ASEANのクリエイティブ産業事情~シンガポール~

Vol.2
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. エージェント/マネージングディレクター
Junya Oishi
大石隼矢

Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.(以下「Fellows Singapore」)の代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。 このコラム掲載のタイミングとしては少し遅いご挨拶となりますが、2021年あけましておめでとうございます。初めてのシンガポールでの年越しは、中華圏の文化とコロナ禍という二つの理由で、大きなイベントもなく静かなものでした。シンガポールの正月は、中国の文化である2月の「旧正月」がメインで、その期間に有給休暇や長期休みを取る方が多くいます。今年は2/12~2/13がそれに当たります。私も年間スケジュールをシンガポールカレンダーに切り替えて活動しています。旧正月で特徴的なのは、真っ赤な色彩と「福」という文字が逆さまになっている飾りで、中国語で「福が逆さまになる」という意味の「福倒了(フー・ダオ・ラ)」が、「福が来る」という意味の「福到了(フー・ダオ・ラ)」と同じ発音だったというのが起源だそうです。

さて2021年最初のコラムは、ASEANのクリエイティブ産業事情~シンガポール~を書きたいと思います。(ここでは映像・音声/マスコミ/ゲーム/広告・デザイン/出版/WEBサービス/ソフトウェア/建築設計をクリエイティブ産業の大分類としています。) 2020年12月現在のシンガポールにおける全事業所数は約53.7万件と言われていて、そのうち「Information & Communications」と「Arts, Entertainment Recreation & Other Services Activities」などのクリエイティブ産業は全体の約16%の約8.5万社がクリエイティブ系企業と言われています。ちなみに日本の全事業所数が550.9万件で、クリエイティブ系企業は全事業所の2.3%の13万件と言われています。都市国家のシンガポールと日本との比較は一概には言えませんが、国の規模に対するクリエイティブ産業の締める割合としては参考になります。

2002年9月にシンガポールの政府機関MCI(Ministry of Communication and Information)がリリースしたCreative Industries Development Strategyの中で、「私たちのビジョンは、シンガポールのクリエイティブエコノミーの成長を推進するために、活気に満ちた持続可能なクリエイティブクラスターを開発することです。」としています。2002年ってすごく早い段階で政府が指針を出しているんですね!今でこそ市街には多くの高層ビルや建造物、マリーナベイサンズに代表されるような豪華なホテルが建っていますが、こちらに20年以上住んでいる方に聞くと「その時代はまだまだ開発が進んでいなかった」というので、第一回で触れたようなシンガポールの徹底さというか計画をすすめる力強さを感じます。 それから約12年後の2014年にBrutus Casaに記載された記事のタイトルは「日本もうかうかしていられない!?シンガポール、最新デザイン事情」と題しており、2014年3月にブギスにできたナショナルデザインセンター、シンガポールデザインウィークの復活開催、そしてパリの国際見本市のアジア版メゾン&オブジェ アジアについて取り上げています。「(国家の)積極的な戦略が功を奏して、世界から熱い視線を浴びています」と付け加えられています。(出典: https://casabrutus.com/design/1631)。ブギスというのはシンガポールの中でも若者の街と言われるような場所で、大型複合施設やセレクトショップ、おしゃれな飲食店も立ち並んでいます。待ち行く人たちの中にはファッションセンスが高い人も多く、前述のシンガポール在歴が長い人たちが「昔は女性もお化粧していなかったし、服装も地味だった」という頃にはイメージできなかったくらい発展してきているのだと思います。

また地理的にはシンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所として多くの世界的企業がブランチを置いています。例えばファッションの世界ではLuis VuittonがリージョナルHQを置いていたり、映像の領域ではウォルトディズニー社、その傘下のルーカスフィルム、ILM、ゲーム分野ではUbisoft社などもスタジオを構えいたり、トップクラスのクリエイティブ企業が2000年代に入りシンガポールを拠点とするようになりました。

一方で私が感じるのは、シンガポール発のクリエイター、といって思いつく人物が多くないところです。日本で20年以上住んできて日本のクリエイティブを肌で感じてきている側としては、まだまだ伸び代があるというか、もっとエッジの利いたクリエイターが出てきても良いのかなと思います。政府戦略を打ち出して20年以上経ち、たしかに街並みや建築物にもクリエイティブさを感じられるようになってきたとはいえ、クリエイティブな文化が発展しているとはいいきれないかもしれません。多くのモノがデジタル化されてきていてIT先進国の仲間入りをしているのは間違いないと思うのですが、もっともっとクリエイターが育ち、需要が高まってもいいんじゃないかと思います。

そんな中で現在コロナ禍のシンガポールでは外国人就労ビザの基準が厳格化されました。政府は国内の企業に対して積極的なシンガポール人の採用を支援しています。これまで多くの海外企業を誘致して多くの人材が流入してきたおかげで、「海外の熟したクリエイティブ文化」がシンガポールにもたらした影響は大きなものですが、ここで少しその流れは止まるのかもしれません。ですが私はこの流れをシンガポール人たち自身の経験やスキルアップにつながることを期待しています。実際に私が来星して以来お受けする人材募集のオーダーの中には、これまでに無かったデジタルデザイナーや映像エディター、デジタルマーケティング職の経歴をもった企画営業といったクリエイティブ人材を求める企業も増えています。

シンガポール国内やASEAN諸国をみても私たちのようなクリエイターに特化した人材紹介エージェントにはまだ出会ったことはありません。こちらに来てから「シンガポールでクリエイターが育つのか?」と懐疑的なコメントをいただくケースもありましたが、今ないだけでこれから増えていくはずだ、と確信を持っています。フェローズが企業とクリエイターの縁を一つ一つ繋いでいった先で、シンガポールやASEAN諸国のクリエイティブが育つ一役を担うことができるはずです。

プロフィール
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. エージェント/マネージングディレクター
大石隼矢
1990年 静岡県焼津市生まれ。小さいころからサッカーに魅了され、日韓ワールドカップで来日したデイビッド・ベッカムの話す英語に衝撃を受け、自分も話せるようになりたい!と大学は外国語大学へ。2010年カナダ・ウエスタンオンタリオ大学へ交換留学。2012年株式会社フェローズ入社。ブロードキャスト・ビジュアルセクション。2020年4月にフェローズ初の海外拠点であるFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.の責任者に就任。
好きなバンドはOasis、最近の趣味はNetflixで英語学習、尊敬する歴史上の人物は吉田松陰と白洲次郎、好きな食べ物はカレーライスとらっきょう、嫌いな食べ物はかぼちゃと大学芋、みずがめ座B型、佐々木希とジェームズディーンと富岡義勇(鬼滅の刃)と同じ誕生日。
Twitter:@junya_oishi

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