WEB・モバイル2021.10.26

ベストセラー小説待望の映画化!「ボクたちはみんな大人になれなかった」レビュー

東京
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日本文化×デザインあれこれ
いのうえ
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普通が嫌い。そんなサブカル女子かおり(伊藤紗莉)との出会いは、文通だった。
SNSが発達していない1990年代、文通での出会いは珍しい事ではなかった。
主人公佐藤誠(森山未來)の21歳から46歳までの回想録とも言える作品。
佐藤は、原作者燃え殻氏がモデルになっており、ノンフィクションにフィクションを混ぜたストーリーとなっている。

90年代カルチャーからコロナ禍の現在まで

燃え殻氏の経験がベースになっており、日本の90年代半ばから現在までの変遷を楽しむ事ができる。
原宿ラフォーレ、ノストラダムスの大予言、公衆電話etc…。 佐藤と同じ時代を生きた人は懐かしさに心が緩む事だろう。

ノストラダムスの大予言がはずれ、世界は滅亡する事なく、世間と折り合いをつけながら過ごすことになった佐藤と私たち。

現代においては、コロナ禍におけるオンラインミーティングやマスク、飲食店時短営業が描かれている。まさに今である。
映画は完全フィクションであったり、実話でも長い月日が経過した出来事が描かれる事が多い。

本作品は、私たちと佐藤の過ごす「今」が重なっている不思議な作品。
世代の違う人も恋愛の甘酸っぱさや友人との一コマなど誰もが経験する普遍的な感情に自分を重ねるはずである。
私たちと同じ経験を佐藤も経験し、佐藤と同じ経験を私たちも経験している。 これは佐藤の話であり、私たちの話である。それ故に原作はベストセラーとなったのではないだろうか。

青春は音楽と共に

文通を始めた2人の共通点はオザケン(小沢健二)のファン。
オザケンの楽曲が劇中歌として多く登場する。オザケンだけではなく、90年代音楽が好きな人は是非観てほしい。

かおりと過ごす大切な日々には音楽演出が欠かせない。
恋人とのドライブのテーマ曲は?苦しい時、心を奮い立たせてくれた音楽は?
音楽が寄り添ってくれた時期が誰しもあるだろう。本作品は至る所に共感が散りばめられている。

佐藤の歌唱シーンもあるのだが、上手すぎて思わず笑ってしまった。
世代が近い人は一緒に口ずさみたくなる瞬間がきっとあるはず。

自分より好きになった人

洋菓子工場でアルバイトする佐藤にとって、かおりは自分を変えてくれた人だった。 映像業界に転職し、がむしゃらに頑張った日々。
好きな人に認めてほしい。純粋でシンプルな想いが佐藤を動かし続けた。
「大丈夫だよ、君は面白いから。」
その言葉は40代の今でも彼の心に響き続けている。

印象的なのはかおりとのドライブシーン。青春ってこうだよね、と思わずにはいられない。
詩的な表現が多用されている原作の世界観を見事に映像化したシーンである。

優しい朝日に包まれながら、こっちへおいでよと微笑む彼女。
揺れるボブヘアー。ビビッドなTシャツ。世界が鮮やかである。

「大事なのは何処へ行くかでは無い、誰と行くかだよ」

かおりを演じる伊藤紗莉はあどけない顔立ちとは裏腹に、大人びて芯の強そうな声が魅力的である。この人に、この声に「大丈夫」と言って貰えたんだから大丈夫なはずだ。佐藤じゃなくてもそう思えてくる。

初心な20代、忙殺される30代、酸いも甘いも噛み分けた40代。
佐藤誠を演じる森山未來は21歳から46歳までを見事に演じ分けている。

かおりからの手紙を大切に箱にしまうシーン。 そっと割れ物を扱うような仕草に、佐藤の気持ちが凝縮されている。
2人を繋いだ手紙がどれほど大切だった事か。
文通が珍しいものとなった現代でも、好きな人からのメッセージを大切に保存したい気持ちは誰しもあるのではないだろうか。

かおりの気持ち

佐藤にとってかおりとの日々はかけがえのない宝物だった。
40代になった今でも鮮やかな思い出として蘇る。
自分より好きになれた相手。

では、かおりはどうだったのか? かおりと疎遠になった後、同棲していた恵(大島優子)との最後のシーン。
彼女が印象的な問いを投げかける。答えられない佐藤。
佐藤とかおりの最後の日に重なる。
佐藤はどんな気持ちで恵と過ごしたのか。 かおりはどんな気持ちで佐藤と過ごしたのか。

今となってはかおりの気持ちを確かめる事はできない。
かおりがどんな気持ちであったとしても、佐藤にとっては忘れられない思い出として今も心を照らしている。
それで良いのではないか。

あの頃があって現在がある

過去を美しく捉えながらも再び歩き出す佐藤が清々しい。 朝日に包まれた佐藤が、「ふっつーだね」と泣いたように笑う。
森山未來の演技がとにかく繊細で美しい。隣にかおりは居ないけれど、きっと前を向いて歩くのだろう。

普通の佐藤の普通の日々がとても眩しく愛おしい。 私たちの日々もきっとそうなのだと思わせてくれる作品。
私たちの中にも佐藤のようなストーリーが眠っているのかもしれない。
観賞後、あの頃に想いを馳せてみては如何だろうか。青春の音楽と共に。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

 

11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロ サ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&NETFLIX全世界配信開始!

CAST 森山未來 伊藤沙莉 萩原聖人 大島優子 東出昌大 SUMIRE 篠原篤

STAFF 監督:森義仁 脚本:高田亮 原作:燃え殻「ボクたちはみんな大人になれなかった」(新潮社)

 
プロフィール
WEBクリエイター
いのうえ
WEBクリエイター(デザイン/コーディング) サイトリニューアル、デザインの他、企業系大規模サイト、ECサイトの制作・運営などに携わる。fellowsでのセミナー講師経験もあり。 ここでは個人的に情報収集・発信している日本文化とデザインについて紹介していきます。

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