今月アメリカはBlack History Month「黒人歴史月間」、TED動画から「アメリカの人種差別」について学ぶ
先月開催された、バイデン大統領の就任式で、一躍脚光を浴びた女性がいました。昨年ハーバード大学を卒業した22歳の若き女性詩人、アマンダ・ゴーマンさん。アマンダさんは、就任式で自作の詩を約6分間に渡り朗読しました。
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Amanda Gorman@amandascgorman – Insragram
先月、2021年1月6日に起こった、トランプ支持者たちによる議事堂襲撃から約2週間後。混乱と緊迫の中で行われた就任式で、アマンダさんは、未来への希望の光を見せてくれました。発表された詩は、あの最悪な出来事があった最中に創られたということですが、その背景があったからこそ、紡ぎ出される一言一言が力強く感じられました。日本語訳されたものがすでにたくさんあるので見られた方も多いとは思いますが、念の為、詩を朗読するアマンダさんの日本語訳動画をシェアします。
【全訳】「私たちが登る丘」 22歳の詩人が大統領就任式で朗読
BBC News Japan – YouTube
詩も素晴らしいものですが、私が注目したのはアマンダさんの圧倒的な存在感。ドレッドヘアをまとめて赤いヘアバンドをアクセントにしたヘアスタイルと鮮やかな黄色いコートがよく似合っていて、アマンダさんの存在をより引き立てていました。
アマンダさんの才能は素晴らしく、彼女のやっていることについて語られるべきであり、彼女の人種について書くべきではないことは十分理解していますが、若い世代でマイノリティである黒人の女性が名誉ある舞台に立って自分を表現する、という場面を見ることができるこの時代に生まれて本当によかったなという気持ちになりました。というのも、最近、私は「ローザ・パークス」というアフリカ系アメリカ人の女性について知る機会があったからです。
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Rosa Parks@official.rosa.parks – Instagram
奴隷制度のあった時代を経て、1960年代前半位までのアメリカの南部では、ジム・クロウ法と言って、公共で白人と黒人が使用できる場所が区切られていた時代がありました。アラバマ州に住むアフリカ系アメリカ人のローザ・パークスが、バス運転手の命令に背いて白人に席を譲ることを拒否し、逮捕された「バス・ボイコット事件」が起こったのが1955年。当時、アラバマ州を始めとしたアメリカ南部で、公共バスは、白人席と黒人席に分かれており、バスが混んで白人が立っていると黒人が席を譲らなければならない習慣があったそうです。
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※上記は逮捕時の写真。
ここで私が賞賛したいのは、この時のローザさんの勇気ある行動です。白人に席を譲ることを拒否したら社会的制裁が待っているという恐怖があったにも関わらず、それにNOと言ったということ。結局、この件では逮捕されましたが後日釈放され、以降、ローザさんは「公民権運動の母」として著名な活動家になっていきます。
今月、アメリカはBlack History Month「黒人歴史月間」を迎えます。「黒人歴史月間」は、アフリカ系アメリカ人が成し遂げた偉業や歴史に敬意を称えるため、毎年2月に制定されているものです。今もなお根強いアフリカ系アメリカ人への人種差別や、Black Lives Matterが世界中で叫ばれる中、今回の「黒人歴史月間」で、改めてアメリカで行われてきた人種差別の歴史を学び、二度と同じようなことが繰り返されることがないよう、後世に伝えていくことが大事ではないかと思います。そこで今回は、「アメリカの人種差別」について、TED動画から動画をいくつかシェアさせて頂ければと思います。
※日本語字幕が必要な方は、設定で日本語字幕をオンにしてください。
The real story of Rosa Parks — and why we need to confront myths about black history | David Ikard
TED – YouTube
アフリカ系アメリカ人の文化研究をしている大学教授、デビッド・イカードさんによる講演。子供が学校から教えられたローザ・パークスの歴史が事実と異なるものだった、その時、彼の取った行動とは?現在では、ほとんどの人々が「人種差別をしてはいけない」という理解はあるけれども、白人と黒人では「人種差別」についての歴史認識が違うという指摘が心に残りました。
How to deconstruct racism, one headline at a time | Baratunde Thurston
TED – YouTube
