶったAlter3は、哲学者やミュージシャン、10歳の子どもなど6つの人格を与えられ、GPT4を使って会話や表情を学習しています。
Alter3には来場者が気軽に質問したり話しかけたりでき、そのコミュニケーションも経験としてGPT4が自動的にプログラミングし、さらに複雑な動作を覚えていくそう。
Alter3が人間の模倣を超えて共感性を持てるようになるのかという実験も兼ねた、2023年11月24日までの期間限定展示となっています。
無料で鑑賞できるデザインギャラリーではファッションブランド・アンリアレイジが2024年1月8日までデジタルを利用したコレクションショーを展開します。
アンリアレイジ
伊阪柊さんと中村壮志さんからなるMANTLEは、金沢が国内でも最も雷発生率が高い点に着目し、ランダムに雷が落ちることで町の景色や建築物が変化していくシミュレーション「simulation #4 -The Thunderbolt Odyssey-」を長期インスタレーションルームで公開しました。
MANTLE(Shu Isaka+Soshi Nakamura)「simulation #4 -The Thunderbolt Odyssey-」
「雷=電気」の発生にあわせてリアルタイムで変わっていく風景に進化を続けるデジタルを感じつつ、インスタレーションルームの中に立つ避雷針はずっと形が変わっていないものの象徴となっているのもポイントです。
ギャラリーショップでは「デジタルを食べる」が具現化したDXP展オリジナルキャンディー(756円、税込)も販売しています。
DXP展オリジナルキャンディー
出展作品や基盤がキャンディの表面に鮮やかに描かれていて、サイダー味の美味しい「デジタル」になっていました。
ギャラリーショップ前に置かれた自動販売機では、X(Twitter)でおなじみの「認証マーク」をイメージしたバッジが1,000円で購入できます。
松田将英「Souvenir」
通常バージョンは青色ですが、1/100の確率で金沢金箔を使用した金色のバッジが出るとのこと。
本来デジタルでしか手に入れられないものを具現化して購入できるというウィットに富んだ松田将英さんの作品となっています。
デジタルテクノロジーという無機質で感情が伴わないものがテーマの展覧会にあふれていたのは、AIに幸せの四つ葉のクローバーを探させたり共感性を学ばせたり、時代や場所、思考によって変革するスピリットなど、人間の感覚=「感じること」でした。
金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子さんはこれからのデジタルテクノロジーを「伴侶・ともにあるもの・ネイバー」と表現します。
「温度のあるDXを本展で表現した」という長谷川館長の言葉通り、金沢21世紀美術館がみせる人間とアートのデジタルトランスフォーメーションは、遠い遠い未来ではなく明日の私たちにとって親和性を感じるものでした。
【DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ】
会期 2023年10月7日(土)~2024年3月17日(日)
休場日 月曜日(ただし10月9日、30日、1月8日、2月12日は開場)、
10月10日、31日、12月29日~1月1日、1月4日、1月9日、2月13日
開場時間 10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
会場 金沢21世紀美術館 展示室7~14、長期インスタレーションルーム、デザインギャラリーなど
作家数 13カ国23組
料金 一般 1,200円(1,000円) / 大学生 800円(600円) / 小中高生 400円(300円) / 65歳以上の方 1,000円
※( )内は団体料金(20名以上)及びウェブチケット料金
主催 金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
助成 令和5年度文化庁 我が国アートのグローバル展開推進事業
協力 デロイトトーマツグループ、株式会社グリッド、日本航空株式会社、ジャトー株式会社、
ボーズ合同会社、コクヨ株式会社、株式会社中川ケミカル、株式会社PKSHA Technology、
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、ブライトモーメンツ、東京大学池上高志研究室、
ヴーヴ・クリコ
後援 在日オーストラリア大使館、北國新聞社
企画 金沢21世紀美術館 長谷川祐子、髙木遊、原田美緒、杭亦舒、本橋仁
アドバイザー:ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(サーペンタイン・ギャラリーディレクター)