石ノ森章太郎の隠された名作『さるとびエッちゃん』
少女漫画に連載された
社会派のギャグマンガ
昨今・映画「シン・仮面ライダー」が公開された。
昭和後期。1971年に生まれた戦闘ヒーローは平成を通り越して令和の5年目にも好評を博している。
科学技術の夢にひたる戦後高度経済成長時代に生まれながら、肉体のみで技を繰り出す泥臭い、バッタ面の戦闘ヒーロ。その永続性と先見性が垣間見える。
原作者・石ノ森章太郎の代表作と言えば当「仮面ライダー」以外には「サイボーグ009」、「人造人間キカイダー」「ロボット刑事」など未来技術を駆使したSF作品。
だがそんな石ノ森でも意外なことに「少女ギャグマンガ」も描いているのだ。それが「さるとびエッちゃん」。
都会の朝、登校風景で幕が開ける。
木造校舎、暖房は石炭ストーブ、連載開始時、昭和39年(1964)の生活を予感させる。そんな小学校の4年B組に現れたのは転校生の猿飛エツ子。「みなさん ドンゾ よろスくナ」との自己紹介から察するに東北地方の出身らしいが、「猿飛」の姓から「忍者の子孫では?」と連想するクラスメートたち。奇妙な技を駆使するエッちゃんに圧倒されたクラス一同、いじめっ子も女子グループも優等生らも彼女を味方に引き入れるべく策を弄する。だが、単純に「みんなと仲良くしたい」エッちゃんは自身の路を貫き、忍術とも魔法とも、あるいは最先端の科学技術もつかない技を駆使して、子ども社会、さらには世相に並みいる数々の事件を解決するのだった。
本作品の公開は東京オリンピック開催直前。都内では高速道路建設を筆頭に各地で建設工事が行われていた。作品内でも、他人の庭を平気で突っ切るエッちゃん一行に老夫婦が「ここに高速道路でもできるのかい?」「オリンピックもまぢかいことだし」と会話する場面がある。開発は国破れても美しかった山河を侵食していく。先祖代々の田畑や山林を開発の手から死守する老婆に肩入れするエッちゃん一同だったが、老婆の本心が「あえて反対し、地価を吊り上げる」目論見だったと悟り、術を使っての天罰も忘れない。さらには新興宗教「スットン教」への過度のお布施のために貧乏をかこつ一家のため「教祖」の正体を暴き、マネージャーに色仕掛けで騙され自殺を図った歌手を救うなど、戦後の復興から経済成長期に勃興した「新たな犯罪」への注意喚起として、女性読者にとって意外な教材となったろう。
そして少女誌上の連載ゆえ、シリアスな作品もある。七夕の短冊に、「父さんが海が嫌いになるように」と書きつける少年。彼の父は船長ゆえ、一年の大半は家を空けている。寂しがる母のために、父には船を降りてもらいたい。その折、彼の父が乗る船が難破した。エッちゃんは漂流する船員らをイルカに乗って救い、「船長は責任を取って職を辞した」という形で家に戻し、ハッピーエンドに持ち込むのである。