愛読書と出かける旅
沼津が私を呼んでいます
先日、井上靖の自伝的小説『しろばんば』を読んだとSNSに書いたところ、
80歳近い男性・Hさんから興味深いコメントをいただいた。
「実は『しろばんば』には、私のお隣の亡き奥さまが登場するんです」
えええええ。びっくり。
この女性は、主人公・伊上洪作の同級生として描かれているアキ子である。
『しろばんば』は一時期、「赤い実」というタイトルで中学国語の教科書に一部が掲載されていたから
ご存じの方もいらっしゃるかもしれない。
どんど焼きの日、子どもたちの書き初めが火に投げ入れられるのだが、
アキ子の書き初めに「少年老い易く学成り難し」の文字を見て、
洪作は自分が幼いことを自覚する――そんな場面だ。
さらに、読書会でご一緒している80歳の男性・Mさんに
「こんなコメントをもらって驚きました」と話したところ、
「僕の父は、沼津中学で井上靖と同級生だったよ」とおっしゃったのでますますびっくりした。
井上は『しろばんば』の続編・『夏草冬濤』で沼津中学時代の自分を描いている。
読書、詩歌、スポーツ(水泳)、旅などに目覚め、
少年から青年に成長していく姿は『しろばんば』とはまた違って、おもしろい。
そのなかに、Mさんのお父様もいらっしゃったのだろう。
想像すると楽しい。
こういう偶然が重なると
『しろばんば』の舞台である伊豆、『夏草冬濤』の沼津へ行ってみたくなる。
どちらの作品も長年の愛読書(さらに、続編の『夏の海』もいい)。
何かのきっかけがあってその舞台を眺めに行き、
作品世界をそれまでとは違ったかたちで広げていきたいと思う。
遠藤周作『沈黙』の長崎へ1年に2度
昨年2023年が遠藤周作の生誕100周年だったこともあり、
長崎市にある遠藤周作文学館に行ってきた。
この文学館にはなかなか行くチャンスがなかったのだが、
「生誕100年なら行かねばなるまい」(なんで?)と名古屋から飛行機で日帰り一人旅。
長崎駅から文学館まではバスで約1時間、53もバス停があって「ほんとにこれで着くのか?」と不安になり、
たどり着いた時にはやれやれと思った。
これはもう来ることはないなあとその時は考えた。遠すぎる。
ところが、文学館とその近辺の「潜伏キリシタン関連遺産」を訪ねるツアーが今年5月にあると知り、
「これは行かねばなるまい」(なんで?)と、またしても文学館に出かけていくことに…。
こういうのを「ご縁がある」というのだろう。重なるときは重なるのだ。
ありがたくチャンスを活かして、愛読書・お気に入り作家の理解を深めればいい。
大変な山の中にある潜伏キリシタンの遺跡をガイドしていただき、
文学館では夕陽を見て、とても充実した旅になった。
「本」があるからこそできる旅がある。
マンガでも映画でも音楽でもいい。自分の内面に響く旅になると思う。
秋になったら、芦屋市にある谷崎潤一郎記念館に出かけようと考えている。