歌人萩原慎一郎の歌集を完全映画化!「滑走路」11月20日公開
歌人萩原慎一郎の世界
私は短歌が好きで、以前にもクリエイターズ・アイで現代短歌のご紹介をしたことがあります。 今回、32歳で急逝した萩原慎一郎さんの歌集「滑走路」を基にした映画を鑑賞する機会に恵まれました。
萩原さんは口語で日常の一コマを切り取った歌を多く詠んでいます。「等身大」そんな言葉が似合う、生きる苦しみや希望をありのままに表現されています。 萩原さんは1984年生まれ。年齢こそ違えど、同世代の彼の言葉の中には多くの「私」がいました。
何か必死に探す事 恰好悪い事じゃないんだ。暁の方へ(滑走路/萩原慎一郎)
多くの人が彼の短歌の中に自分を重ねたからこそ注目され支持されたのではないでしょうか。
映画「滑走路」
大庭功睦監督、桑村さや香脚本の映画「滑走路」では、萩原さんの短歌の世界を丁寧にすくい上げ映像化されています。 3人の人物の生き方、そして絡み合う人生。
ストーリーの中に萩原さんの短歌を連想するシーンが散りばめられています。 滑走路のように真っ直ぐ伸びた一本道、太陽など周りの情景にも是非注目して観てください。 映像を見た後、歌集「滑走路」を読むのも楽しみ方の一つです。
短歌のような映画
短歌は余白を楽しむものです。 想像力によって何通りにも解釈できる。それぞれの正解が歌の中に存在します。映画「滑走路」も同様に、観る人の想像力でストーリーが完成するように思えました。
このような前置きをした上で間違いを恐れずに書くと、翠と鷹野の対照的な人物像にも深い意味が隠されているような気がします。天野と裕翔も。
萩原さんの歌は陰と陽のコントラストがはっきりしているというか、振り幅が大きいのです。 精神的な不調で生きることに苦しんでいたそうで、苦悩が滲み出ている歌が多くあります。 一方で春風のような優しい雰囲気やどこまでも突き抜けるような希望に満ちた歌もあります。
レインボーブリッジ渡る真昼間の空のきらきら海のきらきら(滑走路/萩原慎一郎)
さらにその上にいじめや非正規雇用、絶望や希望が繊細に絡み合っています。そしてその全てが萩原慎一郎なのです。
最後に
一言で言うと深い作品です。あらゆる要素が絡み合っているので観た人同士で感想を語り合うのも良いと思います。繰り返し観ることで、短歌と映画の重なりに気づく部分も多いでしょう。 歌集「滑走路」を読むと理解が深まりますが、それでも掴みどころが無くふわっとした印象があります。短歌そのものの性質がそうあるように。 クリエイター目線で見ると歌集を見事に映像表現している事に敬意を払わずにはいられません。 そしてSano ibukiさんの歌う主題歌「紙飛行機」の優しい歌声が静かな余韻へ誘います。 萩原さんの生き抜いた滑走路から素晴らしい作品達が羽ばたきました。 萩原さんのいる世界にも届いていますように。