コメディアン、ライター、活動家として活動するバラトゥンデ・サーストンさんによる講演。コメディアンならではの話術と、ライターならではの話の組み立て方で、「人種差別」という重いテーマにも関わらず、すんなりと聴け、理解がしやすかったです。人種差別はどんな人や所であろうと存在するものだとは思いますが、アメリカで生活するアフリカ系アメリカ人にとって、警察は黒人の方が実力行使に出やすいという事実があり、何もしていなくても犯罪を疑われる可能性が高い、命の危険にも繋がる、という状況を改めて認識しました。だからこその、Black Lives Matterなのだと思います。
An interview with the founders of Black Lives Matter | Alicia Garza, Patrisse Cullors, Opal Tometi
TED – YouTube
Black Lives Matter運動の創始者である女性3人、パトリス・カラーズさん、アリシア・ガーザさん、オパール・トメティさんへのインタビュー形式でのTEDトーク。アメリカだけではなく、世界中にいるアフリカ系アメリカ人が直面している問題と現状、そして、それを解決するために日々取り組んでいる3人に敬意を表したいという気持ちになりました。動画内で「アクションを起こすこと」、「参加すること」が大切だと言っていましたが、これらについて自分ができることは何か考えていきたいと改めて思いました。
3 questions to ask yourself about everything you do | Stacey Abrams
TED – YouTube
日本でも様々なメディアで取り上げられている、ステイシー・エイブラムスさんによる講演。長らく共和党候補が勝利していたジョージア州で、先の大統領選では民主党候補であるバイデン氏が勝利。そのバイデン氏を勝利に導いた立役者がステイシーさんです。2007年から2017年までジョージア州の下院議員を務め、2018年のジョージア州の知事選では、黒人女性初の民主党候補として立候補しています。そんなステイシーさんの「物事を達成するために、自問するべき3つの点」とは?障害や困難を乗り越えるためのヒントが見つかります。
以上、TED動画より、違う職業や性別、立場にいる4人の講演を見て頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
今回のコラムでは「アメリカの黒人への人種差別」について書きましたが、もちろん、人種差別は黒人だけに起こっているものではありません。実際に私もアメリカに来てアジア人差別を感じたことはありますし、日本にも人種差別はあると思います。また、日本に住んでいる日本人にとって「人種差別」は国としての大きな問題にはなっていないですし、Black Lives Matterは、正直遠い国の話という認識の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、やはり必要なのは、黒人ではない私たちが彼らの立場に立って考えてみることだと思います。「もし、日本人というだけで、外出時に警察から怯える生活を強いられるとしたら?」、「その昔、アジア人が、日本人が奴隷対象となっていたら?」と。それだけでも、彼らの受けた怒りや悲しみが少しだけ理解できると思いますし、そういうことをすることが大事だと思います。
また、ローザ・パークスを「人種差別に反対した黒人女性」という歴史認識を持つだけではなく、彼女の立場を自分に置き換えてみてほしいです。もしあなた自身が、会社で、コミュニティで、誰かから不当な扱いを受けた時にNOと言えるかどうか。ローザさんは、逮捕され、社会的制裁を受ける恐怖があったにも関わらず、NOと言いました。あなたは同じ状況で言うことができるでしょうか?
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※ローザさんは1996年、当時のクリントン大統領からPresidential Medal of Freedom賞を受賞。
「人種差別はしてはいけない」と言うことは簡単であり誰もが知っていることですが、このように「自分だったら?」と考えてみると理解度が進むかもしれません。個人的に大切だと考えていることは、アメリカに住み家族がいる私にとっては、アフリカ系アメリカ人の方々の文化や人種差別の問題や歴史について、子供たち、その子供たちにも伝えていく責任があると思います。
冒頭でご紹介したアマンダ・ゴーマンさんは、今月開催されるスーパーボウルのハーフタイムショーに出演するとのこと。また、被選挙権の年齢(35歳以上)を越える2036年の大統領選に出馬したいという意向を持っているそうです。アマンダさんが大統領になるかもしれない?2036年は今よりももっともっと希望溢れる未来であることを期待したいです。
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(参考)