彫刻のある庭園
- ARTY FACT LONDON Vol.66
- ARTY FACT LONDON コウヅマノエ
イギリス全国で発生した暴動騒ぎ。家の近所の駅前にあるハイストリートもこの騒ぎにあい、スニーカーのお店が入った建物が全焼してしまいました。 今回の暴動には、ロンドン北部の街トテナムで起こった事件を一旦に、ギャングのみならず一般の若者たちも数多く加わり、ツイッターやブラックベリーなどを介して瞬く間に全国へ広まっていっていきました。死者をも出したこの事件の逮捕者は、これまで2,000人以上にものぼり留置所も満杯とのこと。現在指名手配中の犯人の写真がflicker上で一般公開されたりと、ソーシャルメディアの利害得失を考えさせられる痛ましい事件となってしまいました。
さて、そんな物々しい雰囲気のロンドンを離れて、数年ぶりにパリに行ってきました。 ロンドンからパリへは、時間を選べば値段もお手頃、なんだかんだでユーロスターが一番便利です。新幹線で東京-大阪間を往復するようなものなので、パスポートこそ必要なものの、気軽に小旅行するのにパリはちょうどいい。 そして、パリといえば美術館。というわけで、美術館めぐりに行ってきました。 パリには大小合わせると140以上の美術館があるのだそうですが、ルーヴルやオルセーなどの有名な美術館は、夏の観光シーズン真っただ中のこの時期、チケットを手にするだけでも長い行列…ということで、今回はメジャーどころはスキップし、現代アートの美術館を何カ所かと、たまには彫刻もいいよね!ということで、19世紀を代表する偉大な彫刻家、フランソワ・オーギュスト・ロダンの美術館も、パリで見逃してはいけない美術館のひとつということで「ロダン美術館」を訪れました。
この美術館の最寄り駅であるメトロVarenneのホームに降り立つと、まずはロダンの代表作である「考える人」と「バルザック像」がお出迎えです。 駅から歩いてすぐのところにあるガラス張りのモダンなエントランスがロダン美術館。ロココ様式の美しい建物とのコントラストがとても印象的です。
「考える人」「地獄の門」「カレーの市民」など世界的にも有名なロダンの作品群はもちろんですが、ロダンの彫像が並べられた庭園、これがまたとても素晴らしい。 隅々まで手が行き届いた、平面幾何学式に造りこまれたフランス式の庭園。自然の景観美を追求した、ワイルドなイギリス式庭園とは全く違います。規則正しく植えられた花が咲きみだれ、小さな噴水からこぼれおちる流水の音が聞こえてきます。そんな美しい庭園の中で、明るい太陽の日差しのもとに配置された彫像を眺めるのは、建物の中に展示された作品を鑑賞するのとはまた違った印象です。この庭園への入場は1ユーロなので、天気がよければこの庭を訪れるだけでも十分楽しめます。前庭にある「考える人」像の前では、世界各国から見学に訪れた観光客が彫刻と同じ格好をして記念撮影するために順番待ち。みんな考えることは一緒なんですね…。
作品の多くが展示されているこのロココ様式の美しい館は、ロダンが晩年のほとんどの時間を過ごした場所でもあるそうです。フランス政府ががこの館を買い取ることになった時に、この館を愛してやまなかったロダンは、自分の作品と美術コレクションを寄贈する代わりに、この館を自らの美術館にと申し出たそうです。なんと太っ腹なロダン…。そんな逸話のあるお屋敷の中にあるソファーに腰掛け作品を鑑賞するのも、時間がタイムスリップしたような感じがして、また楽しかったです。
それにしても、ロダンの彫刻作品は筋肉隆々でマッチョな男性の彫像だらけ。ひょっとして??と思ったら、ロダンは、同性愛者であったことでよく知られているミケランジェロの作品に多大な影響を受けていたそう。なるほど…。同性そのものに興味があったわけではなかったようです。
Profile of コウヅマ ノエ
女子美術短期大学卒業後、デザイン事務所勤務。その後、雑誌『エルジャポン』のデザイナーを経て、フリーのグラフィックデザイナーとして様々な雑誌のデザインを手掛ける。2003年に渡英し、ロンドンにあるRavensbourne CollegeでInteractive digital Media の修士号を取得。現在は南ロンドンで様々なプロジェクトに参加しつつ、ロンドン生活を満喫中