タイムトラベラーはいる。
彼には50年前会ったことがあります。正しくは「彼ら」ですが。
お時間ありましたらお付き合いください。
仕事にケリがつくと私、日帰り温泉に行きます。住まいは東京都のはずれ。
近年は地下の調査技術が発達したのでしょう。掘れば間違いなく湯がお沸く。
おかげで自宅から30分以内で行ける温泉施設が6カ所もあります。
先日もひと仕事終わってお湯に浸かっておりました。そこの自慢は炭酸泉。
平日の昼下がり、窓から差し込む初夏の太陽を浴びながら薄目をあけて
うつらうつらしていると、視界の隅におじいさんが。
小柄で筋張ってて日に焼けている。脂っ気のない肌はスモークチキンのよう。
おじいさんは水風呂にざぶんと浸かり「あ゛゛ーっ、ふうぅぅぅーーーっ!!」
水風呂から上がるとタオルをギュギュッと固く絞ってそれを広げたら
ぱーん! ぱーん! ぱーん!
背中、脇の下、胸板、タオルをヌンチャクみたいに振り回して体を拭きます。
(やるな、じいさん。。)
最後に脚を大きく広げ、前方からタオルを股間に向けて
すぱーん!
(お見事。完璧すぎる昭和スタイル)
おじいさんは「よし!(謎)」と、隅っこの椅子へ移っていきました。
そこで気がつきました。彼には50年前、確かに会ったことがあると。
あれは6歳か7歳の時。自宅の風呂が故障して父に連れられて行ったはじめての銭湯。
そこで彼、そのおじいさんを見たのです。体つき、所作、うなり声、思い出すほどに
脳内で鮮明な映像が再生されます。なにより顔まで一緒。あの「すぱーん! 」も。
おかしい。だってあの時の彼が今目の前にいる彼だとしたら?
当時、子供の目には60歳代に見えました。同一人物なら110歳を超えているはずです。
次第に混乱をはじめる私の頭。そんなわけない。
しかし洗い場へ移動すると混乱にさらに追い打ちをかける人が。
洗い場で歯磨きを終えたらしい隣のおじいさん(前出に対して便宜的にBタイプと呼ぶ)。
シャワーヘッドを口にあてると勢いよくケルヒャーみたいに口内を洗浄。そしてむせる
「ガハっ! げはーっ! 」
間違いない。このBタイプにも昔、会っているぞ。
落ち着け私。とにかく今起こっている現実をまずは受け入れよう。
多摩川をのぞむ展望露天風呂へ。涼しい風で頭を冷やしながら仮説を立てることにします。
QUESTION 1 「同一人物である」として、これはどういうことなのか。
科学では説明がつかない。けれど答えはもちろん「タイムトラベラー」しかありません。
AタイプもBタイプも1970年からやってきたおじいさんなわけです。
受け入れるしかありません。 I say, がんばれ私!
QUESTION 2 なぜ彼らは日帰り温泉にいるのか。
これは比較的容易に仮説を立てることができました。
ヤマザキマリさんの作品で有名な漫画『テルマエ・ロマエ』。
西暦130年代の古代ローマで、主人公のルシウスは浴槽の中で足を取られて
現代の東京にタイムスリップしてしまいます。やがてルシウスは浴場を使った
タイムトラベラーとして古代と現代を意のままに行き来するようになります。
つまりさっきの“彼ら”はお風呂を使って現代の東京へタイムトラベルしてきたわけです。
偉いぞ私! その調子 いい感じ!
QUESTION 3 目的は何?
これはできれば書きたくなかった。でも警鐘として記します、人類の存続のために。
近頃Twitterで、裸で徘徊しているヘンな人が写真に撮られて拡散される時に
「ターミネーターが出た」と言いますよね。
映画『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツェネッガー扮する殺人マシーン
「T-800」が未来から1984年のロサンゼルスに送り込まれてきた時、どんな格好でした?
全裸でしたよね。
映画だと裸のせいで目立ってしまうわけですが浴場ならどうでしょう。みんな裸です。
人目を引くリスクを負うことなくタイムリープを完了できてしまいます。
だとすると、あのおじいさん達の目的って
おや? 誰か来たようだ。今回はこのへんで。