「街はドラマで出来ている」
人間その昔から、「開けちゃダメ!」と言われると必ず玉手箱は開けますし、「覗いちゃダメ!」と言われると必ず鶴の姿を見てしまいます。ついこの前まで「外に出ちゃダメ!」と言われ続けたのでその反動もあって出たくなります。街にはずいぶん人が戻ってきました。
毎朝6時半、部屋の窓を開け天気と温度を確かめながら換気をしています。10月になってから開けた途端に冷たい空気が入って来るようになりました。朝7時少し前。僕の部屋のすぐ前の道に1台のハイエースが止まります。するとまもなくどこからなのか7、8人のアフリカ系と思える外国人達が現れます。彼らは必ずハイエースの傍らでタバコを一本吸ってからその車に乗り込みます(※写真①)。そしてギュウギュウ詰めの車は走り去ります。一体彼らはどこへ行くのでしょう。400字以内で簡潔に答えなさいという問いに正解する自信がありません。ついつい犯罪組織やコナン的なことに想像が膨らみますが、案外何でもないただのビジネスマンの通勤なのかもです。いやいや、それはないか。服装がみんなパーカーとかスウェットだもんなぁ。やはり黒の組織かな。
僕の妄想が暴走し始めた7時半、同じ窓から毎朝恒例の「トモちゃんジイちゃんバイバイ大作戦」が聞こえてきます。「トモちゃんバイバーイ!」「おじいちゃんバイバーイ」の声が繰り返し約20回。けっこうな回数です。これは解答に400字は必要ないです。朝、幼稚園か保育園に向かう孫にいつまでも手を振り見送るおじいちゃんの図。さすがに間違いないでしょう。気になって一応外に見に行きました。正解でしたが、ショックなことが一つ。おじいちゃんが若かったのです。 声はおじいちゃんなのにどう見ても50歳以下。僕より断然若いのです。それとトモちゃんのママはきれいでした。写真はやめておきます。
その足で朝ごはんを買いにコンビニへ。サンドウィッチとバームクーヘンと濃いめのカルピスと週刊文春をカゴに入れレジに並ぶと僕の前のお客さんと店員さんが噛み合っていません。お客さんは欧米系のキャリアウーマン、店員さんはアジア系の女子大生風。「フクロ、イリマスカ?」「エッ?ココロ?ナンデスカ?」「フクロ、イリマスカ?」「ココロ?」「フクロ!」が続きました。するとお客さんが急に英語で話し出し店員の彼女も英語で対応、一気に解決したようで二人で楽しそうに笑っています。ほっこりしました。コンビニを出て家に戻る道。僕の前を歩く男性の持ち物に目がいきます(※写真②)。ハッピーターンです!食べながら歩いています。その気持ち、わからんでもないです。あの粉には、ハッピーターンのあの粉にはなにか中毒的なものが混ぜられているに違いないです。僕もときおり無性にハッピーターンが欲しくなりますもん。
コンビニから帰り、朝食を済ませるとリモートワークの開始時間。リモート会議、リモート打ち合わせ、リモート研修、リモート面接、リモート飲み会、リモート送別会、リモート合コン、リモートお見合い、リモート運動会、リモートウエディング、リモートキャバクラ、リモート医療、リモート演奏会、リモート部屋探し・・・もうこのやり方にはすっかり慣れましたし、たとえコロナが終息してもリモートライフは残ることでしょう。すでに今ではお墓参りもリモートでできるそうです。でもなぁ、やっぱり僕は街に出るのが好きなんです。おそらく人間の本能を支配する箇所のどこかに「街へ出よ!」という寺山修司的遺伝子(たとえが古ッ)が組み込まれているのではないでしょうか。夕方、リモート打ち合わせを終え本屋さんに行きました。地下鉄に乗ります。自粛の頃よりはだいぶ増えたとはいえ十分座れます。隣に座った女子高生が鞄をガサゴソしています。スマホを探しているのかなと思っていたら可愛らしい封筒に入った手紙を出して読み始めました。一字一行、目が追っています。そしてマスク越しにも微笑んでいるのがわかります。うれしそうな顔。誰からのどんな手紙かものすごく知りたいけれど、ぐっと我慢して電車を降りました。彼女はまだ読み続けています(写真③)。やっぱり街はステキだなと思いました。
ところで、浦島太郎の原作「御伽草子」には太郎のその後の展開があって彼は鶴になってしまうことはあまり知られていない話はまたの機会に。