三姉妹 雲南の子
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.11
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
シアターイメージフォーラムは、イメージフォーラムが運営する映画館で、イメージフォーラムとは、映画や映像関連の活動をする団体です。映画館の運営、出版、映像作家の育成(セミナーなど)や、講演活動などを行っていて、毎年、映画の祭典「イメージフォーラムフェスティバル」を開催しています。
私は大学時代に京都にいたのですが、この京都でも「イメージフォーラムフェスティバル」(学生の中では”イメフォ”と呼んでました)が開催されていて、授業でチケットを買ってもらって見に行っていました。世界各国の新進気鋭の作家が作ったショートフィルムをプログラム化していて、全部見ようと思うと、1週間くらいかかるんじゃないでしょうか。実験的な映像も多く、映画や映像を教える学校では積極的に見せているのかもしれません。
卒業して東京で暮らすようになって、ある日突然、渋谷にイメフォがあるのだと気付きました。渋谷駅東口を出て、宮益坂を青山学院大学の手前くらいまで登りきり、一歩路地に入ったところにあります。コンクリート作りのモダンな小ぢんまりした外観で、映画館とは気付かないかもしれません。 地下と1階に一つずつシアターがあります。座席数は64席と108席。 1階にチケット売り場があるのですが、敷地の半分以上が映画館のスペースにとられていますし、ドアもまあ小さいので、人と肩がぶつかりそうになります。チケットを買って映画館の会場を待とうとすると、当然狭くて入りきらないので、開演前は入り口の外に人が立って待っているような状況になります。ゆっくりとした待合室があって、「娯楽として楽しんでもらう」というよりは「本当に映画好きが集まる場所」といった気位をかんじます。笑
個人的にはそういった導線もふくめ、アカデミックな部分があり、他の映画館とはちょっと雰囲気違うな~と思っていて、定期的にサイトを、何かやってないかな~とチェックしているのですが、その雰囲気が、時には足を運ぶのをやめさせたりします。(学生時代の授業を思い出すから?) やっている映画も様々で、邦画・洋画の新作から、映画監督にフューチャーし、過去の作品をまとめて上映したりします。監督が良く講演にもきていたり。
と、映画館についての前置きが長くなりましたが、ふと「ドキュメンタリーが見たい!」と思い立って、今回、 中国の映画監督・ワン・ビンによる「三姉妹~雲南の子」をやっていたので、イメフォに久々に足を運んでみました。
中国最貧困といわれる雲南省の村・シーヤンタン。高地であるこの村では作物も育たず、豚と羊といった家畜と、ジャガイモだけが命綱となっているようなところで、家々はどこも薄暗く湿っています。 長女・10歳のインイン、次女・6歳のチェンチェン、三女・4歳のフェンフェンの三姉妹は、母親は家を出て行方が分からず、父親は町に出稼ぎにでているため、幼い3人で暮らしています。長女は母親のように、自由きままな下の2人の面倒をみて、叔母の家で遠慮しながらわずかなご飯を食べ、豚や羊の放牧を手伝っています。
一人っ子政策をしている中国で「三姉妹」というタイトルはある意味政治的な意味もあるかもれませんが、高度成長を続ける中国の中で、こんなにも貧富の格差があるのかと思うほどの貧しい生活。それでも三姉妹は支え合い、笑い合い、人間的に力強く生きている姿を伝えてくれます。
全編に渡って、カメラはその3人を静かに見つめ、高地のため、人々が住む山の表面を、吹きすさぶ風がびゅうびゅうと音を立てています。 その中に、3人の少女たちの呼吸音や、物を食べる音、粗末な靴の音が交じり合っていています。 2時間33分という長丁場の中で、その音を聞いているうちに、その息遣いに、 「彼女たちは生きているんだ、過酷な状況の中、力強く生きているんだ」と 観る側に強い印象をもたらしてきます。
今回は地下のスクリーンでの上映。 2時間半、過酷な中国高地にトリップしていたので救われる思いで地上に這い上がりました。 公開したばかりということもあり、座席はほぼ埋まっていましたが、年配の方も多く、みなさんヨタヨタと階段を上がっていきました。 アカデミックな雰囲気の映画館、ぜひ一度お試しください。
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。