金沢21世紀美術館「コレクション展 2:電気-音」作家たちの実験を聴く
金沢21世紀美術館で収蔵作品を中心に構成する展覧会の後期「コレクション展 2:電気-音」が2023年11月18日から始まっています。
出展するのはコレクション作家2名と招へい作家7名、合計9名の作品全45点。
アシスタント・キュレーターの髙木遊さんは「現代アートを中心に4,000点を超える収蔵品の中で、音だけの作品は現在1点のみ。サウンドアートをテーマにすることは、今後の展示や収集に向けた意義がある」と企画の意図を話します。また、音を再生したり記録したりするうえで密接な関係がある電気は自然的なものであるとし、5つにわけた展示室はとくにテーマや作家を限定せず大らかに音が鑑賞者を包み込むような構成にしたといいます。
全体的には電気と音に向き合うアーティストたちの実験、ならびに実験結果、または実験中といった印象を展示から受け取りました。個人的に気になった作品をいくつかご紹介します。
多くの人がまず始めに足を踏み入れるであろう入口近くの展示室では、招へい作家の涌井智仁さんが設置した、大きなスピーカーを目にします。
作品「MONAURALS / 夜の身体と残酷(あるいは、距離と距離のテクノロジー群に関係したドラマの再構成、または、1300m 後のメッセージの可能性について、つまるところ、せいしは失われなければいけない)」について説明する涌井智仁さん
スピーカーからはフランスの詩人アントナン・アルトー作のラジオドラマ「神の裁きと訣別するため」の音声が再生されており、機器から延びた全長1,300メートルものケーブルは、展示室を抜け出してコレクション展で使用する廊下や各部屋、壁などを伝います。
音源からケーブルが離れれば離れるほどノイズや鑑賞者の動きに影響される音はどのように変化し、最終的に違うスピーカーから私たちの耳にどのようなメッセージとして届けられるのかを表現しています。
また、エチオピア人作家のエリアス・シメさんはゴミとして捨てられたケーブルや機械などのジャンク品を集めて制作した作品「綱渡り」シリーズから、人間とテクノロジーの危うい関係性を訴えます。
エリアス・シメ「綱渡り:音を立てずに 5」
ガラス張りの光庭では、鑑賞者がボタンを押すことで20個のベルが順番に鳴るインタラクティブな田中敦子さんの作品を展示しています。
装置はアクリルの箱に囲まれ、ベルにつながる配線もすべて見せています。本来隠されているはずの配線もすべてみせることで、私たちが見ないようにしているもの、忘れているものが実は繋がっていて、音や情報が伝わっているのだと再認識させてくれます。
田中敦子 作品「ベル」(≪無題「ベル」の習作≫に基づく 金沢21世紀美術館による再制作)
同館のコレクション作品で音楽家・塩見允枝子さんの「イヴェント小品集」も、個性を放っていました。
塩見允枝子「イヴェント小品集」
ガラスケースに展示された小さな紙たちには、パフォーマンスの指示が記載されており、「たとえば二人の演奏家のための音楽1」には「向かい合って立ち 相手の人の目を見つめること 最初 3メートル はなれて (4分間) 次に1メートル はなれて (4分間)・・・」と綴られていきます。
演奏とくると楽器を使った音を瞬発的に連想しますが、何をもって演奏とするか、行動や意識が音となっていくような、実際のパフォーマンスを拝見していないのでイメージだけですが、とてもふくらんでいく作品でした。
電気と音という変わりやすくも不変的な、対極する要素を持った不思議な存在だからこそ、作家それぞれの捉え方や表現も大きく異なり、変化していく。それがきっと私には実験のように感じられたのかもしれません。そして、そんな電気と音を普段当たり前のように受け入れている私たちだけれど、きっと永遠にその本質は理解できないのかもしれない。
「コレクション展 2:電気-音」は2024年5月12日まで。あなたにとって電気とは音とはどんな存在なのか、きっと人によって異なるその答えを見つめてみてください。
コレクション展 2:電気-音
期間:2023年11月18日(土) 〜2024年5月12日(日)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館
展示室1、3~6
料金:一般 450円(360円)
大学生 310円(240円)
小中高生 無料
65歳以上の方 360円
※( )内は団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
休場日:月曜日(ただし1月8日、2月12日は開場)、12月29日〜1月1日、1月4日、1月9日、2月13日、4月30日、5月7日
お問い合わせ:金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800