愛おしく残酷な少女の世界。「こちらあみ子」映画レビュー
「おーとーせよ。こちらあみ子。こちらあみ子。おーとーせよ。」
広島の田舎町に暮らす少女あみ子。 学校の授業に参加せず、母の書道教室を覗き見るのが好きなあみ子。のり君の事が大好きなあみ子。風呂に入らず、ボサボサの髪で、裸足で歩くあみ子。
周囲に混ざる事のないあみ子の世界、あみ子の日常を切り取った作品。
変わった子?奔放な子?不思議なあみ子
いつの間にかあみ子の世界に引き込まれていた。
そして、こんな子いたな、と過去の記憶を探りだす自分に気がつく。
あみ子は現実にいる。 あみ子の世界に引き込まれるのは、自分が見た、接したあみ子を思い出すからだろう。
お母さんの様子が変わったのも、お兄ちゃんが不良になったのも、のり君がキレたのも理由がある。
だけどあみ子にはわからない。
あみ子はいつも一人だった。
反応の無いトランシーバーはあみ子の世界のメタファーかもしれない。
あみ子の心の中
あみ子は不思議な子である。
行動が逸脱している上に、表情の変化が乏しいため何を考えているのか分からない。
血まみれになっているのに恐怖を出さない子供は珍しい。
「入院したい」と言ったのは何故?
「どこが気持ち悪いのか教えて欲しい」と懇願したのは何故?
あみ子は察するのが苦手であるが、周囲も彼女の心に寄り添おうとしていない。
互いに一方通行のトランシーバーで訴え続けている。
しかし、その状態こそリアルであり本作品の魅力である。
あみ子に翻弄され疲弊していく周囲。
狂い続ける予定調和。だけど、あり得そうなリアリティ。
正解はわからない
違う常識の中で生きるものが理解し合うのは難しい。
こちらの常識の枠に彼女を押し込めてしまうことはできないだろう。
ラストの父の行動にも賛否が分かれるはずだ。
一般的なレールから解放される事であみ子の人生は輝くのかもしれない。
本作は考える余白が多分にある。
自分が父なら?母なら?兄なら?あみ子なら?どうする、どうしたい?
あみ子の愛おしく残酷な世界。
鑑賞後、心と対話が始まることだろう。
おーとーせよ。
おーとーせよ。
映画『こちらあみ子』
大沢一菜 井浦 新 尾野真千子
監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子(「こちらあみ子」ちくま文庫)
音楽:青葉市子
奥村天晴 大関悠士 橘高亨牧
播田美保 黒木詔子 桐谷紗奈 兼利惇哉 一木良彦
企画・プロデューサー:近藤貴彦 プロデューサー:南部充俊 飯塚香織
撮影・照明:岩永洋 録音:小牧将人 美術:大原清孝 編集:早野 亮
衣裳:纐纈春樹 ヘアメイク:寺沢ルミ 整音:島津未来介 音響効果:勝亦さくら スチール:三木匡宏 助監督:羽生敏博 宣伝:平井万里子
タイトルデザイン:赤松陽構造
協賛:PBU 和光工業 杉本酒店 都北運輸 恵泉グループ famille soin
助成:AFF 文化庁 「ARTS for the future!」補助対象事業
製作:ハーベストフィルム エイゾーラボ アークエンタテインメント TCエンタテインメント 筑摩書房 フューレック
製作プロダクション:ハーベストフィルム エイゾーラボ
配給:アークエンタテインメント
©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