昨今の面接について
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.59
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
来年の新卒社員採用のための、面接官をしました。 10月の面接なので、もう、やってくる学生さんたちはいろんな会社の面接を受けてきているようで、なんというか、面接慣れみたいなものが感じられます。 ひと通りのふつうの質問に対して、「ほいきた!」って感じでほぼ完璧な返答が返ってきます。志望動機や自分の長所短所について、こっちが感心するような返答です。面接に対するマニュアル本やインターネットのそういうサイトに、面接想定問答集が詳しく出ていて、毎年更新されている。このご時世に応じた返答の仕方がずいぶん詳しく書いてあったりするのです。今年は特に震災の影響など。 彼らはしっかりとそこで勉強して、徹底的に磨き上げてくる。だけどみんながみんな同じような返答。逆に言うと同じような返答を求める同じような、だめな質問でもあるわけです。
だいたい、そんなやりとりだけでは、つけられる方もそうでしょうが、人物の優劣をつける方だって釈然としません。思うに、1人15分やそこらで、この人と一緒に働いてみたいかどうかを見極めるのは無理なんです。
今年は社長もそう感じていたらしく、なんとかしなきゃということで「裏をかいた質問をしてみよう」となりました。社長は「スマートフォンとふつうの携帯の違いをわかりやすく、この面接官をおじいちゃんだと思って説明してください」と質問するとのこと。「なるほどなあ」と思いました。特にスマートフォンの知識を求めるということではなく、期待するのは、いきなり出くわした想定外のことにどう対処できるかなのです。さすがは、社長です。
社長のチームで面接した学生が、つづけて僕たちのチームで面接されるシステムなので、僕たちは違う質問を考える必要がありました。 それで、「スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの違いを簡単にわかりやすく説明してください」という質問と決めました。スティーブ・ジョブズは亡くなったばっかりで、ずいぶん話題の中心であったので答えやすいとは思ったのですが、まあいいかと。ジョブズとゲイツの違いくらい説明がつくだろう。簡単すぎやしないかと、むしろ少々心配して面接に挑みました。
面接が始まります。最初の人が会議室に入ってきます。「○○大学からきました○○です」、「どうぞ、おかけください。では早速、スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの違いを、ものすごく簡単にわかりやすく説明していただけますか?」。 「ジョブズはマックをつくった人で、ゲイツはウィンドウズをつくった人です」って答えてくれりゃあ御の字なんです。簡単な質問です。これがまた、予想に反して思惑通りに効果を発揮したので、驚いてしまいました。
面接した学生のほとんどが、想定外の面接の流れに動揺してしどろもどろになってしまうのです。ほとんどの人が、まず「え?」と絶句します。「ちょっと待ってください」と言って「う~ん」と考え込んでしまう人。あること無いこと、ちゃんと理解していないのに適当にあわててしゃべる人。(そう言う人には一言「違いますよね」と笑いながら言うともう大変。ちょっとしたパニックになっちゃって)。「ジョブズは少年のような人で、ゲイツは成人した大人のような人です」と答えた人もいました。ニュアンスはわかる。答えを知っているからわかる。だけどそれじゃあ答えになってないでしょ?
恐ろしいほどにちゃんと答えられなくなるのに、文字通り、心底驚きました。 「大丈夫カヨおまえら?」と。 「じゃあいいです」と、にこっと笑い、普通の質問に移るのですが、もう、調子が狂っちゃったのか、アガっちゃってしどろもどろです。初っぱなからちゃんとできなかったことが後悔として面接中に襲いかかってくるのか? もう諦めぎみか? なんとココロの弱いことか。ま、ちょっと意地悪だったのかもしれませんが。
実験的に、その質問を最後に持ってきたケースでは、落ち着いてちゃんと答える人が多かったりもするんですけど。でもやっぱりその時点で調子が狂っちゃうみたいで、以降、ちゃんと答えられません。
これだけ話題になっているのだから、アップルコンピューターの創始者とマイクロソフトの創始者の違いくらい、その考え方の違いも含めて常識として知っておくべきだと思うけど、けっこうみんな知らないんだなあ。 それはさておき、あれだけ平然と普通の面接を進められる精神をもちながら、ものすごく些末な予想外のことに対応できなくなっちゃうんですねえ。言い訳として「想定外」を繰り返したどこかの電力会社の説明みたいに、自分がなっちゃっているのがわかっているんだろうか?
面接は緊張しますね。ふつうの精神状態ではいられない。自分を買ってもらうためのプレゼンをしに来ているのだから、ひとつも失敗したくない。そう思っているのはよくわかります。自分も通った道だからです。 でも、面接官の立場になって考えたら、すぐにわかることがあるんですよ。面接官は一緒に仕事をして楽しそうな人を待っているのです。上手に質疑応答をこなした人が選ばれるわけではありません。
僕は、最近はあまり面接での質疑応答には期待はしていません。ちょっときつい質問をしたら圧迫面接だとか、冗談をいうとセクハラ面接だとかネットに書かれて、それが明るみにでたら面接官をやった人間が首になったりするご時世です。とってもリスキーなのです。面接官に選ばれた人は、面接を始める前に管理部から長々と面接の時にやってはいけないことのレクチャーを受けます。コンプライアンスという枠組みの中での面接で聞けることは限られてくるし、どこに行っても同じような質問だと思うのです。それしかできないのです。それに対して練習してきたことを舞台に立つかのように繰り返しても、他の人より優れているようには、まったく見えないのです。
企業も事前にテーマを与えて作文を提出させるとか、専門業者の試験を購入して性格診断までしたりとか、あの手この手で人物を判定しています。はっきり言うと面接なんかしなくてもいいかもしれない。そう思いながらやってみた変な質問。つくづく思うのは、一緒に仕事をしたい人は一言で言うと、「気の利いた人」だということです。緊張してるかもしれないけど、先頭打者にホームランを打たれたからって初回にノックアウトされるようなピッチャーはいらないんです。ピンチをどうやってくぐり抜けるかが見たい。
大学に入った1年生の時から「就職活動サークル」なるものに入って、面接の練習をしている人たちもいるそうですね。テレビでやっていました。履歴書の写真がほとんど画像処理されているという驚異的な事実。それに飽き足らないとプチ整形手術をしたりするらしい。そんなくだらない技術を磨いてどうするんだ? 学校でも、部活でも、アルバイトでも、恋愛でも、もっと真剣にハードなことをやってこいよ。 真剣にやって傷ついても、立ち直った奴は気の利いた顔をしているものです。少なくともうろたえたりしない。 他人任せにせず、生きていることにこだわって、楽しいことが多い方がいいと思ってそれを求めているような人間。そういう奴は見ればわかる。気の利いた人は気の利いた顔をしているし、あほはあほの顔をしているものです。ぱっと見、気の利いた奴だと判断した人間に、意地悪な質問をしてみて、うろたえなかったら丸をつける。採用試験の面接官なんて、そういうものです。
大学卒業生のうち約40%が、就職が決まらない時代だといいます。 誰が悪くてこんなことになっているのかわかりませんが、世の中のせいにしないことですね。その時代の生き残り方ってのがあるはずですから。情勢は、就職口が学生に開かれていないだけじゃなくて、就業中の人もどんどん追い出されているという点に目を向けてみてください。みんながサバイバル。ある意味野生に帰されているのかもしれない。何のために生きているのかわからない気分にもなるでしょうが、それとこれは別次元です。うまくいかない事実を世の中のせいにしても、結局、「世の中」は自分を含むものなのですから。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV